研究室VOICE!

「触る」刺激が痛みと感じるメカニズムの解明 〜鎮痛薬の開発に向けて〜

生命工学科 教授 芦高 恵美子 Emiko ASHITAKA

芦高 恵美子

「触る」ことで痛みを感じますか? おそらく、多くの人は痛みとして感じることはないでしょう。しかし、癌や糖尿病などの病気や神経の損傷に伴って、本来痛みとして感じない軽い触刺激が痛みとして感じることがあります。このような痛みはアロディニアと呼ばれています。人は痛みを感じたときに鎮痛薬を飲みますが、アロディニアには、頭痛などの時に飲む鎮痛薬は残念ながら効果がありません。私たちは、アロディニアがどのようにして起こるのかというメカニズムを解明し、鎮痛薬の開発につなげたいと思って研究を進めています。

アロディニアの発症メカニズム
私たちの研究室では、ペプチドと呼ばれるアミノ酸が数個から十数個連なった短いタンパク質に着目しています。その1つが、ノシセプチンと呼ばれるアミノ酸17個のペプチドです。ノシセプチンを脊髄に投与することによりアロディニアを発症することを明らかにしました。さらに、脊髄の組織を薄くスライスした切片を用いて、どのような細胞や分子がアロディニア発症に関与しているのかを解析しました。痛みをはじめ多くの神経活動には神経細胞が重要な役割を果たしていますが、ノシセプチンは神経細胞の働きを助けるグリア細胞に作用することがわかりました。そのグリア細胞からMCP-1という物質を放出することで神経細胞の活動を活性化し、アロディニアの発症につながることを解明しました。このアロディニア発症の新しいメカニズムの研究は、2016年6月に英国の科学雑誌「European Journal of Neuroscience」に掲載されました。

アロディニアに対する鎮痛薬の開発へ
私たちが着目しているもう1つのペプチドはノシスタチンです。ノシスタチンは、私たちが発見し名前を付けたペプチドで、ノシセプチンによって発症するアロディニアを抑制します。ノシスタチンは、アロディニアだけでなく、組織で炎症が生じた時に起こる痛みにも抑制効果を発揮します。現在は、アロディニアを伴う糖尿病などの病気のモデルマウスを作り、ノシスタチンの鎮痛薬としての可能性を評価しています。さらに、ノシスタチンがどのようにしてアロディニアを抑制するのかというメカニズムの解明に、遺伝子工学や分子細胞生物学の技術を駆使して研究に取り組んでいます。

医薬品の開発は約15年、そこにかかる費用は800億円を超えると言われています。多くのプロセスを必要としますが、私たちの基礎的な研究が最初のステップとなります。今後も、生物のもつ複雑緻密な生命現象や病気のメカニズムを探求し、医薬品、食品、化粧品など様々な分野で健康や生活の質の向上に貢献することを目指していきます。

ノシスタチン分子モデル

ノシスタチン分子モデル

脊髄におけるノシセプチンの活性化

脊髄におけるノシセプチンの活性化


このページの先頭へ


【大宮キャンパス】〒535-8585 大阪市旭区大宮5丁目16-1 工学部事務室:06-6954-4419
Copyright © Osaka Institute of Technology, 2008 All rights reserved.