河川・湖・沿岸海岸では人間がさまざまな活動を営むとともに、多くの動植物を育んでいます。淀川・琵琶湖・大阪湾では洪水や風、潮汐などによって流れが生じ、汚染物質や卵から孵化したした稚仔魚などが流れにのって、広がっていきます。本研究室ではコンピュータを使って、構造物の建設や自然条件の変化によって鈴と物質の流れ方や広がりかたがどう変化するかという研究や、これらの水域に生息する生物の調査などを行っています。
 工学部が学ぶ大宮キャンパスの背後を流れる淀川は、大阪市民をはじめとする1300万人もの人々を支え親しまれてきた、近畿で最も重要な河川。綾史郎教授が指導にあたる水圏環境室の研究ターゲットはこの淀川です。すぐ裏にある観測サイトに着くと、緑に囲まれた水たまり、通称湾処(ワンド)が出現します。ワンドとは入江のことで、語源はオランダ語が発祥であるなどいろいろな説があります。「淀川のワンドは、明治初期に張りだし型の堤防がつくられ、その上に砂が溜まって池が自然発生的にできました。淀川には実はたくさんの魚などが棲息しているのですが、とりわけこの周辺には魚や植物が多い。またワンドは、日本では淀川と木曽川にしかありません」と綾教授は説明。「ここにはイタセンパラとアユモドキという、天然記念物の魚が2種も棲息しているのですよ・・・」と学生がワンドの特徴を話します。
 河川に求められる機能は3つあり、洪水や氾濫を防ぐ「治水」、水を農業用水や都市用水に利用する「利水」、そして水に親しむ環境機能としての「親水」があげられます。ワンドに限らず淀川を題材に総合的に河川を理解するため、現場観測とコンピュータを用いた数値実験を行うこの研究室では、淀川の棲息生物の環境を守り、またかつては両立が難しいとされていた治水、利水機能と環境機能の関係を結びつけた新しい河川のあり方を提唱しようとしているのです。「自然環境と調和した河川工学が今、注目を集めています。そのために今度は、ワンドを人工的につくることも考えられます。」と綾教授はいいます。学生からは「河川が増水したときには、学舎の屋上からビデオカメラで川の流れを撮影して、後でそれを解析します。もちろん命懸け(?)で現場の水質も調べに行ったり・・・」と、この研究での苦労話がこぼれます。ダムなどの水利構造物や事業の大切さをこの研究室では教えています。
 4大文明の発祥地に見られるように、河川と人間の関係は長くて深い。そんな母なる川に魅せられた人たちが集まるこの研究室の学生たちは「ウォーターフロント開発などの計画・建設にあたりたい」と土木を志す若者らしい発言もあれば、「子供たちが遊べる親水施設の設計に携わりたい」と話す女子大生も。最終的に社会の基盤を担うまちづくりが目標のひとつである土木工学。なかでも人間がいきていくうえで欠かせない“水”を考える綾教授は「治水、利水、水環境という3つの機能が共存した、ひとつグレードアップしたこれからの河川環境を考えていきたい」と今後の展望を語っています。

 水圏環境研究室に興味を持たれた学生の皆さん。是非1度研究室においで下さい!




ゼミ探訪
(関西私大ジャーナルより)

