Imura Lab

大阪工業大学 知的財産学部 英語教育研究室

読書ノート

The Outsider: The Life and Work of Lafcadio Hearn
Steve Kem(2023 Tuttle)

著者は米国ラフカディオ・ハーン協会会長で、もとシンシナティ・エンクワイアリー新聞の記者であったスティーヴ・ケム氏。シンシナティ・エンクワイアリー社は、かつてラフカディオ・ハーンが新聞記者として文章修業をした新聞社だ。ラフカディオ・ハーン(1850-1904)は生涯旅人だった。イオニア海に浮かぶレフカダ島でアイルランド人の父とギリシャ人の母の間に生まれ、2歳の時にダブリンへ移住するが、両親はほどなく離婚し、父方の大叔母サラ・ブレナンに育てられた。一時はフランスの神学校でも学ぶが、厳格なカトリック教育をハーンは嫌い、それはまた大叔母を失望させることになり、19歳でサラの手を離れて単身渡米する。その後オハイオ州シンシナティで貧しい生活を続けながら、幸運にも新聞記者として職を得、ニューオリンズ、マルティニークと移り住み、1890年に来日(39歳)してのちは亡くなるまで14年間日本で暮らした。しかし日本でも居所は松江、熊本、神戸、東京と転々とし、最も愛した松江で暮らした期間は僅か1年数か月に過ぎない。それでもハーンが最も愛し、終の棲家としたかったのは八雲立つ出雲の国であり、宍道湖の朝霧が煙る松江の町であった。(2024/3/15)
          

What is Life?
Paule Nurse(2021 David Fickling Books)

「生命とは何か」という問は永遠の謎だが、ワトソンとクリックによる遺伝子構造の発見以来飛躍的に発達した分子生物学は、この謎の核心に迫りつつある。著者のポール・ナースは遺伝子学者で、細胞周期を制御する遺伝子の発見で2001年度ノーベル・生理学賞を受賞。英国王立協会会長。そのポールナースによる生命の定義は以下の通り。
① 自然淘汰によって進化する能力をもつこと。(The ability to evolve through natural selection.)
② 周りから仕切られた物理的な存在であり、しかも周りの環境と物質や情報の伝達を行うこと。(Life forms are bounded physical entities. They are separated from, but in communication with, their environments. think we can rely only on the tools of the traditional natural sciences to get there. We will have to)
③ 化学的・物理的・情報装置であること。(Living entities are physical, chemical, informational machines.)(2023/12/15)
          

Rethinking Consciousness
Michael S.A. Granziano(2006 Norton)

Rethinking Consciousness 著者はプリンストン大学教授(心理学・神経科学)。意識とは何か、意識を作り出すことが出来るか、意識を機械に埋め込むことは可能かといった問題に対して、神経科学の先端の研究知見を紹介している。答えは可能性としてYES。著者が標榜する Attention Schema Theory によれば、人間の脳は、ある一定の情報に注意を向けることで、必要最小限のリソースから、非常に効率的に情報を処理している。たとえば、眼で見えているのは前方の、しかも焦点の当たっているごく一部のエリアであるにもかかわらず、我々は自分が今いる場所の全体を把握しているように感じる。この「注意を向ける」ということが「意識(≒メタ認知)」と非常に大きな関わりを持っていると考えられている。ただ意識をプログラムできたとして、それが永遠に生き続けるようなことになればどんな世界になるのだろうか。亡くなった愛する人と対話ができるのは嬉しいことかも知れないが、ヒトラーやスターリンの意識が生き続けるのはぞっとしない。(2022/9/15)
          

Flamingo Boy
Michael Morpurgo(2018 Harper Colling)

Flamingo Boy 美しい物語。舞台は、ナチスが侵攻してきた第二次世界大戦中のフランス。ロマの少女(ロマはヨーロッパに住む遊牧民族で、ジプシーとも呼ばれる)は、家族が経営するカルーセル(メリーゴーランド)で、普通に話すことはできないが動物、特にフラミンゴとコミュニケーションができる少年に出会う。この家族がいかに愛と信頼で困難な時期を共に乗り越えていくかが描かれている。また、この家族を救ってくれるドイツ兵との信頼関係も心を揺さぶる。暖かい涙がこみあげてくる作品。(2022/7/15)
          

Unbeaten Tracks in Japan
Isabella Bird(1880 /2006 Stone Bridge Press)

