H8マイコンによるコントローラ(部品選定)

Last update: <2017/03/01 18:17:12 +0900>
    ハプティックコントローラを設計するにあたり,どのような機材が適しているのか,構成要素の選定をおこなった.ここでは,それぞれの構成要素に要求される仕様を整理し,選定の過程を記述する.

  1. マイコン部

  2.  マイコン部では,コンピュータとの通信,AD変換の指令,モータへの出力の指令などをおこなう,いうなればコントローラの司令塔である.したがって,マイコンの処理能力がコントローラの性能を左右するといってよい.まずマイコンに要求されるスペックを整理し,具体的な制御方法について述べる.

     DCモータを制御する手法として,もっとも広く使われているのはPWM制御である.詳しい原理は後述する.少し乱暴に説明すると,ディジタル系回路からアナログ値のエネルギーを取り出すのに,とても効率が良い方法である.したがって,マイコンにPWM信号の出力機能があれば良さそうである.モータを3つ駆動させるので,PWM出力が3つ備わっていることは必要条件である.

     次に実行速度である.前述したサーボレートが速ければ速いほど,精度の高い制御が可能となる.経験則だが,フォースディスプレイを制御するサーボレートが50Hzから500Hzと10倍異なると,触っている感覚の違いは十分体感できる.速ければ速いほどよい.


    図2.1:秋月電子製H8-3069LANボード


     ここでは秋月電子製H8-3069LANボード(図2.1)を選定することとなった.PWM出力を3つ備えており,CPUは20MHzで動作する.また,LANインタフェースを持っていることも大きな魅力である.

    (以前はこのLAN接続を活用し,プロトコルスタックによるTCP/IP接続を使って研究を重ねてきた.しかし,通信速度に限界があることがわかった.特にパケットの飛び交う通信環境では速度が思うように上がらず,200Hzを越えられないことがわかった.現在はLANインターフェースを利用せず,RS232Cによるシリアル通信をおこなっている.)

     ところで,H8-3069のハードウエアマニュアルによると,このマイコンにはAD変換ポートが8ch備わっている .当初,このAD機能を利用しようと考えていたが,10bitの分解能で,十分な性能とはいえなかった.また,AD変換器はノイズに弱く,故障するとマイコンごと交換することになりリスクが大きい.そこで,外部に高性能な別のAD変換器を備えることにして,マイコンからAD変換器を制御することにした.


  3. AD変換部

  4.  マイコンに搭載されているAD変換より高性能なものとして,マイクロチップ社製のMCP3208を選定した(図2.2).AD変換ポートが8ch,分解能が12bitで5V動作となっている.カタログスペックでは最大で毎秒100kサンプルであり,速度も十分である.ただし,マイコンとの通信手段はシリアル通信(SPI)となっており,この通信ドライバは自分で用意する必要がある.

    (なお,このチップは故障しやすい.電源ラインや信号ラインに少しでも変なノイズが乗ったり,帯電した手で触ると,正しい値を返さなくなる.通信は出来たりするので,正常なのか異常なのかわからず,始末が悪い.うっかり触らないように注意すべきである.)


    図2.2:8ch 12bit AD変換チップ MCP3208


  5. モータアンプ部

  6.  モータアンプの選定で着目すべき点は,定格電流である.定格電流が大きいものほど出力が大きいといってもよい.また,PWM駆動できるほどスイッチング性能が高いものが好ましい.また,Hブリッジがモジュール化されているのが扱いやすくてよい.以上の条件に適したものを比較してみる.ちなみに,フォースディスプレイに利用しているモータは日本サーボのDME37BBで,定格電圧は24V,停動トルク時の電流はおよそ3Aである.


    1. L6203

    2.  電源電圧は最大52V,最大実効電流が4A,ピークで5Aである.1000円程度で市販されているが,やや入手しづらい.

    3. TA8429H

    4.  電源電圧は7〜27V,定格出力電流が3.0A,ピークで4.5Aである.500円程度で市販されており,よく見かける.使用する熱くなることがある.

    5. TB6549HQ

    6.  電源電圧は〜30V,定格出力電流が3.5A,ピークで4.5Aである.750円程度.DIPパッケージ版のTB6549Pもあるが,TB6549HQより定格が小さく400円程度である.実状はわからない.

    7. MP4507

    8.  電源電圧は〜100V,定格出力は5Aである.600円程度であるが,10年前に使っていたもので,現在も取り扱いがあるかどうか不明である.また,PWM制御に耐えうる応答性があるのかも未確認である.

     以降では, L6203とTA8440を用いた回路設計を取り上げる.

  7. 電源部

  8.  モータ制御に耐えうる容量の電源を選定する.ここでは24V電源として,和泉電気社製のPS3N-F24A1Nを利用した(図2.3).商用交流電源100Vを入力し,24V6.5Aを出力可能である.使用しているモータの定格は最大で3Aであり,全部で3台あることから,本来なら9A必要であるが,全モータが最大出力になることは,運用上ありえないし,危険を伴うことでもあるため,出力6.5Aである本装置を選定した.


    図2.3:定電圧電源(PS3N-F24A1Nは一番左)メーカサイト


    図2.4:DC-DCコンバータ HRD051R5E


     一方,マイコンなどの論理回路系を駆動させるには,TTLレベルである5V系の電源が別途必要となる.商用電源からACアダプタを介して5Vを取ってもよいが,電源コネクタの浪費を嫌い,24Vから5Vを取り出すことにした.三端子レギュレータを使うとドロップ電圧が大きいため効率が良くない.そこで24Vから5V1.5Aを取り出せるDC-DCコンバータとして,入手性にすぐれる新電元工業社製のHRD051R5Eを選定した(図2.4).



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