有機機能化学研究室                    大阪工業大学工学部応用化学科 本文へジャンプ


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Research

大環状ホスト分子の合成と分子認識


 生体系では,有機分子,有機・無機イオンなどの様々な化学種が存在する中で特定の化学種を厳密に識別することによってその生命が維持されている.この生体系において広く見られる分子認識現象としては,酵素反応,遺伝情報の伝達,抗原抗体反応,レセプター反応,イオン輸送などが挙げられる.基質,抗原,薬物,金属イオン,ホルモン,神経伝達物質などを標的ゲストとし,一方,酵素,抗体,レセプター,輸送担体などの生体タンパク質がホストとして作用して特異的なホスト−ゲスト錯体を形成し,さらにこの分子認識過程を鍵段階として,物質の識別,変換,輸送,情報の伝達などの機能が発現する.生体系では,極めて微量のゲストを高感度で識別している点に特徴があり,医学,薬学,農学,工学,理学などの多くの分野において生体内の分子認識現象が注目され,研究対象として取り上げられてきた.その中で,複雑な構造を有する生体分子をそのまま用いるのではなく,特異的な分子認識能を有する新規人工ホスト化合物を開発し,よりシンプルな形で特定の機能の発現を目指す研究が盛んに行われてきている.

 人工ホスト化合物の一つに大環状ポリエーテルであるクラウンエーテルがある.クラウンエーテルは金属イオンや有機低分子に対して高い錯形成能と選択性を示す興味深い化合物である.クラウンエーテルがもつこの分子認識能を高度に利用するためには更なる構造修飾を行い,別の機能を付与する必要がある.我々の研究グループでは早くからクラウンエーテルに対する構造修飾の重要性に着目し,独自の構造をもつ鍵中間体の新規合成法を開発するとともに,新しい機能をもつ各種大環状ホスト分子の設計とその合成を手掛け,この分野の発展に貢献してきた.

 我々の研究グループで蓄積してきた以上の知見を基礎とし,さらに発展させることを目的として,以下のテーマを主として優れた分子認識能をもつ各種新規大環状ホスト分子の開発について検討している.


@キラルクラウンエーテル誘導体の合成とキラル識別

 我々の研究グループでは,ラリアートエーテルの分子設計において,C-ピボット位に電子供与性側鎖およびメチル基を導入することにより,アルカリ金属イオンに対する錯形成能を飛躍的に向上することを見出している.この結果に基づき,不斉中心であるC-ピボット位へのメチル基導入がキラル識別においても効果的に機能することを期待し,多種類のC2対称キラルクラウンエーテルを分子設計し,合成方法を検討したところ,リパーゼ触媒反応を利用してラセミ混合物から光学分割することに成功した.そのなかで,(R, R)-2,12-ビス(ヒドロキシメチル)-2,12-ジメチル-18-クラウン-6については,その誘導体のKI錯体を用いたX線結晶解析により絶対配置の決定に成功した.

  

Muraoka, M.; Ueda, A.; Zhang, W.; Kida, T.; Nakatsuji, Y.; Ikeda, I.; Kanehisa, N.; Kai, Y.
Synthesis and Structure of a New Type of C
2-Symmetric Chiral Crown Ether.
Tetrahedron Lett. 1998, 39(51), 9493-9496.



 また,上記の位置異性体でラセミ混合物であるtrans-2,9-ビス(ヒドロキシメチル)-2,9-ジメチル-18-クラウン-6のリパーゼ触媒アセチル化反応による光学分割や,18-クラウン-6環より小さくクラウン環と側鎖の配位による特異な錯形成が期待できる新規なC2-対称キラル15-クラウン-5型ホスト分子として,ラセミ混合物であるtrans-2,9-ビス(ヒドロキシメチル)-2,9-ジメチル-15-クラウン-5のリパーゼ触媒アセチル化反応による光学分割に成功した.さらにラセミ混合物であるtrans-2,9-ビス(アセトキシメチル)-2,9-ジメチル-15-クラウン-5のリパーゼ触媒加溶媒分解反応に成功した.

    

    

Nakamura, M.; Taniguchi, T.; Ishida, N.; Hayashi, K.; Muraoka, M.; Nakatsuji, Y.
Synthesis of C
2-symmetric chiral crown ethers by lipase-catalyzed reactions.
Tetrahedron
2011, 67(48), 9298-9304.



 上記キラルクラウンエーテルの絶対配置の決定を行うため,絶対配置既知の(S)-2,2,4-トリメチル-1,3-ジオキソラン-4-メタノールをキラルサブユニットとして用い,キラルクラウンエーテルを別途合成し,NMRにおいて,(R)-(+)-1-(1-ナフチル)エチルアミン塩酸塩をシフト試薬として用い,メチルプロトンのシフト変化を比較することにより,18-クラウン-6ジオールラセミ混合物の光学分割後に単離したジアセチル体を加水分解して得られたジオール体の絶対配置を決定した.

   

Nakatsuji, Y.; Nakahara, Y.; Nagamiya, K.; Itoh, Y.; Uesugi, K.; Ishida, N.; Muraoka, M.; Kida, T.; Akashi, M.
Facile Synthesis of C
2-Symmetric Chiral Crown Ethers with Two Reactive Hydroxymethyl Groups. Synthesis 2007, (19), 2973-2978.


A蛍光クラウンエーテル誘導体の合成と蛍光イオンセンサー

 金属イオンに対して選択的に応答する新規蛍光ホスト分子の開発を目的として,複数のピレニルメチル基を側鎖にもつ新規蛍光応答性モノアザラリアートエーテルを合成した.さらにアルカリ金属,アルカリ土類金属イオンに対するアセトニトリル中での蛍光特性を測定し,構造変化をNMRスペクトルで検討した.その結果から,電子供与性側鎖の鎖長の違いは蛍光発光過程に変化を与え,金属イオン応答性を制御できることがわかった.さらに電子供与性側鎖長が長い1bを用いると,血清と同じ成分比に調製したMg2+,Ca2+,Na+,K+ 各イオン共存下でCa2+イオンを高選択的かつ定量的に検出でき,1bがCa2+センサーとして有用であることを明らかにした.

      

Nakatsuji, Y.; Nakahara, Y.; Nagamiya, K.; Itoh, Y.; Uesugi, K.; Ishida, N.; Muraoka, M.; Kida, T.; Akashi, M. Selective fluorometric sensing of calcium cation by C-pivot lariat monoaza-crown ether with two pyrene moieties. Chem. Lett. 2011, 40(11), 1226-1228.