 河川の治水、利水と環境を考える
淀川の生態系研究もリード

ロケーションにも恵まれて
 綾研究室の名称は「大気圏」に対して「水圏」。あまり馴染みのない言葉だが、「大気圏」の大気を水に置き換えて考えてみれば わかりやすい。つまり、地球表面上で水が占めている部分を指し示す。水といっても、海、河、湖、池など、地球上にはさまざまなかたちで存在するのだか、この水圏環境研究室で主に扱っているのは川。そこで冒頭の「河川の治水、利水と環境を考える」となるわけだ。
 しかし、イメージが今一つ明解にならない。
 地球上はもちろん、日本国内においても、大小合わせると一体どれくらいの河川があるかわからない。研究対象が、河川全般についてなのか、どこか特定の河川についてなのかわからないからだ。
 そこで、ポイントになってくるのが、同大学大宮キャンパスの所在地が、大阪市内の淀川のすぐ川淵ということで、「淀川の治水と利水、環境を考える」のメインテーマなのである。
淀川を題材に河川の研究
 淀川を題材にして、いろんな角度から淀川を理解し、川そのものはもちろん、流域を含めた環境に関してまでというように研究は大きな広がりを持つ。この点で、従来の「河川工学」とは大きく性格を異にする。
 綾教授も「河川工学のどでは、ひとつの側面から河川を研究しますが、いろんな角度からみることはあまりないんです。水圏環境という大きな言葉通り、さまざまな立場から、淀川をみることにより、将来どういう姿にしていったらいいかということを研究していきます」と語る。
 具体的には、まず、淀川がどのように形作られてきたかのかということから始まる。淀川の姿の変遷をたどることによって、過去から現在、未来にわたるまでの治水、利水、環境管理などの諸問題が浮かび上がってくる。そして、河川の流ればかりでなく、河川空間利用、生態系の支持・保存などの研究を通して、将来の川づくりにつなげようとしているのである。
淀川ワンド群とその生態の研究
 淀川の長い歴史のなかでできあがった独特のものに、「ワンド」と呼ばれる止水域、小さな池がある。
 淀川の近代河川工事は一八七三年から始まったが、船運のために、水制工(川の流れの速さや流向を制御するために、川岸から河川の中央に向かって設けられた構造物)を建設するのが主な内容だった。やがて鉄道が河川舟運にとって代わり、河川管理の目的も洪水防御に変わって、水制工の建設はストップした(現在でも水制工は土砂に埋もれて残っている)。
 水は流量の少ない平水時には両岸から突き出た水制工の間を流れるが、洪水時のように流量が増すと、流れは川幅いっぱいに広がり水制群上を流れる。上流から運ばれてきた土砂は流量の遅い水制工の上や間の水域に堆積する。これが繰り返されて、水制間に本流と連結した止水域が形成され、ワンドと呼ばれる淀川独特の景観が誕生したのだ。
 しかし、ワンド内の水質や水の流動など、詳しいことはほとんど解明されていないのが現状だとのこと。
 このワンドは、天然記念物であるイタセンパラをはじめとして、魚類や動植物の宝庫で、淀川の生態系において極めて貴重な生息域となっている。一九七〇年代以降のいくつかの工事によって、現在見られる景観ができたわけだが、そのために、かつて数多くあったワンド群も失われ、現存するのは同大学前の《城北ワンド群》と鳥飼大橋下流の《庭窪ワンド》が主なものとなっている。
 この淀川ワンドの形成と生態学的意義の研究も、大きなテーマの一つになっている。河川環境の整備と保全、将来計画という課題が含まれているだけに、その調査・研究は多岐にわたる。
 たとえば、河川敷で散歩したり、釣りをしたりする人の二十四時間の動向調査などもその一つ。水位や流量、流速といった河川の水そのものの分析だけにとどまらず、河川に関わる人々の動向など、広く環境という立場での研究が大きな特徴だ。
 研究の一環として、イタセンパラの保護に尽力されている綾教授は、保護グループの一員でもあるが、「心から淀川ワンド群の再生を願っている」という。さらに「子どもたちが安全に遊べる河川になってほしい」と、淀川の将来像にも願いを馳せている。
観測で諸問題を掘り起こす
 研究を訪ねたこの日は、ちょうど木津川への下見調査が行われたので同行することにした。ビデオカメラで水面を撮影し、それをコンピュータ解析することで、川の流速分布を求めるのが目的で、それを木津川で行うというもの。当日の観測地点の近くにもやはりイタセンパラの生息域があるとのこと。
 とにかく、このように観測することが多い研究室だが、ここには「理論よりも現地観測」という綾教授の研究信条が存分に生かされており、他の河川工学分野の研究者と一線を画しているところといえる。

 

―学生に聞く―

露口肇さん(当時 修士課程一年)
 研究テーマは「ビデオ画像を使って流量を求めことで、流量の計測をしたり川の流れの挙動をとらえる」ことです。四大文明でもわかるように、川と人とのつながりはとても強く、興味があったので、この研究を始めました。将来は、川を市民生活にマッチさせられる仕事を考えています。
中谷貴史さん(当時 四回生)
 ワンドごとの水位と水温を計り、水質の変化などを調べています。水の研究がしたかったので、綾研究室に入ることにしました。将来は大学院への進学を希望しています。この研究室がいいのは、とにかく自由なところです。

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