真貝寿明 reviews:
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lambda systemのその後
reviewed on 2001年6月25日
on the published article ...

Effect of constraint enforcement on the quality of numerical solutions in general relativity
Authors: F. Siebel and P. Huebner
Phys. Rev. D64 (2001) 024021

背景
 Einstein方程式の数値シミュレーションの安定性を改善するために,対称双曲型をベースにして,さらに constraint surfaceへ収束してゆくように人工的な粘性を導入するlambda-systemという考えが Brodbeck-Frittelli-Huebner-Reulaによって提案されていた [J. Math. Phys. 40 (1999) 909]. このアイデアは,直ちにAshtekar変数版としてShinkai-Yoneda [PRD 60 (1999) 101502]によって拡張され, Yoneda-Shinkai [CQG 18 (2001) 441]によって 数値計算成功例も示されている.
 このシステムの弱点は,人工的にflowを導入して得られた解が,本来の初期値データの時間発展になっているのか, という点である.本論文は,lambda-system提案者本人による,その後のfollow upであり,この問いに答えようとしている.

論文内容
 ここでは,問題を次の2点に絞る.
  (1) nonlinearな状況において,(constraint manifoldに収束してゆくという意味での) lambda-systemを作ることが数値的に可能か?
  (2) lambda-systemによって得られた発展は,解析的に期待される時間発展とどれだけ近いのか?
そして,Friedrich版の対称双曲型Einstein方程式 (conformal field equations: これは 3+1から漸近的にnull foliationになるようなスライスを発展させる方法) を lambda-system化し,面対称時空に応用した.元のシステムが(2.1)式,lambda-system化したのが (2.3)式である.lambda-systemにするための付加パラメータはmatrix B, C, D, Eである.
 初期値は,constraintを解く.発展は,second-orderスキーム.constraintのノルム (3.4) で誤差を評価する. また,面対称でもconformal slice approachだと,厳密解(3.6)が存在する(本当かな??)ので,厳密解からのずれのノルム (3.5) でも誤差を評価する.
 付加パラメータスペースは膨大なので,限られた場合にだけテスト.Table 1にあるような場合で,2つの ノルムを比較した.constraintノルムをlambda-systemによって制御することは可能であるが,厳密解からの ずれを制御することは難しい.従って,lambda-systemの汎用性には,懐疑的とならざるを得ない.


 元のシステムがFriedrich版なので,変数が多い.(2.1)式は21変数 with 14 constraints. これをlambda-system化すれば,付加parameterが多数に及ぶことは容易に想像がつく. 「ご苦労様」である.ま,Huebnerの立場上,この方向は避けられないものではあるが.(Friedrichの ポスドクだったから).
 lambda-systemがconstraint normを減少させうることは,すでにYoneda-Shinkaiの数値計算で 示されているので新しいことではない(cite していないのは,いけません).  この論文の一番考慮すべき点は,厳密解に近づいていくのかどうか,という点である.面対称で重力波を 考えるとき,平面波解は存在するが,同時にasymptotically flatの条件を満たす解は存在しない. Shinkai-Yoneda [CQG17 (2000) 4799]に,その事実は解説済みである.ここで用いられた「厳密解」は,本当に計算で 仮定した状況に即した「厳密解」なのか? 漸近的null面で考えると解が存在するかどうかは,確かめなくては ならないが,平面波相当の議論を適用するならそれは明らかに間違いである.彼らの図を見ると,lambda-system を適用しない元のシステムでも厳密解からのずれは,確実に増大している.元とlambda化とを比べても 厳密解からのずれは,どちらも同じオーダーで増大しており,効果があるのかないのか,一概に言えないというのが 本当のところではないか?
 彼らは,lambda-system化された発展方程式系を"asymptotically stable"と表現しているが これは誤解をもたらす.これはBrodbeck et alの記述から改善されていない.( Shinkai-Yonedaは,常に"asymptotically constrained"と表現している.) 結論部分に 「Kreiss-Huebnerがasymptotically stable成立の十分条件を示した」とだけ記述しているのだが, どうも,「懐疑的」という結論が先にあり,という感じで議論を進めている点が気になる.
 いずれにせよ,「constraint violationの制御と,厳密解からのずれの制御の違い」を認識させる点では 意味のある論文ではあるが,解析方法に疑問が残る論文である.無職となってしまったHuebnerの復活を期待したい.



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