Unbeaten Track in Japan イギリスの女性探検家イザベラ・バード(1831-1904)は、1878年(明治11年)に日本を訪れ、通訳の伊藤鶴吉を伴って3ヵ月にわたる「みちのく探検旅行」を行った。明治維新からまだ10年しか経っていない当時の日本、道路も十分整備されていない中、馬と荷車を使っての辺境の旅は苦難の連続だったと思う。それにつけてもバードの博学と観察眼には驚かされる。当時ヴィクトリア女王の大英帝国は開国後間もない日本に駐日大使ハリー・パークス、通訳官アーネスト・サトウらを送り込み、外交交渉を有利に進めようとしていた。そのような状況の中で、バードがもたらした日本の未開地の情報は大変貴重なものであったと思う。(2021/9/15)
          

Homo Deus: A Brief History of Tomorrow
Yuval Noah Harari(2016 Vintage)

Homo Deus Homo Sapiens(賢い人間)から Homo Deus(神になる人間)へ。ッ情報工学が生物学と結びついて生命工学が誕生してから、ヒトが神になる道を歩み始めた。遺伝子を操作し、生命現象をコントロールする。コロナウィルスに対抗するために開発されたワクチンも、従来のものとは違って、遺伝子を操作したRNAを人体に接種して、自ら抗体を作り出させるようにしたものだ。これは人体改造が容易にできるようになることを意味しているのではないか。(2021/3/15)
          

Sapiens: A Brief History of Humankind
Yuval Noah Harari(2015 Vintage)

Sapience 現代におけるイザヤ書(旧約聖書の3大預言書の1つで、人間のご傲慢に対する批判を含む)か。著者のユヴァル・ノア・ハラリは、ヘブライ大学の歴史学教授。Noahというミドルネームも象徴的だ。農業革命、産業革命、情報革命を経てホモ・サピエンスは進化を続けてきた。「知」によってあらゆる事象を「解決可能な問題」と捉える人類の進化は「止メラレナイ・止マラナイ」。この先にあるのはどんな世界か?死なない(amortal)人間、サイボーグ(cyborg)、心を持つ機械?(2021/1/15)

Factfulness
Hans Rosling(2018 Flatiron Books)

Flow ミハイ・チクセントミハイ(1934-)はハンガリー出身の心理学者。シカゴ大学教授。「フロー」というのは何かに夢中になっている没我状態(三昧)のこと。ある意味で人間が一番幸せな状態であると言える。何事をするにも、あれやこれやと余計なことを考えないで、1つのことに集中し、今この瞬間を楽しむこと。Yoga の思想にも通じる。(2020/12/15)

Factfulness
Hans Rosling(2018 Flatiron Books)

FACTFULNESS スェーデン出身の医師であり統計学者であるハンス・ロスリング(1948-2017)が、人がいかに固定観念に囚われているかを説いた書。たしかに歴史の教科書もどんどん塗り替えられているのに、いまだに昔中学や高校で習ったことを史実として信じている場合が多いと思う。また、誤った思い込みの常識でものごとが判断されていく社会に危惧も感じる。天国からコロナウィルスの広がりをバブルチャートで見ながら、ロスリング氏はいったい何を思っているだろう。(2020/11/15)

Critical Thinking
Jonathan Harber(2020 The MIT Press)

CRITICAL THINKING 21世紀スキルの1つに数えられる批判的思考であるが、これをいかに教育するかについては、デューイ(John Dewey, 1859-1952)の時代からプラグマティズムの潮流の中で議論されてきた。しかし、たとえば数学や論理学で学ぶ演繹的思考や、帰納的思考が、必ずしも実際的な問題解決や意思決定、または実践的なコミュニケーションに自然に転嫁(transfer)されることはあまりないようである。であれば批判的思考というものはかなり明示的に教授するか、あるいは武道における修行のような形で体得させる以外にないのだろうか?(2020/10/15)

SAY It Like Obama
Shel Leanne(2009 Mc Graw Hill)

SAY IT LIKE OBAMA オバマ大統領の数々の名スピーチのレトリックを分析した書。ただテクニックだけでは人の心を動かすことはできない。2016年5月27日の広島訪問での演説は強く印象に残っている。
"Seventy-one years ago, on a bright cloudless morning, death fell from the sky and the world was changed. A flash of light and a wall of fire destroyed a city and demonstrated that mankind possessed the means to destroy itself."(2020/9/15)

The New First Dictionary of Cultural Literacy
E.D.Hirsch, Jr.(2004 Mariner Books)

