H8マイコンによるコントローラ(回路設計)

Last update: <2017/03/01 18:17:26 +0900>
    ここでは,コントローラの回路設計について詳細を述べる.2章で述べてきたように,コントローラはマイコン,AD変換部,モータアンプ,電源という構成要素から成り立っている.周辺の構成要素からマイコンに至るまでを順に解説していく.

  1. AD変換部の回路

  2. AD変換チップであるMCP3208は,図3.1のようなピン配置を備えている.各ピンの役割を見ていく.


    図3.1.MCP3208のピンアサイン(MCP3204/3208データシートより引用)



     AD変換チップを利用するために,以上の項目を整理すると次のようになる.
     以上のことを踏まえて回路を設計すると,図3.2のようになる.AD変換の対象となるポテンショメータの信号は1kΩと0.1μFのフィルタでAD変換器に入力される.AD変換器の電源入力は,マイコン等の論理回路系から流用するが,100μFの電解コンデンサや0.1μFでディジタルノイズ混入を防いでいる.AGNDは0.1μHのインダクタで論理回路系のVGNDに接地する.


    図3.2.MCP3208を用いたAD変換部の周辺回路



  3. モータアンプ部


    1. PWM制御とは

    2.  PWM制御とはPulse Width Modulation(パルス幅変調)の略で,信号の強弱をパルス幅の大きさで 出力する手法である.モータの回転を制御する場合,もっとも簡単な方法は印加電圧を上下させることである.印加電圧を変更することによって,モータに流れる電流の量が変化し,モータ出力が 変化する,というわけである.PWM制御では,印加電圧を制御するのではなく,印加電圧のONの長さとOFFの長さの比(デューティ比という)を変更することによって電流の量を制御することになる(図3.3).


      図3.3.PWM制御とデューティー比


      ここでは,2種類のモータアンプ(L6203,TA8429)によるPWM制御の回路構成と実例について説明する.


    3. L6203によるPWM制御

    4.  L6203はSTマイクロエレクトロニクス製のDCモータフルブリッジドライバICである(図3.4).アンプ系の電源は最大52V,制御系の信号はTTLレベルである.

        
      図3.4:L6203 DCモータフルブリッジドライバ


      図3.5:L6203のピンアサイン[3]


      図3.5に示される構成ピンについて見ていく.

       ここまで整理すると,IN1,IN2は通常はHレベルにしておき,OUT1→OUT2に電流を流す場合はIN2をLに,OUT2→OUT1に電流を流す場合はIN1をHにすればよい.

       制御入力端子としてIN1,IN2を使うことは説明したとおりだが,マイコンが 生成するPWM信号をIN1,IN2に振り分ける場合,別途,論理回路が必要となる.そこでマイコン側がPWM信号と回転の向きを表すDIR信号を出力する場合,IN1,IN2に振り分ける回路を考えてみよう.回転の向きを以下のように定義する.

      モータ回転の向き



       正転(DIR=L)の場合は,IN1をLにすればよいので,PWM信号を反転させてIN1に入れればよい.IN2はHのままである.逆転(DIR=H)の場合は,PWM信号を反転させてIN2に入れる.IN1はHのままである.真理値表を書くと次のようになる.

      表3.1.真理値表


       真理値表より論理式は次のようになる.

      (3.1)
      (3.2)



       したがって、論理回路は以下のようになる.

      図3.8.NANDとNOTによる制御信号変換回路


       NANDとNOTは標準ロジックICの7400シリーズを用いるが,ゲートの種類をなるべく減らしたいため,NOTをNANDで表現すると次のようになる.


      図3.9.NANDゲートだけによる制御信号変換回路


      図3.10.L6203とPWM,DIR信号によるモータ1台の制御回路


       以上のことから,L6203による制御回路は図3.10のようになる.DIRやPWMは図3.9回路を経てL6203のIN1,IN2に入力される.L6203のロジックは5V駆動,モータアンプは24V駆動で,電源にはコンデンサを配置しておく.Vrefは0.22μFでGNDに接地する.またBOOT1,BOOT2にはブートストラップ用のコンデンサを配置している.OUT1,OUT2の間には,余分な発振をおさえるスナバ回路を配置し,モータの逆起電力を逃がすため,ファーストリカバリダイオードを利用する.

    5. TA8429HによるPWM制御

    6.  TA8429Hは東芝セミコンダクタ製のDCモータフルブリッジドライバICである(図3.11).アンプ系の電源は最大27Vである.


       図3.11:TA8429H DCモータフルブリッジドライバ


      図3.12:TA8429Hの内部構成(東芝バイポーラ形リニア集積回路 シリコン モノリシックTA8429Hデータシートより)
             

       図3.12に示される構成ピンについて見ていく.

         前述したL6203と同じように場合わけしてみる.



       (b)(c)の場合,出力端子に電位差が生じ,(b)の場合はOUT2→OUT1へ,(c)の場合はOUT1→OUT2に電流が流れる.向きはL6203と同じである.(a)(d)の場合はいずれも停止するが,(a)の場合だけは解放状態の停止のため,L6203とは異なる(L6203のENABLE→Lと同じ状態).

       真理値表を見れば,機能的にはL6203と同じであるため,制御信号の変換回路も図3.9と全く同じものを流用可能である.


