学科紹介:環境工学科 教員LETTER

化学エネルギーと発電への膜の活用

環境工学科 教授 宮本 均 Hitoshi MIYAMOTO

[人間,生物と電気]
 いくつかの生物が”未知の不思議な力=実は電気”を発生することは古くから知られていました(例として図−1)。科学的な取り組みは英国の異才キャヴェンディッシュによるシビレエイに関する研究,イタリアのガルヴァーニによるカエルの筋肉に対する電気の影響に関する研究がなされた18世紀末からとされています。しかし,これらの現象の本質的な解明は,20世紀も後半に入って英国のホジキンとハクスレーが,イカの神経軸索と活動電位の研究で,ノーベル医学生理学賞を受賞するまでの長い期間が必要でした。

[イオン選択透過膜の開発と応用]
 20世紀半ばにイオン交換膜が開発されて以来,膜と電気の連携技術は大きく発展し,日本の食卓塩はほぼ全量が海水を膜によって濃縮する方法で製造され,また,公害の原因となる水銀を使用しないイオン交換膜法で,カセイソーダの全量が作られています。さらに,最近では国内2社からイオン交換膜を用いた燃料電池自動車が発売され,ガス会社からは都市ガスから電気を得るエネ・ファームが販売されており,エネ・ファームの累計は20万台に達したことが報道されています。これらはいずれも二酸化炭素の発生量を削減して地球温暖化防止に役立つことが期待されています。

[あらたな分野をめざして]
 ところで,Gibbsエネルギーと呼ばれている化学エネルギーは,元素の結合状態に関係する項と,濃度(圧力)に関わる項で構成され,後者はエントロピーに関係する項となります。海水から真水を作ることはエントロピーを減少させる系なので,エネルギーが必要ですが,逆に濃縮海水と真水があれば,エントロピーの増加に伴ってエネルギーを得ることができ,この発電方法は濃度差発電と呼ばれています。発電に伴って両液は混ざるので真水の濃度は高くなり,高濃度側の濃度は低下します。ここまでが従来の濃度差発電の概念ですが,環境工学科エネルギーシステム研究室では一工夫して,濃度を再生する新しいシステムを開発中です。溶液の濃度変化は熱さえあれば元に戻すことができることは,蒸発を考えるとすぐに分かります。特に溶媒に沸点の低い有機溶媒を使うことで,さらに再生は簡単になります。図−2に発電システムの原理を示しますが,熱を与えるだけで二酸化炭素が発生せず(注),また熱以外にはなにも要らない連続発電システムができることになります。
 このような構想をもとに,過去2年,今後3年の期間を費やして科研費研究を実施中です。発電の原理試験が終了した段階なので(図−3),まだ課題も多く出力も小さいのですが,一つ一つ課題を解決して夢を現実にしたいと考えています。

(注)地熱や太陽熱を熱源とした場合には二酸化炭素の発生量は0となりますが,廃熱の場合,熱を発生させる時に化石燃料を使っている場合が多いので,正確には利用するエネルギー当たりの二酸化炭素の発生量を減少させることになります。なお,投入した熱量に対する発電量の割合は理想熱サイクル効率になります。

図−1 須磨海浜水族園の電気うなぎ

図−1 須磨海浜水族園の電気うなぎ

図−2 再生型濃度差発電システム

図−2 再生型濃度差発電システム

図−3 原理試験用発電セル

図−3 原理試験用発電セル


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