研究内容

企業業績に対する社員構成の人工生命的考察

現実社会における企業の行く末は、そこに勤める社員の質によって決まるといっても過言ではない。そのため現在、多くの企業では社員を新しく雇うとき学歴よりもその人の実力や人間性を重視する傾向にある。学歴がよくても実力がなかったり、人間性が悪ければ、企業にとって危険因子になる可能性がある。しかし、学歴が低くても実力があったり人間性が良ければ、将来その人は伸びる可能性がある。また、そういった人間が多く勤めている企業は飛躍的に成長することもありうる。
そこで、我々はその人間性の部分に着目した。企業を占める社員の性格の割合によって企業及び業績はどのように変化するのかを観察するために、社員の性格を企業に貢献するタイプ(A)、貢献しないタイプ(B)の2種類を設定する。その結果、資産だけを見るならば社員全員がAタイプの時が一番多いと推測できる。しかし、働き過ぎは死に至る可能性が高い。従って、そこにBを入れるとどう変化するのか、更に、その割合を増やすとどう変化するのかが興味深い点となる。我々はその点を観察する為に、コンピュータ上に様々な企業をつくりその動向を観察することを本研究のテーマとした。

マルチエージェントシステムによる災害の再現

本研究では地震や津波などの自然災害ではなく人為的災害における被災害者の行動をマルチエージェントシステムを用いて再現する。人為的災害は自然災害と同様、経験から構造物の対策や法整備がおこなわれてきた。しかし万全の対策と思われていた対策が、良そうに反して被害を拡大させてしまったこともある。その原因を調べていううちに物理的な原因ではなく、人間の精神状態が大きく関係し、想定外の行動のために起こったものもある。
今回研究の対象としたのは、ビル火災の教訓として有名で、かつ人為的災害と言わざるを得ない”ホテル・ニュージャパン火災”をモデルに用いる。
火災現場をコンピュータ上で再現し、環境に精神的、肉体的なパラメータを与えた人(エージェント)を配置し振る舞いを検証する。この検証結果を元に人間の行動特性、心理状態、建築物の特性などを実際の火災防止と安全対策に生かすことを目的としている。

マルチエージェントによる座席予約システムの改良

近年、ユビキタスコンピューティング環境の実現に向けて、携帯電話やPDAなどの高性能な小型携帯情報端末が急速に普及してきている。また、場所を選ばずにインターネットにアクセスできるようにする為、高速無線LANサービス(ホットスポット)が整備されて来ている。このような現状においt、携帯情報端末から各種予約(交通機関の座席、ホテル部屋など)がリアルタイムに行われ、空席・空室状況の確認、予約の変更や取り消しなどがインターネット上で出来るようになってる。しかしながら、現在一般的なインターネット上の予約システムでは、予約順に空室位置や部屋が確定される為、後から予約したユーザの希望が反映されにくく、希望を反映させる為の改造が望まれる。そこで、エージェント間交渉によるアプローチが注目されている。
従来の研究ではエージェントを導入し、エージェント同士の交渉によってユーザの希望に沿った座席に再配置し、多くのユーザが満足できる座席配置を見つけるシステムが提案されている。しかし、従来の研究ではある座席を希望してもその評価が上手く反映されていないという問題点がある。そこで、本研究では先に提案されていた手法での問題点をにつけ、その改善に取り組み、よりユーザの希望を反映することができるシステムを提案する。

マルチエージェントシステムを用いた減価貨幣発生過程の解析

現在、市場経済は社会基盤の一つである。その為、土台である市場が不安定になれば、その上に成り立つ社会にも様々な問題が発生する。紛争、テロ、環境破壊、貧困といった問題も、原因の多くは経済的理由による。さらに、市場経済は貨幣システムを中心に成立している。従って、不良貨幣システムの下では、貨幣システムの改善なくして市場経済の活性化は望めない。
貨幣システムは、物々交換経済で「欲求の不一致」や「価値が保存できない」といった不便を取り除く、「交換システム」として発生した。しかし貨幣により財の貯蔵が可能になることで、交換機能よりも貯蔵機能が強くなり、「貨幣循環の停滞」が問題となってきた。
そこで本研究では、貨幣の減価が経済に与える影響を解析し、現行の貨幣システムの問題点を補う新たな貨幣システムを提案することを最終目的とする。今回は、貨幣システムのもっともシンプルな形である、物々交換経済をマルチエージェントシステムによりモデル化する。そのモデルに財の減価機能を投入し、減価が交換に与える影響を解析する。そして、物々交換経済における減価の有効性を検証すると共に、減価貨幣が導入された根拠を考察する。