      図3.14.TA8429HとPWM,DIR信号によるモータ1台の制御回路


       以上のことから,TA8429Hによる制御回路は図3.14のようになる.DIRやPWMは図3.9の回路を経てL6203のIN1,IN2に入力される.DIRやPWMがノイズの影響を受けやすかったため,本来ならフォトカプラなどで電気的に絶縁しなければならないところ,1kΩでプルダウンしている.電源付近には大きめの容量のコンデンサを配置し,急激な電圧変動に耐えるようにする.OUT1,OUT2にはモータが発する逆起電力を逃がすため,ファーストリカバリダイオードで接地している.

    7. TA8429HによるPWM制御の補遺


    8.  TA8429Hを前述の回路を用いて実際に利用すると,驚くほど発熱量が大きい.部品の表面温度を測定してみると,100度を超える高熱を発しており,決して直接触れてはいけないほど熱くなる.ヒートシンクを付けても改善されないため,原因を探ってみた.以降は制作には関係ないが,原因探求の試みとして補遺しておく.

       TA8429Hの発熱については,他のウェブページの制作記録にも同様の指摘があり,部品自体の仕様なのではないかとも考えられる.図3.15にはTA8429Hの内部回路を示す.CONTROL LOGICの詳細が明らかではないのでわからないが,可能性として,AとBの回路が一瞬だけ同時にアクティブになり,短絡電流が流れて発熱しているのではないかとも考えられる.例えば, Aの回路がON,BがOFF,CがOFF,DがONの場合,OUT1からOUT2に電流が流れることになる.この状態から停止する場合, AをOFF,BをONとすればブレーキとなる.このとき, AがOFFになるより,一瞬でもBがONになるのが速ければ,瞬間的に短絡電流が流れるというわけである.


      図3.15.TA8429Hのブリッジ回路(東芝バイポーラ形リニア集積回路 シリコン モノリシックTA8429Hデータシートより)


       この状態を避けるため,あえてブレーキを使わず,図3.13の真理値表でのストップ状態を使用してみた.PWMとDIRによる真理値表は次のように整理されるだろう.すなわちIN1とIN2が両方ともH(ブレーキ状態)になることを避け,代わりに両方ともL(ストップ状態)になるように設計するのである.

      表3.2.TA8429Hでストップ状態を用いるための真理値表


       真理値表から論理式を立てると式(3.3)(3.4)のようになるだろう. 

      (3.3)
      (3.4)


       この論理式から論理回路を作成すると図3.16になる.


      図3.16.ANDとNOTによる制御信号変換回路


       この変換回路にて動作させてみたところ,発熱は起こらなかったが,出力が弱くなり使用に耐えない状態となった.おそらくPWM発振の周期内で,動作と停止の繰返しが生じるが,出力の状態が変わりきらない(急にとまらない,急にうごかない)ものと思われる.したがって,この回路では正しい性能は得られないことが明らかとなった.

       なお,ANDゲートは7400シリーズの7408,NANDゲートは7400を利用しており,図3.8の元の回路に戻すためには7408を7400に差し替え,DIRを反転させればよい.



  4. H8マイコンのインタフェース

  5.  利用するH8-3069マイコンボードは,外部とのインタフェースとして図3.17のようなコネクタを備えている.DB9pinはPCとのシリアル通信に用いられる.RJ45はLANインタフェースで今回使用しない.DCジャックにはDC5V電源を印加する必要がある.その他に, CN1,CN2の40ピン端子が用意されており,信号をじかに入出力することができる.以下,CN1,CN2を見てみる.


    図3.17.H8-3069マイコンボードの端子配置図(H8-3069ネット対応マイコン付属マニュアル,秋月電子)


     表3.3はCN1,CN2のピン配置表である.重要なピンから見ていく.


     AD変換器(MCP3208)とのデータ授受において,4本の信号線が必要となる.ここではP4の下位4ビットに割り当てている.


     マイコンに内蔵されているAD変換機能は,今回は利用しないが,今後利用する場合のことを考えて,予約しておく.



     以上のことから,マイコン周辺の 接続回路図は図3.18のようになる.

    図3.18.H8-3069周辺の外部インタフェース回路


     L6203を用いて,これまでの回路を統合したものを図3.19,プリント基板として設計したものを図3.20,図3.21に添付する.



    図3.19.H8マイコンとL6203によるコントローラ回路図(画像クリックで拡大)


    図3.20.プリント基板のパターン(実習において,初心者でも半田付けしやすいように,大きなパターンで設計してある)


    図3.21.プリント基板のシルク側パターン




  6. 他の外部回路設計

  7.  電源やスイッチ周りの回路については図3.22のとおりである. AC100Vはヒューズ,スイッチを介して,定電圧電源PS3N-F24A1Nに入力される.この配線は初心者がやってはならない.また,この配線部分をむき出しにすると,感電の恐れがあるので注意が必要である.ヒューズは125V3A程度で十分である.定電圧電源から取り出した24Vは,スイッチを介してモータアンプの電源部分に接続する.また,同じく24VをDC-DCコンバータに接続し,5Vを取り出す.


    図3.22.電源部配線図


     図3.23はHRD051R5Eの推奨回路である.左側が入力,右側が5V出力である.


    図3.23.HRD051R5EによるDC−DCコンバータ回路




戻る