アメリカの小学生対象の一般常識辞典。ことわざやイディオムなど言葉に関する一般常識から、科学技術、歴史、文化、芸術、生命、環境など多岐にわたる。小学生対象とはいえ、豊富な文化知識を英語とともに学べる。(2020/4/15)

How to Deliver A TED Talk
Jeremy Donovan(2013 McGraw Hill)

TEDの優れたプレゼンテーションの実例をもとに、プレゼンテーション技法について解説した23章。(2020/3/15)

Seriously... I'm Kidding
Ellen Degeneres(2012 Grand Central Publishing)

カンボジア、アンコールワットの旅(2/3-8)の帰り、シャムリアップ空港の売店で買った本。アメリカの有名女性コメディアンのユーモラスなエッセイ集。笑いを届けられるひとの人生は豊富だとつくづく思う。(2020/2/15)

Talk Like TED
Carmine Gallo(2014 St. Martin's Press)

TED選りすぐりのプレゼンテーションの実例に基づいて、効果的なプレゼンテーションの手法を、3つのカテゴリー・9つのシークレットにまとめたもの。1. Emotional (① Unleash the Master Within ② Master the Art of Storytelling ③ Have a Conversation) 2. Novel (④ Teach Me Something New ⑤ Deliver Jaw-Dropping Moments ⑥ Lighten Up) 3. Memorable (⑦ Stick to the 18-Minute Rule ⑧ Paint a Mental Picture with Multisensory Experiences ⑨ Stay in Your Lane) 。(2020/1/15)

Generation Z Goes to College
Maxwell Maltz  (2018 Tim Duggan Books)

インターネットが既に普及した 1995 年以降に生まれた若者たちはZ世代と呼ばれ、彼ら多くはデジタルネィティブであり、スマホを使いこなし、様々なメディアを通じて情報にアクセスする術を身につけている。そんな彼らが大学に入学してきている今日、いったい大学はどのような教育を彼らに提供することができるのかを問う。(2019/12/20)

Children's Encycropedia
(2004 Scolastic)

英語圏の小学生用百科事典700ページ。夏休みをかけて読み通す。小学生対象とはいえ、内容は豊富。世界は広く、文化は深い。(2019/9/20)

Ida B
Katherine Hannigan  (2004 Greenwillow)

Ida Bはちょっと変わった女の子。(2019/8/20)

Psycho-Cyberetics
Maxwell Maltz  (1960 Tim Duggan Books)

自己啓発書の古典。会社勤めの頃に1度読んで以来再び開かれるまで30年間、じっと本棚で待ってくれていた。紙は黄ばんで、表紙のボール紙はボロボロと剥がれ落おちてくる。でも改めて読んでみて、心の救いの書であると思った。「怖れ」や「不安」との向き合い方、心を集中させて今を生きること、negative を契機に positive に切り替えることなど、幸せに生きるための心の持ちようが満載。(2019/2/20)

Fear
Bob Woodward  (2018 Simon & Shuster)

ワシントンポスト編集主幹、ボブ・ウッドワードの著作。ボブ・ウッドワードは政府の圧力に屈せずに、ウォーターゲート事件を追求したことで有名。映画ペンタゴンペーパーズ(The Post, 2017)でトム・ハンクスが演じたワシントンポスト編集主幹ベン・ブラドリーの姿が重なる。トランプ政権誕生までのいきさつや、その後の解任劇、ホワイトハウスでの日常などが延々と語られる。それにしても swear word の多いこと。(2019/1/20)

The Death of Truth
Michiko Kakutani  (2018 Tim Duggan Books)

ニューヨークタイムズ文芸評論家、角谷美智子さんの著作。トランプ政権に象徴されるポピュリズム批判。「民主主義」の危険性について気づかされる。大衆が信じる現実(subjective reality)を操作すれば、多数決の論理で独裁政治も生まれ得るということ。(2018/10/20)

Chicken Soup for the Soul
Jack Canfield / Mark Victor Hansen  (2012 CSS)

チキンスープ(またはチキンヌードルスープ)と言えば、日本なら風邪を引いたときに食べさせられるたまご粥のようなものだが、それにちなんで心の滋養になるような話を集めたもの。ちょっと説教臭いものもあるが、Bobsyの話は何度読んでも涙が止まらない。消防士になりたいという男の子の夢が、白血病で亡くなる前に叶う。その夢を叶えてくれたお母さんと消防隊長と消防隊員のやさしさ。(2018/9/20)

A Prison Diary ― Vol.ⅠHell
Jeffrey Archer  (2002 Macmillan)

