大阪工業大学 環境カフェトーク

第1回 放射線 : その不安と恩恵と 〜「実例から学ぶ」放射線の常識 〜

 
■ 講師 渡辺 信久 (大阪工業大学 工学部 教授)
 
     島田 洋子 (京都大学大学院 工学研究科 准教授)
 
 
 
■ 日時 2013年 6月 15日
■ 会場 大阪工業大学 うめきたナレッジセンター (グランフロント大阪 タワー C 9階)
■ 参加 15名
 
 
 
■要約■ 放射線 : その不安と恩恵と 〜「実例から学ぶ」放射線の常識〜
 
 

(放射線の発見)

 人類が放射線(らしきもの)をはじめて意識したのは、熱電子(「エジソン効果」が有名)が最初だと思います。電球内の熱せられた電極板から、「マイナス電荷のなにか」が飛び出していることを見つけたのです。その後、エックス線が作り出されます。一方で、電力を加えなくても、自発的に「強いエネルギーのなにか」を放出する物質があることがベクレルによって発見されました。
 

(放射線の効果)

 放射線は「電離効果」を持ちます。たとえば、空気の中を通過するときに、衝突した分子をプラスとマイナスのイオンに分断するのです。簡単な放射線検出器である「GM計数管」は、この原理を使っています。放射線が遺伝子に影響を及ぼすのもこのためです。DNAの複製の時に、「間違ったDNA」を作り出してしまうからです。この「間違ったDNA」の新生物は、ほとんどが死んでしまうのですが、まれに、「スーパー細胞」に突然変異します。これが、がん細胞です。このため「確率的影響」と呼ばれます。
 

(放射線を利用している例)

 放射線の利用で古典的なものは「エックス線撮影」ですが、最近、実用化されている例で顕著なものは「PET検査」です。体内のがんを検査するもので、CTスキャンで「がんが光る」というものです。病院内に放射性同位体(RI)を作り出す加速器を設置し、作りたての放射性元素(陽電子(ポジトロン)を発生する)を含む糖類を合成し、被験者に投与します。がん細胞が糖類を多く取り込むので、ポジトロンと自由電子が放出する電磁波をCTスキャンで読み取る、すなわち「がんの部位が光る」というものです。
 

(加速器とは)

 いま、病院内で放射性同位体を作り出すと言いましたが、エックス線発生器よりもさらに高級な装置である加速器を使えば、放射性元素がなくても、強いエネルギーを作り出すことができるようになりました。これまでの原子力技術は、RIを使って、莫大なエネルギーを得る技術として進歩してきましたが、現在は、電磁気を使って、RIそのものを作り出すことができます。さらに、身近なものになっているのです。
 

(被曝による影響)

 放射線というと、心配なのは、被曝と生体影響です。2011年3月の日本での原子力事故は衝撃ではありましたが、公衆の被曝という観点からは、1960年代の米ソ冷戦時代の大気圏核実験による影響のほうが、はるかに強かったのです。現在50歳前後の人が生まれた時期のことです。しかし、だからといって、その世代以上のがんなどが増えている事実は見あたりません。大丈夫といっているのではなく、それ以上に、自然から受ける被曝が、意外と大きいのです。アメリカでは、建物や土壌から放出されるラドンによる肺がんの発生を減らそうと、公衆向けパンフレットを作成しています。天然ラドンによる肺がんの発生は、全肺がんの10%前後であると計算されています。すなわち、公衆に対しては、事故などによる被曝より、自然被曝が結構大きく、「正しく恐れる」ためには、相応の知識が必要なことがわかるのです。
 

■ まとめ ■

 放射線は、利用されはじめて、100年くらいが経ちました。加速器の進歩によって放射性同位体がなくても、電磁気的に作り出すことができる時代に入り、大変有用で取り扱いやすく、身近な存在になっています。被曝が気になるところですが、過去の核実験による被曝がかなり大きく、公衆を対象とすれば、2011年の事故に起因するそれは、大きくないことがわかります。それより、日常的に、自然に浴びている放射線が、意外と大きく(「肺がん死の1割は自然放射線に起因する」と計算される)、それにかき消されている状態なのだと思います。こういう知識を持つことで、放射線と上手につきあうことが大切です。
 
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