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廃棄物処理における元素の挙動に関する研究

 

廃棄物の衛生的な処理として、焼却・埋立は、継続されてきました。「生命活動で形成された有機物を無機化・安定化して土に還す」自然のプロセスを、人為的に加速して利用していると考えることができます。

しかし、必ずしも、焼却は安定化をもたらすだけではなく、金属類の移動性を高めたり、新たな有機ハロゲン化合物の生成をもたらしたり、注意しなければならないことが起こっていることがわかってきました。

ここでは、ごみ焼却を舞台としての、元素の挙動に着目しての研究について述べます。

 
ごみ焼却とは
都市ごみ焼却における重金属のマスバランス
ごみの組成分析
ごみ焼却における金属類と塩素の反応
焼却灰について
 

ごみ焼却とは

 
石炭や木材などの燃焼と違って、ごみには、多量の灰分と水分が入っています。ですから、ごみを燃焼すると、排ガス(乾燥ガスと水蒸気)とともに、多くの灰が発生し、一部は、排ガスと一緒に飛ぶので、「飛灰」もしくは「ばいじん」と言われます。
 
飛灰には、焼却炉内でいったん揮発してから、冷やされていくうちに凝縮した成分が入っていて、多くの場合、有害な重金属類が濃縮されています。しかし、すべての重金属類が飛灰に移行するわけではなくて、主灰と飛灰の両方に分配されます。
 
焼却のマスバランスとは、その名の通り、焼却される前のごみの姿と、その後の物質収支をつなげることです。「生活残渣の行方を調べること」です。
 
 
 
 
 
 
 

 

都市ごみ焼却における重金属のマスバランス

 
都市ごみの焼却施設は、最近は、小学校社会科の見学コースの定番になってきました。「排ガスをきれいにする技術」が説明されることが多いですが、「そのあと、どうなるん?」という素朴な疑問を口にする子が少なくありません。
 
灰は、残ります。排水も出ます。その全体像(マスバランス)を調べようとすると、意外と、調査が大変です。焼却施設の運転記録の閲覧、ごみ組成分析、灰の乾燥・ふるい分け分析などをします。下の図は、得られたデータの一例です。
 
 
灰・排ガスのサンプリングの様子を見たい?
 
それぞれの試料の分析をすれば、都市ごみ焼却での重金属のマスバランスがわかります。
 
表 2カ所の都市ごみ焼却処理工場でそれぞれ3回ずつ調査を行った結果
元素

 
ごみ1トンあたりの存在量(g/t) 飛灰への移行量(g/t)
 
主灰への移行量(g/t)
 
洗煙排水への移行量(g/t)
 
ヒ素 (As)
 
0.89 〜 0.93
 
0.40〜0.44
 
0.48〜0.49
 
0.000〜0.006
アンチモン (Sb) 30 〜 44
 
14.5〜22.1
 
7.5 〜 29.8
 
0.002〜0.4
 
鉛 (Pb) 231〜342 84.7 〜93.6 137 〜256 0.0 〜 1.6
 
このデータは、1990年代の大阪市のものですので、時代やごみの収集区分で変動します。
 
 
 

このテーマに関連した論文等

 
Watanabe,N. Inoue,S. and Ito,H.(1999)Mass balance of arsenic and antimony in municipal waste incinerators, J. Mater. Cycles. Waste Manag., Vol.1, 38-47
 
渡辺信久・井上三郎・福永勲(2000)都市ごみ焼却処理場での鉛のマスバランス,生活衛生, Vol. 44(4), 171-174
 
Watanabe,N. Inoue,S. and Ito,H.(1999)Antimony in municipal waste, Chemosphere, Vol.39, 1689-1698

 

 

 

 

 

 

ごみの組成分析

 
紙類やプラスチック類がごみの中にどれだけ入っているかを調べることをいいます。それぞれの重量%(物理組成)や体積%を定期的に調べることは、とても重要です。それに加えて、ごみ処理・処分をするときには、水分・灰分・可燃分別の組成(工業分析もしくは三成分)、元素分析、発熱量などの情報も必要です。
 
考え方はこうです。各物理組成項目(図中で、可燃物1、2... 不燃物1、2....)それぞれが、可燃分・灰分・水分を持っており、それぞれを縦方向に合計したものが、ごみ全体の、可燃分・灰分・水分です。
ごみ組成分析のスライド(pdf、10MB)を見たい?
 