A Prison Diary Vol.Ⅰ Hell 政治的なスキャンダルから投獄されることになったイギリスの有名作家Jeffrey Archerが服役中(2001-2003)に記した獄中記の第一弾。イギリスの監獄制度(Category "A" to "D")や犯罪に関する専門用語(Lifer: 無期刑囚/GBH:Griebvous Bodily Harm 暴行で重傷を負わせること)などがたくさん出てきて面白い。Diaryなので日ごとに読めばいいペースで読める。獄中記といえばこれまでに安部譲二の『堀の中の懲りない面々』(文芸春秋社)や佐藤優の『獄中記』(岩波現代文庫)を読んだが、転んでもただでは起きないという点では「懲りない面々」というのは作家たち自身じゃないかと思う。(2018/4/20)

Never Let Me Go
Kazuo Ishiguro  (2005 Vintage Books)

Never Let Me Go  一度途中で投げ出していたが、著者が昨年ノーベル文学賞を受賞したので再挑戦。書店では「TOEIC600点レベルから」のラベルが貼られているが、なかなか読みづらかった。主人公 Kathyの語りで、淡々と日常生活のディテールが綴られていくが、つい集中力が途切れてだらだらと字面だけを追ってしまう。ただその淡々とした語りの背後にあるのはクローン社会というぞっとする仮想現実。Kathy は carer として、donerとなって死んでゆく親友たちの最期を看取っていく。Fictionは事実を超えて真実を伝える。(2018/2/15)

Have a Little Faith
Mitch Albom (2014 Hachette Books)

Have a Little Faith  ユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教。根は繋っているのになぜ争いが絶えないのか?同じキリスト教でもカトリックとプロテスタントの対立がある。これはあるユダヤ教のラビ(rabbi)と黒人のキリスト教牧師(reverend)についての実話。教派を越えた「救い」への願いと、信仰への献身を感じる。また黒人牧師の前身は drug dealer。アメリカ版悪人正機説。(2017/12/15)

So Far from the Bamboo Grove
Yoko Kawashima (1993 Yearing)

So Far from the Bamboo Grove  これは朝鮮半島の北部で敗戦を迎えた日本の家族の物語。以前に読んだ時は素直に感動したが、今回 Year of Impossible Goodbyes を読んだ後に読み直してみると、複雑な思いが残る。反日感情が高まる中、母子3人はやはり命がけで38度線を越えて南へ逃れ、さらに釜山港から引き揚げ船に乗って日本へと脱出するが、帰国した彼女らを待っていたのは悲惨な現実。京都の駅中で暮らしながら学校へ通い、いじめに耐え、飢えに耐え、母は死に、姉妹2人に...(2017/11/15)

Year of Impossible Goodbyes
Sook Nyul Choi (1986 Harper Trophy)

Year of Impossible Goodbyes 日本が韓国を併合(Japan's Annexation of Korea)したのは1910年(明治43)。以来1945年の敗戦まで35年間にわたって日本は韓国を占領支配し、日本語の使用を強要し、皇国教育を行い、太平洋戦争の軍需物資の生産労働に韓国の市民を隷従させた。その日本が戦争に負け、ようやく自由が訪れることを期待したのも束の間、北にはロシアが侵攻してきた。これは朝鮮動乱の中、北から命がけで38度線を越えて南に逃れた母子3人の物語。(2017/10/15)

The Picture of Dorian Grai
Oscar Wilde (1890/2003 Penguin Classics)

The Picture of Dorian Gray 長らく書棚に眠っていたが、アイルランド熱がさめやらぬ間に読むことにした。ナルシストの主人公がある日「肖像画の方が歳をとればいい」と願ったことが現実になる。その後ドリアンは放蕩三昧のふしだらな生活を続けるが、自身の若さと美貌が変わらない一方で、肖像画の表情は醜く変貌していく。社会生活におけるモラルが強く意識された時代(ヴィクトリア朝)にあって、奇抜な衣装を着て奔放に生き、やがて同性愛をめぐる事件で社会から追放されることになる唯美主義者オスカー・ワールド。奇しくもその没年(1900年)はヴィクトリア女王(1991年)とほぼ重なる。(2017/9/20)

Fairy Tales of Ireand
W.B. Yeats(2015 Harper Collins)

Fairy Tales of Ireland アイルランドの詩人イェーツが1888~1892年頃に発表した童話の中からの選集。アイルランドは妖精の国として知られており、今でも田舎の道路わきには"Fairy Crossing"という標識が立つところがあると言う。イェーツのインスピレーションも、子どもの頃の妖精体験によるものか。それにしてもアイルランドがかくも世界的に影響力のある作家(Jonathan Swift, Oscar Wild, W.B. Yeats, James Joice, Samuel Beckett, George Bernard Shaw)を生み続けてきたのは、いかなる風土によるものか?ケルトの神話文化か、搾取の歴史に対する反骨精神か?(2017/8/20)

