知的財産権の行使に関する不正競争防止法2条1項15号の考察-裁判例の変遷と「総合判断説」の再検討

矢ヶ崎 郁雄

不正競争防止法2条1項15号の趣旨は、信用毀損行為の放置による信用の維持・形成意欲の減退防止にある。従来、権利行使前に通常考慮すべき要件の充足性で過失の違法性を阻却する、過失論で15号該当性が判断された。平成10年代に、諸般の事情を総合的に判断して違法性を阻却する、総合判断説が採用された。同説は、妥当性高い判決を下し得る一方、判断基準が明確でなく、判決の予測可能性を低下させ、信用毀損行為の放置を招き得る。本稿では、違法性阻却判断の際、まず過失論を判断し、これを覆す事情の有無を総合的に判断するという判断の修正を試みた。これは、判決の予測可能性を向上させ、かつ妥当性の高い判決を下し得ると考える。