生命環境学研究室
Laboratory of Bio-Environmental Sciences

大阪工業大学工学部環境工学科

Department of Environmental Engineering, Osaka Institute of Technology


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現在進行中の課題

■ 浄水装置の汚泥に含まれる微生物群集の解析

■ 淀川のプランクトン群集の観察と単離培養

■ LED植物工場における最適な栽培条件の探索

 

現在準備中の課題

■ 生物資源の探索と遺伝的多様性の調査

■ 川上村の森林生態学研究

■ 農村地帯における水の循環利用と生物多様性の調査

■ バイオ燃料化が期待される藻類「緑の原油」の研究

 


■ 浄水装置の汚泥に含まれる微生物群集の解析

微生物の働きには水をきれいに浄化する作用があります。微生物が生育している泥の中に「汚れた水」を通過させると、微生物の活動によって有機物や栄 養塩が取り除かれ、「きれいな水」になります。本研究では、このような浄水装置の心臓部ともいえる微生物の活動を、分子生物学的な手法を使って詳細に解析 します。汚泥から微生物のDNAやRNAを抽出し、塩基配列の情報を集めます。これを解析することで、どのような種類の微生物が存在するのか?また、それ が時間経過にともなってどのように遷移するのか?といった点を明らかにします。浄水装置の改良やメンテナンス方法について、生物学的な観点から新しい提案 を出していくことを目標としています。

   

 


■ 淀川のプランクトン群集の観察と単離培養

 大学から最も近いフィールドである淀川を調査地とし、水域の生物群集についての調査を行っています。特に、水中で浮遊生活をしている微小な生物 (プランクトン)を対象とし、顕微鏡観察、単離培養などに取り組んでいます。単離培養とは、1種類のプランクトンのみを人工培地の中で純粋培養することを 指します。単離培養したプランクトンは以下のような目的を立ててさらに実験を進めていきます。

 プランクトンの増殖速度で水質を判定するバイオアッセイの開発:たとえば、珪藻などの植物プランクトンの増殖速度で水質の富栄養化の程度を評価する、あるいは、ミジンコなどの動物プランクトンの増殖速度で水溶液に含まれる有害な化学物質(たとえば、内分泌撹乱物質)の存在を評価するバイオアッセイの開発につなげていきます。

 アオコの発生メカニズムの研究:植物プランクトンの中には急激に増殖して、水質を悪化させるものがいます。これらを単離培養し、培地の栄養素の組成を変えて増殖速度の変化を調べることで、急激な増殖が起こるメカニズムを生物学的な視点から研究します。

   

写真:淀川の水を採取し、顕微鏡でプランクトンを観察(2011年5月)


■ LED植物工場における最適な栽培条件の探索

 近年、省エネルギーで安定的に食物供給をする手段として、LEDライトと水耕栽培装置を備えたLED植物工場が注目されています。LEDライト は、赤、青、緑などの波長ごとに光の強さを調節できる特徴があります。そのため、植物の成長や形態形成にとって必要な波長域の光だけを照射することで、栽 培の効率化をはかることができます。本研究では、(1)LEDの波長組成や光強度、(2)水耕栽培の養分組成や濃度が、植物の成長速度と形態形成に与える 影響を調べ、「最適な」栽培条件を探索します。

   

写真:LEDと水耕栽培を備えた植物工場システム

 


■ 生物資源の探索と遺伝的多様性の調査

 生物の多様性は、私たちの生活をさまざまな面で豊かにしてきました。数えきれないほど多種類の農作物にはじまり、衣服、医薬品、観賞植物、ペットなど、 私たちの生活は多くの「生物資源」のおかげで成り立っています。本研究では、このような私たちの暮らしを支える生物資源について研究します。具体的にはバ ラ、イチゴ、ツバキなどの園芸植物に着目し、それらの野生種が持つ有用形質(e.g., 四季咲き性、トゲ無し形質、耐寒性、耐暑性など)とその遺伝的多様性を評価する研究を実施します。

     

写真:LED植物工場で育成中の野生四季咲きイチゴ(左)、栽培バラに黄色をもたらしたとされる原種Rosa foetida(八重咲き種)(右)



■ 川上村の森林生態学研究

 大阪工業大学は奈良県川上村と2010年に「連携・協力に関する協定書」を締結しました(詳しくはこちらを どうぞ)。川上村は、日本の三大人工美林として知られている吉野林業発祥の地で、約500年にも及ぶ長い伝統に支えられた林業が進められてきたところで す。それに加え、川上村は、水源地の村でもあります。一級河川である「紀の川」の上流に位置する吉野川の源流部に位置し、天然記念物であるカモシカなどが 生息する広大な天然林が残されています。このような、素晴らしい森林をフィールドとした森林生態学研究を始める予定です。

  具体的には、「間伐をすると、残された木の成長はどのくらい促進されるのか?」という点を定量的に明らかにするため、間伐区と無間伐 区を設置し、木の成長を比較する野外実験を計画しています。この実験の目的は、間伐による適切な森林管理が、二酸化炭素の吸収量増大に寄与することを定量 的に示すことです。そして、そのデータをもとに、環境省が認証する「オフセットクレジット(J-VER」 の獲得を目指します。J-VERの認証を受けることができれば、川上村での間伐という行為を、二酸化炭素の吸収量増大という観点から金銭的な価値に置き換 え、カーボン•オフセットへ活用することが可能となります。大学と川上村との新たな連携関係の構築に向けて、計画案を作成中です。 

   

                                   写真:川上村のスギ人工林(2011年3月)


■ 農村地帯における水の循環利用と生物多様性の調査

 人口の少ない日本の農村地帯では、都会のように集約的で大規模な下水処理施設を整備することが経済的に難しい現状があります。そのため、集落単位 で生活排水を浄化するシステムが必要であり、一般には、浄化槽などの小型の浄水装置がこれを担っています。しかしながら、下水処理場などに比べて、浄化槽 の処理能力は限られているため、浄化が不十分な排水によって、集落周辺の自然環境が汚染される事態がしばしば生じています。このような状況において、本研 究では、農村地域で古くから行われてきた「自然を利用した浄化システム」を再評価するとともに、それが同時に、農村の豊かな生物相を維持する役割を果たし ていることを科学的に示していきたいと考えています。まずは、適当なフィールドを設定し、水の循環利用の様式と、水辺を中心とした生物多様性の実態調査を 行うことから始めていきたいと考えています。

   

写真:生駒山の暗峠に広がる棚田地帯(2011年6月)


■ バイオ燃料化が期待される藻類「緑の原油」の研究

藻類の中には、高濃度で脂質(オイル)を産生するものがおり、これらは「緑の原油」として、将来、石油の代替資源となりうる可能性が指摘されていま す。実際、このような「緑の原油」の実用化に向けて、欧米を中心に大規模な研究プロジェクトが複数動いており、国内でも筑波大学、慶応技術大学、(独)産 業技術総合研究所を中心に研究が進められています。本研究室も、微力ながら、このような研究に参画していきたいと考えており、現在、関連情報を集めるとと もに、研究のスタート地点を模索しているところです。