The Catcher in the Rye
J.D. Salinger(1951 Little Brown and Company)

The Catcher in the Rye 大学の授業で読んだペーパーバックはすっかり黄ばんで、73頁から84頁までが 背表紙から外れてしまっている。内容はとうに忘れてしまっていたので、新鮮な感触で読んだ。語りは swearing 満載だけれど、リズムがあって詩のよう。ホールデンの強すぎる感受性が痛々しい。あてどない寂寥感、喪失感、不安。。。家出をしようとするホールデンに一緒について来ようとする妹の Phoebe、その健気さには泣かされる。セントラルパークの動物園でメリーゴーランドに乗る Phoebeの金髪が風にそよいでいる。流れている曲はSmoke Gets in Your Eyes。(2017/5/20)

The Perks of Being a Wallflower
Sthephen Chbosky(2016 Pocket Books)

The perks of being a wallflower アメリカン teens の青春小説。J. D. Salinger著"The Catcher in the Rye" の再来と評された。匿名で友達に宛てた書簡という形で友達や家族、学校生活のことなどがつらつらと語られる。心理学で思春期のことを「疾風怒濤」の時代と習ったことがあるが、それどころじゃぁない。アメリカの若者は10代ですでにタバコや飲酒のみならず、ドラッグやセックス(同性愛を含む)や家庭内暴力を、結構あたりまえのように経験してるのかな... (2017/5/8)

Hillbilly Elegy
J.D. Vance(2016 Harper)

Hillbilly Elegy Hillbillyとは、Rust Belt地帯と呼ばれるさびれた工業地帯に居住する白人労働者階級のことで、軽蔑的に田舎者の白人アメリカ人を差す言葉。かつて鉄鋼産業が栄えたオハイオ州やケンタッキーの山岳地帯(アパラチア山脈)に住み、教育機会にも恵まれず、貧困、暴力、ドラッグ、アルコール中毒などの問題がはびこっている。著者の J.D.Vanceは、そのような環境で育ちながらも、祖父母の愛情に支えられ、海兵隊で鍛えられた後 Yale 大学のロースクールに進み、現在は実業家および社会活動家として活躍している。アメリカを分断し、Trump 大統領の支持母体となった白人労働者階級。その実態を垣間見せてくれる本。(2017/5/1)

Fluent in 3 Months
Benny Lewis(2014 Collins)

Fluent in 3 Months 臨界期仮説なんのその、誰でも真剣にやればどんな言語でも3ヵ月でマスターできるという(fi3m.com)。要はヤル気 (passion)。国際人を目指すなら、英語の他に少なくとも近隣アジア諸国の言語とヨーロッパ言語を最低1つずつ、それぞれ CEFR B1-B2 レベル以上使えるようにしたい。日本の中等教育、高等教育に第2・第3外国語教育の復権を求む!!(2017/4/11)

A Long Way Gone
Ishmael Beah(2007 Sarah Crichton Books)

A Long Way Gone 1991年から約10年間続いたアフリカ、シェラレオネ共和国(Republic of Sierra Leone)における内戦での少年兵の話。腐敗した政府を正すという大義名分のもとに武装蜂起した統一革命戦線(RUF)と政府軍の血みどろの争いは、いずれもが村を略奪し、民衆を虐殺する狂気の世界だ。逃げまどううちに政府軍に捕らえられた著者のIsumalは少年兵として訓練され、洗脳され、殺人マシーンと化していた。彼を救った国連UNICEFスタッフの献身には感動する。(2017/3/15)

Weedflower
Cynthia Kadohata(2009 Atheneum Books)

Weedflower カリフォルニアの農園で花作りをしていた日系三世のSumikoは、日本軍の真珠湾攻撃後、家族と共にアリゾナの日本人強制収容所へ送られる。そこには先住民族インディアンの居留地もあり、同様の生活を強いられていた。灼熱の砂漠地帯、サソリに怯え、ガラガラヘビを喰って飢えをしのぐ生活。そんな中で Sumiko たちは灌漑用水を引き、畑を作り、花を育て始める。(2017/2/15)

The Fault in Our Stars
John Green(2012 Penguin Books)