 
ごみ組成分析は、しばしば、収集形態や、人口構成との関連で、重量%(湿ベース)の詳細な調査が行われます。一方で、発熱量、工業分析、元素分析値などは、各物理組成項目ごとに「目安値」があります。それらを適用して、ごみ全体の性状を推定することができます。
 
とくに、ごみ中の塩素は、ごみ焼却時のダイオキシン類や金属類の挙動に大きく影響する重要な要素なので、詳しく調べています。
 
ただし、これらの「目安値」は、時代や社会の状況で変化しますので、定期的な再確認が必要です。
 
 
 

このテーマに関連した論文等

 
Watanabe N (2008) General concept of waste matrix and relating empirical value to collect reliable data. The 4th Expert Meeting on Solid Waste Management in Asia and Pacific Islands(SWAPI), 2008Jul16-18, Yokohama
 
Watanabe,N.and Ito,H.(1997) Analysis of waste for combustion: the case of Osaka City, Japan, Resource Conserv. Recycl., Vol.20, 57-69
 
渡辺信久(2000)ごみの三成分,発熱量および元素組成について, 廃棄物学会誌, Vol. 11(6),411-416
 
渡辺 信久・谷川 昇・石川千晶・山本 実・前 弘・篠原明義・松江 努・佐藤 茂夫・及川 智・河村清史(2001)ごみ中塩素計測法に関する検討, 廃棄物学会誌, Vol. 12(1), 60-66
 
Watanabe N., Takatsuki H. and Mizutani S.(2002)An overview of municipal solid waste analysis: estimation of proximate composition, elemental analysis and heat value from physical composition, Proceedings of Seminar on Appropriate Waste Management for Establishing Zero Discharge System, JSPS-VCC Seminar in Kyoto, 2002Oct 24 - 25, Kyoto, pp.43-56
 
Watanabe N., Tanikawa N., Oikawa T. and Fukuyama J.(2003)Improved quartz furnace method for chlorine and sulfur determination in municipal solid waste, J. Mater. Cycles. Waste Manag., Vol.5, 69-76
 
Watanabe N, Yamamoto O, Sakai M, Fukuyama J(2004) Combustible and incombustible speciation of Cl and S in various components of municipal solid waste, Waste Management 24 (2004) 623- 632
 
 
 
 
 
 
 

ごみ焼却における金属類と塩素の反応

 
「ごみ焼却は、人類がはじめて経験した『塩と金属の混合熱化学系』です。1980年代から1990頃にかけて、焼却から発生するダイオキシン類の量が調べられ、その中で、「ごみ燃焼」が、もっとも効率よくダイオキシン類を生成するという事実は、人々を驚かせました。
 
そのもっと前から、飛灰中の金属濃度が高いことから、「金属が燃焼で蒸発し、排ガス中で凝縮する」メカニズムが存在すると考えられてきました。金属が塩素化物になると飽和蒸気圧が高くなるので、「金属は塩素化物になって蒸発する」と説明されてきました。
 
しかし、「塩素化物で蒸発した金属が、なぜ、飛び続けることができないのだろう?」という疑問にこたえるためには、もう少し、説明が必要です。「金属が塩素化されるために、焼却面で強い塩素化作用があって、塩素化物として蒸発したあとは、雰囲気に比べて著しく不安定になり、凝縮する」というものです。
 
絵で表してみました。金属が塩素化されるということは、焼却面で、多くの活性な塩素が存在しているからです。金属は、その多くの塩素につれられて、蒸発します。しかし、ガス中では、塩素はもっと魅力的な相手(たとえば水蒸気)と手を結び、薄情にも、金属を手放してしまいます。
 
すると、「焼却面での『「活性な塩素』を、誰がもたらすのか」が重要なポイントになります。今から100年以上前に、Weldonは、「ソルベー法の廃棄物CaCl2から、塩素を取り戻す方法」として、土や砂と混ぜ合わせて、空気中で加熱すると、塩素ガスが得られることを述べています。ちょうど、台所ごみを加熱するのに似ています。塩化カルシウムとして、なりをひそめていた塩素が、砂(SiO2)にカルシウムが取り込まれると同時に本領を発揮するというものです。
 
 
 
 
塩化カルシウムより塩化マグネシウムのほうが、さらに、強い塩素化活性を発揮することを、Weldonは見いだしています。
 
金属の塩素化による揮発だけではなく、ダイオキシン類の生成にも、類似のメカニズムが働いていると考えられます。2006年現在、ポリ塩化ビニルのような有機塩素も、食塩も、ダイオキシン類の生成に同程度に寄与することが、広く認められています。
 
火を使い、塩を必要とする人間は、ダイオキシン類から、完全に逃れるとはできないのかもしれません。廃棄物やリスクとの共存を、納得して受け入れることが必要だと考えるのです。
 
