先使用の要件論とピタバスタチンカルシウム医薬事件に関する考察

知的財産研究科修了生

発明の同一性を巡って、数値限定発明に関する事案である平成29年(ネ)10090号事件に注目が集まっている。本事案は数値限定発明に関する事案であり、本件発明2は「固形製剤の水分含量が1.5~2.9質量%である」である。本来なら証拠不十分として先使用権を否定できたにも関わらず、裁判所は、先使用権者側が本件発明2と同じ意識を持って水分含量を管理していたことを求めた。特許発明は明細書等から技術的思想を抽出するが、先使用発明の技術的思想の抽出は非常に困難であり、その外延を無理に明確にしようとすると、先使用権者側と特許権者側との公平を図る先使用権の趣旨からも不当となってしまう。技術的思想に自覚的な管理を求めた本事案は否定的な意見が多数であり、上告受理申立てがされている今後の動向に注目したい。