The Fault in Our Stars 癌を患う若者同士が恋をする物語。主人公の Hazel はちょっと皮肉屋さん。甲状腺癌(thyroid cancer)を患っているが、癌は肺にも転移していて、常に携帯用の呼吸器が手放せない。ある日Hazelは癌患者の会で出会ったイケメン男子のAugustusに惹かれる。Augustusは骨肉腫(osteosarcoma)のために右足を切断し、義足(prosthetic leg)をはめている。カッコつけてタバコを口にくわえたりするが、火は点けない。2人は Hazel の未完の愛読書の結末を知るために、作者のPeter Van Hauten を訪ねてアムステルダムへ旅に出るが、消えたはずだった癌は Augustus の体中に転移していた。何の因果でこんな病にかかるのか... 星のせいにしても仕方のないことだけれど。ぼんやり毎日を生きていると「いのち」に対する感覚が麻痺してくる。こんなに貴重で、切なくて、はかないのに。(2017/1/15)

Out of My Mind
Sharon M. Draper(2012 Atheneum Books)

Out Of My Mind 主人公の Melody は重度の脳性麻痺(cerebral palsy)のため身体をほとんど動かすことが出来ず、話すこともできない。でも彼女は並外れた記憶力を持っていた。ただ自分が知っていることや理解していることを人に伝えることが出来ない。ところが Medi Talker という発話補助装置を手に入れた彼女はその驚くべき記憶力でクラスのクイズコンテストで1番になり、その後クラスメートと共に学校代表として全国大会に出場することになるのだが... (2016/12/15)

Bog Child
Siobhan Dowd(2008 Oxford University Press)

Bog Child Bog とは、湿地や沼地のこと。北欧やアイルランドなどでは泥炭地(peat bog)から自然にミイラ化した湿地遺体(bob body)が発掘されることがあるらしい。物語の舞台は1980年代北アイルランド。主人公の少年 Fergus が泥炭地で少女のミイラを見つけたことに始まる。遺体には絞殺の跡があり、生贄にされたか拷問を受けたのかも知れない。その姿は刑務所に拘留されハンガーストライキ中の兄の姿とも重なる。アイルランド問題が暗い影を落とす中、ミイラの発掘調査にやってきた考古学者母子との交流や、娘 Cora との恋がタペストリーを織りなすように静かに語られていく。北アイルランド問題が特に激化したのは1970年代。そのぞっとする空気は、映画『ベルファスト71』(原題 '71)に見事に描かれている。(2016/11/15)

The Last Lecture
Randy Pausch(2008 Hyperrion)

The Last Lecture 著者の Randy Pausch は、カーネギーメロン大学コンピュータサイエンス学科の教授。膵臓がんのため、2008年に亡くなった。この本は、カーネギーメロン大学で彼が行った最終講義の内容をまとめたもの。死を想う(memento mori)ことで生きることの意味を実感するというが、死期が間近に迫る中で、人はこうも積極的に生きることができるものなのか。彼が無理を押してでも最終講義をやり遂げたかったのは、後に残る奥さんと子供たちにライブメッセージを残したかったから。子どもの頃の夢(childhood dream)を失わないこと... メッセージは生き続ける。最終講義はYouTubeで見ることができる(https://www.youtube.com/watch?v=ji5_MqicxSo)。
(2016/10/15)

The Curious Incident of the Dog in the Night-Time
Mark Haddon(2003 Vintage Books)

The Curious Incident of the Dog in the Night-Time この奇妙な題名の本の主人公は、Christopher John Francis Boone、15才。世界中の国の首都を覚えていて、7,057までの素数が言えるのに、人の表情や感情を読み取ることができない。ある日Christopher は、向かいの家のShears さんの飼い犬が鋤(fork)で刺されて死んでいるのを見つけるが、通報されてやってきた警官にいろいろと尋問されるうちにキレて警官を殴りつけてしまう。その後 Christopher は犬を殺害した犯人を見つけることを決心して調査を始め、その記録をミステリー小説のように書き始める。その冒険の途中で彼の目を通して描かれる出来事や風景は、独特の意味と刺激をともなっている。ときおり音や色や文字やその配列などのまわりの状況が、過剰な情報の束となって Christopher の頭を錯乱状態にしてしまう。最近、自閉症についてもう一冊別の本を(『自閉症の僕が飛び跳ねる理由』東田直樹著 角川文庫)を読んだ。「こころ」について考えさせられる本。(2016/05/15)

The Buried Giant
Kazuo Ishiguro(2015 Vintage International)

