学科紹介:環境工学科 教員LETTER

釣り人から見た大阪湾の水環境

環境工学科 准教授 古崎 康哲 Yasunori KOSAKI

 小学校6年生の時に友人がルアーで魚を釣ったのを見たことをきっかけに、それからずっと釣りをしています。ルアー釣りを手始めに、ヘラブナ、サビキ、吸い込み、投げ釣り、船釣り、磯釣りと、まねごとですがいろいろな釣りを体験しました。そのことがきっかけで水環境に興味を持ち、環境工学の道に進み今に至っています。今も毎週のように大阪湾でも最も奥に位置する舞洲や咲洲などにでかけて黒鯛という魚を狙っています。大阪湾は汚染されているというイメージを持っている方が多いかもしれませんが、夏の一時期をのぞいて水は青く透明です。大阪湾は「茅渟(チヌ)の海」と呼ばれ、昔から好漁場でした。黒鯛はその大阪湾を代表する魚として、チヌと呼ばれています。護岸沿いにカメラを入れると、5mに一匹はチヌが泳いでいます。大阪湾にはほぼ全域にこのチヌが棲息していて、場所によっては20匹くらいが集まって泳いでいるのを見ることもあります。さらに多いのがボラという魚で、これは時々水面をジャンプするのでわかります。このボラが水面一面に無数に泳いでいることがあります。チヌもボラも臭みがあって食用としてはあまり好まれませんので、余計に多いのかもしれません。どちらも比較的汚濁に強い魚として知られていますが、生物資源の豊かな海だと言えます。

 大阪湾の一部は、今でも夏場には底部が貧酸素状態になる場所があり、当学科の駒井先生はその調査をしています。しかし、大阪湾に流れ込む最も大きな河川である淀川は、公害問題が深刻であった頃からは驚くほど良好な水質になっています。当科の演習授業では大阪府のホームページから淀川の水質データをダウンロードして経年変化グラフを作成します。汚濁を表す指標としてBOD(ビーオーディー;生物化学的酸素要求量)がよく使われますが、1970年頃には4mg/Lであったのが、2016年では1mg/Lにまで下がっています。これだけ川がきれいになっていますので、当然海もきれいになっているはずです。釣りをしているとたまにですが、エイが泳いでいることがあります。エイは比較的きれいな海に住んでいますが、多いときには何匹も泳いでいて、壁に付いている貝を食べているようです。最近は川がきれいになりすぎて窒素やリンが少なくなり、瀬戸内海では海苔の生育に影響が出るところもあるそうです。そのようなところでは下水処理を調節して、きれいにしすぎずに放流する時もあるそうです。このように水質は向上していますが、有機物の中でも微生物に分解しにくい有機物であるCOD(シーオーディー;化学的酸素要求量)は大きくは減少していません(※CODには分解しやすい有機物も含みます)。微生物に分解しにくい有機物の由来は工場排水、家庭(薬など)、肥料や農薬、などが考えられ、いずれも人間由来で下水処理場でも完全には取り除けません。現在、これらCODとなる成分の水中での挙動解明や削減についての取り組みが行われています。

 食物連鎖のバランスは複雑で、水をきれいにするだけで魚類の生息数が増えるわけではありません。尼崎の海も、私が中学生の頃の方は大きなサバが釣れていましたが、今ではあまり釣れません。かわりに大量のタチウオが回遊しています。かつてと全く同じになるわけではないと思いますが、大阪湾の水環境改善の取り組みは多くの人の努力によって進められており、今よりさらに水質・生物資源とも豊かになると考えています。近い将来私がボーズ(一匹も釣れないこと)になる日がなくなるほど魚の多い海になることを期待しています。


1:00〜2:00 底にハゼの群れが泳いでいます。
2:40、3:20 スズキ(シーバス)がいます。
4:00〜4:30 チヌが複数泳いでいます。


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