 

このテーマに関連した論文等

 
渡辺信久(2007) 人類が初めて経験する「金属−塩素共存燃焼系」におけるプラスチック類-経緯・科学・今後の方向性- 第31回 先端繊維素材研究委員会・関西繊維加工講演会, 2007Nov16, 京都 スライド
 
Watanabe,N. Inoue,S. and Ito,H.(1999)Mass balance of arsenic and antimony in municipal waste incinerators, J. Mater. Cycles. Waste Manag., Vol.1, 38-47
 
Watanabe N. Inoue S. and Ito H.(2000)Chlorine promotes antimony volatilization in municipal waste incineration, J. Mater. Cycles. Waste Manag., Vol. 2, 10-15
 
渡辺信久(2000)都市ごみ焼却処理工場でのPCDD/PCDFs生成のメカニズムと塩素源に関する考察, 環境技術, Vol. 29, 325-328
 
渡辺信久・井上三郎・福永勲(2001)都市ごみ焼却システムでのヒ素の揮発・凝縮メカニズムに関する熱力学的考察, 環境衛生工学研究, Vol 15(4), 16-24
 
以下のものは学会発表ですが渡辺が重要と考えているものです。
 
川畑義広・渡辺信久: 塩素含有プラスチックを焼却した際の排ガス中有機塩素に及ぼす燃焼速度・酸素濃度・燃焼温度の影響, 第19回 環境化学討論会(2010 Jun 21-23, 中部大学, 講演論文集 346-347 テキスト
 
 
 
渡辺信久・井上三郎・伊藤尚夫(1997) 都市ごみ焼却処理におけるアンチモンの挙動-熱力学的考察-, 京都大学環境衛生工学研究会 第19回 シンポジウム(1997 Jul 24-25, 京都), 環境衛生工学研究, Vol.11(3), 42-47
 
渡辺信久・井上三郎・伊藤尚夫(1998)焼却処理場での有機塩素化合物の生成に際しての金属類による塩素輸送に関する熱力学的考察, 第9回廃棄物学会研究発表会(1998 Oct 27-29, 名古屋), 講演論文集 687-689 full_pdf
 
渡辺信久(2001)排ガス中の塩素分析にまつわる失敗の数々, 京都大学環境衛生工学研究会 第23回 シンポジウム(2001 Jul 17-18, 京都), 環境衛生工学研究, Vol. 15(3), 43-47
 
 
 

焼却灰について

 
 
湯麗君・渡辺信久: 重金属固定化処理の安定性に及ぼす雰囲気の影響, 第10回 環境技術学会 研究発表会 (2010 Sep 10 龍谷大学 深草) 100-101 テキスト
 
Yifei Sun, Nobuhisa Watanabe, Wei Qiao, Xingbao Gao, Wei Wang and Tianle Zhu: Polysulfide as a novel chemical agent to solidify/stabilize lead in fly ash from municipal solid waste incineration, Chemosphere, 81, 120-126(2010)
 
湯麗君・渡辺信久・長野良啓・岸田修一: 浸漬法と混練法による重金属固定化薬剤の性能評価, 第19回 環境化学討論会(2010 Jun 21-23, 中部大学, 講演論文集 838ー839 テキスト
 
渡辺信久・湯麗君・長野良啓・岸田修一: 溶出試験におけるろ過操作およびキレート樹脂濃縮操作での重金属類の回収率の検討, 第19回 環境化学討論会(2010 Jun 21-23, 中部大学, 講演論文集 840ー841 テキスト
 
 
渡辺信久・孫軼斐・石川宗孝: 多硫化物薬剤の焼却灰重金属固定化剤としての応用, 第19回廃棄物学会研究発表会 (2008 Nov19-Nov 21,京都) 講演論文集 615-617 テキスト ppt
 
渡辺信久・湯麗君・中西幸司: 無機硫黄系重金属固定化剤の反応メカニズムに関する理論的考察, 第20 回廃棄物資源循環学会研究発表会(2009 Sep 17‐19, 名古屋) 講演論文集545‐546 テキスト
 
 
湯麗君・渡辺信久・中西幸司: 無機硫黄系重金属固定化剤の硫化水素ガスの発生とORPに関する実験的考察, 第20 回廃棄物資源循環学会研究発表会(2009 Sep 17‐19, 名古屋) 講演論文集547‐548 テキスト
 
湯麗君・渡辺信久・中西幸司: 多硫化物薬剤を利用した都市ごみ焼却灰の安定化について, 第9回 環境技術学会 研究発表会 (2009 Sep 11 大阪府大) 99- 100 テキスト