Thge Buried Giant 6世紀頃のイギリスを舞台にした伝説的物語。ブリテン島では、アーサー王後も土着のブリトン人(ケルト民族)と侵略者サクソン人(ゲルマン民族)の対立が続いていた。ただ人々は竜の吐く息による霧によって徐々に過去の記憶を失っていくようであった。ある日ブリトン人の老夫婦 Axl と Beatrice は、遠く離れた村に住むという息子を訪ねる旅の途上で、その竜を退治しに向かう戦士Wistan(サクソン人)と、竜を守るアーサー王の騎士Gawain に出会う。結局竜は討取られ、人々の集団記憶喪失は免れることになるが。。。果たして息子は今も生きているのか?そもそも息子は何故二人のもとを離れて行ったのか?なんだか最後まで謎につつまれた世界。美しい英語は詩的。(2016/03/17)


The Time Keeper
Mitch Albom(2012 Sphere)

TheTimeKeeper 太古の昔に時間を計測することに取り憑かれた男 Dor(Mr. Time)と、現代に生きる女の子Sarah、そしてガンで余命いくばくもない男 Victor のそれぞれの話が交錯しながら展開していく。Sarah はボーイフレンドになってくれると思った男の子に心を傷つけられて自らの命を断とうとし、Victor は財力にまかせて、未来での再生を願って自らの身体を冷凍保存(cryonics)しようとする。時間を測るということを始めたときから、人間は時間を管理しようとして逆に時間に管理され、「いのち」という最も大切なものに目を向けることを忘れてしまった。(2015/02/08)


Freak the Mighty
Rodman Philbrick(1993 Scholastic)

FreakTheMighty 主人公の Kevin は、生まれながらに骨の発育に異常があり、内臓が圧迫されて長くは生きられない運命だ。そんな Kevin が転校してきて、Max と友達になる。Max は人並み外れて身体が大きいが、学習障害をかかえている。頭はいいが身体の弱い Kevin と、頭は弱いが身体の丈夫な Max が最強のコンビを組んで、アーサー王の騎士よろしく果敢に悪に立ち向かっていく、勇気と友情の冒険物語。1998年に映画化(The Mighy 邦題:マイ・フレンド・メモリー)(2015/02/08)

The Quiet
Susan Cain(2012 Picador)

Quiet 文化的に積極的に自己主張をすることが奨励されるアメリカにも、少なからず内向的な人たち(introverts)が存在する。長期的な研究によれば、introverts 傾向の人は、刺激に対する感受性が高いため、むしろ幼児期には hyperactive であるらしい。それが成人して社会との関わりが大きくなるにつれ、過剰な刺激を避けるために単独で行動したり、内省することを好むようになるという理屈だ。Introverts がアメリカ社会で成功できないわけではない。著者によれば、Bill Gatesは典型的な introvert だそうだ。ただ、文化規範的にextrovert 傾向の強いアメリカで生きて行くのは、introverts にとって気苦労の多いことだろう。逆に言挙げをしない国日本は、むしろ introverts にとって過ごしやすい環境なのかもしれない。一般的に英語を話すのが苦手なのも、本質的には文化的制圧によるところが大きいと思う。これを心理的に解決することが「英語でコミュニケーションができる」ようになるために何よりも必要なことなのではないか。(2015/02/08)

The Sixth Extinction
Elizabath Kolbert(2015 Picador)

The Sixth Extinction 地球は、その46億年の歴史の間において、これまでに5度の生物大量絶滅を経験しており、そして現代、われわれは6度目の絶滅期を迎えようとしている...? [1st Extinction] オルドビス期(Ordovician Period)5億4千2百万年前~2億5千万年前。三葉虫(triobites)がいた時代。大量の放射線による生物絶滅。[2nd Extinction] デボン期(Devonian Period)4億1千6百万年前~3億5千820万年前。昆虫類が出現したころ。海洋生物の大量絶滅。[3rd Extinction] ペルム期(Permian Period)2億9千9百年前~2億5千百万年前。[4th Extinction] 三畳紀(Triassic Period)2億5千百万年前~1億9千9百万年前。爬虫類が出現し、パンゲア大陸ができたころ。[5th Extinction] 白亜紀(Cretaceous Period)恐竜の全盛時代。巨大隕石の衝突による生物の大量絶滅。そして6番目は、人類がもたらしている環境破壊によるものだ。地球温暖化もその1つだが、我々はふつう大気中の二酸化炭素の問題に気を取られて、実は大量の二酸化炭素が海に吸収されていることに気がつかない。二酸化炭素が水に溶けることは中学校で習うのに。。。二酸化炭素によって海水が酸性化されることで、海洋生物が絶滅の危機にさらされる可能性があるということだ。果たして人類は、自らがもたらしている生物絶滅の危機を回避することができるのだろうか?(2015/10/28)

