大阪工業大学工学部生命工学科
分子生体機能学研究室
Molecular and Functional Biology Laboratory
Department of Biomedical Engineering, Osaka Institute of Technology

痛みは生理的な警告反応としての機能を担います。一方、癌、糖尿病、慢性炎症、神経損傷に伴う慢性痛は痛み自体が身体に有害な病態をもたらします。このような慢性痛には、通常では痛みと感じない触刺激も痛みとなるアロディニアを伴うことが多いです。そのメカニズムもよく分かっておらず、また、従来の鎮痛薬として用いられるアスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬やモルヒネなどの麻薬性鎮痛薬も効きません。私たちのこれまでの研究で、アロディニアを抑制する神経ペプチドを発見し、ノシスタチンと名付けました。現在は、分子生物学、細胞生物学、遺伝子工学の技術を駆使し、ノシスタチンによるアロディニアの制御メカニズムを解明することで、新しい鎮痛薬や治療法の開発を目指しています。さらに、触刺激などの機械刺激を感受する分子や痛みに伴って発現制御される新規分子の単離にも挑戦しています。痛みは、私たちにとって日常的な身体の反応でありながら、生物学的には未知の世界が多く残されており、探究心をそそられる研究分野です。


神経ペプチドによる疼痛制御機構の解明

ノシスタチン分子模型.jpgノシセプチン/オーファニンFQ(以下、ノシセプチン)は、オピオイド受容体と相同性をもつ受容体のリガンドです。ノシセプチンはオピオイドペプチドと類似の構造をもつが、これまでのオピオイドペプチドが鎮痛作用を示すのとは異なり、投与部位や用量により鎮痛と発痛の両方の作用を示します。一方、ノシスタチンはノシセプチンと同一前駆体タンパク質より産生される神経ペプチドで、疼痛をはじめ記憶・学習、摂食、不安などの中枢性機能に対して抑制作用を示します。最近、ノシスタチンを固定化したナノビーズを用い、脊髄シナプス膜の可溶化画分よりアフィニティ精製によりノシスタチン結合分子を明らかにしました。ノシスタチン結合分子遺伝子欠損マウスを用いた機能解析により疼痛制御との関連を明らかにしています。近年、ノシセプチン受容体アゴニストやアンタゴニストが開発され、疼痛、薬物乱用、パーキンソン病、心疾患、喘息などに対する臨床への試みもなされている。さまざまな疼痛モデルに対するノシスタチンの鎮痛薬としての可能性も探索中です。



機械刺激応答機構の解明

DRG mechnical stimulu.png生物は体内環境のダイナミックな変動や対外環境の物理的な刺激を受けているます。末梢組織の神経終末には痛みを受容する侵害受容器が存在しており、強い機械刺激に主として反応する高閾値侵害受容器と、化学刺激、温度刺激、機械刺激のいずれに対しても反応するポリモダール受容器が存在しています。これまで、化学刺激や温度刺激を受容する分子は数多く同定されていますが、機械刺激受容に関しては、最近Piezo2が触覚刺激を受容することが報告されたが、他の機械刺激に関しては未だ詳細は明らかにされていません。私たちは,感覚神経の後根神経節培養細胞において、強い機械刺激により細胞内Caイオンが上昇することを見いだしています。機械刺激受容分子や細胞内のシグナル伝達系の解析により、機械刺激応答機構を明らかにしています。



疼痛制御にかかわる新規分子の同定

GPCR.pngGタンパク質共役型受容体(GPCR)は細胞膜を7回膜貫通する特徴的な構造をしており、細胞膜受容体の中で最大のファミリーを形成しています。ヒトゲノム解析の結果、700〜1000分子のGPCRが予想されています。半数はにおいの分子を受容し、残り半数のうちリガンドが既知のGPCRは約220分子であり、約120分子はリガンドが不明のオーファン受容体です。バイオインフォマティック解析というデーターベースを駆使した情報科学的手法により疼痛に伴って発現制御されるオーファンGPCRの単離を行っています。