学科紹介:環境工学科 教員LETTER

地球の森林を見守る“鳥の目”

環境工学科 准教授 高山 成 Naru TAKAYAMA

 地球温暖化が人類の存続に重大な影響をおよぼす環境問題とされ、第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)では、先進国、発展途上国が共に温室効果ガスの削減目標を5年ごとに提出・更新する、歴史的と言える合意がなされました。地球大気において最も主要な温室効果ガスは、言うまでもなくCO2ですが、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次報告書によれば、人為起源の温室効果ガスの総排出量のうち76%がCO2で、そのうち65.2%が化石燃料由来、10.8%が森林減少や土地利用変化などによるということです。森林は光合成を介してCO2を吸収し、大量の炭素(C)を固定していますが、森林を伐採したり燃やしたりすると、樹木に固定されていた炭素は再びCO2として大気中に放出されてしまいます。森林破壊の主な原因として、木材・薪炭・入植・道路敷設・焼畑などが挙げられますが、森林の減少・劣化は地球温暖化や砂漠化を助長し、生物多様性を失わせるなど、地球規模の環境問題をさらに悪化させる原因となりうることが分かっています。

 環境工学科が国際PBLプログラムを実施しているインドネシア共和国は、世界8位の森林面積を有し、生物多様性が世界で最も高い国のひとつです。しかし、近年の研究によると、2000年から2012年までの期間、インドネシアでは60,200平方キロメートル以上の森林が失われています。これは九州・四国に大阪府と東京都を加えたより少し大きい面積に相当します。世界には他にも、人為的な要因による森林火災や開発により、これまで樹木に固定されていた大量の炭素が、CO2として放出されてしまっている地域が数多く存在します。しかし、世界の森林地帯はおよそ40億3千万ヘクタールと陸地面積の31%を占めており(世界森林資源評価2010年)、これほど広範囲の森林の状態を地上からモニタリングすることは容易ではありません。そこで人工衛星による“鳥の目”が重要なツールとなってきます。

 人工衛星は大まかに、赤道上の対地同期軌道を地球の自転と同期して周回する「静止軌道衛星」、軌道傾斜角が赤道に対して90度に近い極軌道を周回する「極軌道衛星」の二種類に大別されます。前者は気象衛星や通信衛星などに多く、後者は地球観測衛星に多く採用されます。たとえば、アメリカの地球観測衛星「ランドサット(Landsat)」は、1972年に1号機が打ち上げられて以来、現在の8号に至るまで40年以上に渡り地上観測を続けています。ランドサット衛星は極軌道上を一日に何周も周回しますが、16日ごとに地球上の同じ場所を通過するように計算されています。このように定期的に同じ場所に戻ってくる軌道を「準回帰軌道」と呼び、人工衛星を投入すれば地球上のほとんどすべての場所を、定期的に観測できる利点があります。

 人工衛星には観測目的に応じて様々なセンサ(測定機器)が搭載されています。ランドサット8号の場合、可視から近赤外までの波長別に太陽光の地表面反射率(分光反射)を測定できる光学センサ、対象物の発する赤外線を検知して放射温度を測定可能な熱近赤外センサを搭載しています。植物の葉は緑色の光(波長域)をよく反射するので、われわれの眼には緑に見えます。他方、活性が高いと光合成のために赤色の光をよく吸収し、近赤外域に対しては反射率が高くなります。このような物質による波長別の放射に対する反射率の違いを分光反射特性と呼び、これを利用すれば同じ場所の植生や地表面の状態を、定期的にモニタリングすることが出来る訳です。

 2017年の2月にインドネシアで実施した環境工学科国際PBLの「森林火災」のテーマでは、参加学生はあらかじめランドサット衛星の光学センサの観測データを入手・処理し、調査フィールドの植生の状態を人工衛星による“鳥の目”で確認した上で現地調査に臨みました。また、今回のPBLではUAV(無人航空機)を使用した別の“鳥の目”も併用しました。現地調査による“蟻の目”に加えてこうした“鳥の目”を用いることで、より的確な地表面状態のモニタリングが可能となることを、実感できたことと思います。

図 地球観測衛星 Landsat-8 (ランドサット8号)

図 地球観測衛星 Landsat-8 (ランドサット8号)

図 インドネシア共和国カリマンタン地域における森林火災の様子

図 インドネシア共和国カリマンタン地域における森林火災の様子

図 地理情報システム(GIS)を利用した森林植生調査のための“鳥の目”の例

図 地理情報システム(GIS)を利用した森林植生調査のための“鳥の目”の例


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