The Five People You Meet in Heaven
Mitch Albom(2003 Sphere)

the five people you meet in Heaven Eddie は退役軍人で、傷ついた脚を引きずりながら今日も遊園地の乗り物のメインテナンスをしている。今日は Eddie の誕生日だ。その日、フリーフォールの乗り物がケーブルの故障で宙づりになるという事故が起こる。幸い乗客は係員によって救出されるが、その後カートが落下、その下には小さな女の子が何も気づかずに立っている。Eddie は夢中で飛び出した。確かにその手を掴んだと思った瞬間、轟音と、閃光と、そして暗闇の世界。。。目覚めると Eddie は天国にいた。そこで Eddie は5人の人に出逢う。Eddie が生前になんらかの形で関わった人たちだ。5人に明かされる Eddie が知らなかった事実。Eddie は、他の人の生と死が、自分の生と死にどのように関わっていたのかを知り、自分の生の意味を知る。そして、あの女の子は果たして助かったのか。。。? 『モリー先生の火曜日』の作者による、心の琴線に触れる書。(2015/10/24)

The Strange Library
Haruki Murakami(2014 Harvill Secker)

The Strange Library 帰り道に立ち寄った図書館。本を返却しようと、受付に言われた通りに奥へ奥へと進むうちに、やがて「僕」は地下の迷路に迷い込んでしまう。地下の管理人に監禁された僕は、牢につながれて、そこでオスマントルコ帝国の税制史に関する本を全部暗記するまで読まされることになる。「僕」の見張りをする羊男によれば、知識の詰まった脳は美味しいのだそうだ。はたして「僕」はこの「不思議図書館」から脱出できるのか?日常にポッカリと口を空けた異次元への扉、村上ワールド。(2015/10/12)

Wonder
R.J. Palacio(2012 Random House Children's Publishers)

Wonder Star Warsが大好きな小学5年生の男の子、August(Auggie)を中心に繰り広げられる物語。Auggieは、下顎顔面骨形成不全症(mandibulofacial dysotosis)という病気のために、顔が醜く変形しており、学校で様々ないじめにあう。Auggieと仲良くしてくれる友達も、そのために他の友達から疎まれたりして、問題は複雑だ。想像を絶するほどつらく、悲しい思いをしながらも、家族の愛と、心ある仲間や先生に支えられて、Auggieは健気に学校生活を続けていく。ところが、夏のキャンプで起こったある事件をきっかけに、学校全体に大きな変化が起きる。「いじめ」という問題について深く考えさせてくれ、深い共感と感動を与えてくれる一冊。(2015/09/24)

The Hot Zone
Richard Preston(1995 Anchor Books)

エボラ出血熱(Eborah hemorrhagic fever)を扱ったノンフィクション。1976年にスーダンで初めて見つかったエボラウィルスは、フィロウィルス(Filolovirusu)科に属するひも状のウィルスで、感染すると臓器が破壊され、消化器や鼻から激しく出血して死亡する。人間の体がオクラ(gumbo)のようになるという表現が凄い。ザィールでもエボラ川の流域でさらに致死率の高いウィルスが猛威をふるったため、エボラウィルスと名付けられた。サルからヒトに感染した例があるが、自然宿主(natural host)はまだ特定されておらず、ワクチンも存在しないということだ。1989年に実験用動物としてアメリカに輸入されたカニ喰いザルが発症し、米陸軍の特殊部隊がこれを封じ込めた(containment)という、ホントに、メチャクチャコワイ話。(2014/02/27) 

Inferno
Dan Brown(2013 Doubleday)

The Da Vinci Code (2003) に続くDan Brown の美術史ミステリーアドベンチャー。ある天才的な科学者が、人口爆発をストップするためと称して特殊なウィルスを開発し、謎のメッセージを残してこの世を去る。ウィルスが開封されるまであと2日。ダンテの『神曲(地獄編)』に隠された謎を解き明かしながら、ハーバード大学記号論学者Dr. Langtonが、ウィルスの隠された場所をつきとめていく。舞台は、イタリアのフィレンチェ、ヴェニスから、トルコのイスタンブールへ。まるでヨーロッパの美術館を旅している感覚。Googleの画像検索で、絵画や建築を眺めながら読み進めると楽しい。(2014/02/27)