真貝寿明 reviews:
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中性子星内部の超流動と重力波
reviewed on 2001年11月28日
on the published papers ...

Probing Neutron-Star Superfluidity with Gravitational-Wave Data
N. Andersson and G.L. Comer
Physical Review Letter 87 (2001) 241101

背景
 超流動とは,液体が摩擦なしに流れる状態で,マクロなスケールで現れる 量子力学的状態である.量子流体も超流動も地上では極低温でなければ実現しない. ヘリウム3の場合,1K以下で量子流体に,1/3000K以下で超流動になる. しかし,密度が高い中性子星内部では10^8K程度であれば超流動が存在できる. 中性子星内部に荷電物質との相互作用の極めて弱い超流体が存在していると 考えられる理由は,パルサー(電波をパルス状に放出する中性子星)のグリッチ 現象(パルス周期の突然の増加)のタイムスケール(1日から1ヶ月)が,常流動体の タイムスケール(10^{-11}秒)にくらべて桁違いに長いことである.
 グリッチ 現象を 何度も観測されている代表的なパルサーは, Vela (帆座)パルサーとCrab(蟹座)パルサーである.

PSR    P(ms)  d(kpc)  ¥Delta ¥Omega/¥Omega  age       glitch period         
Crab   33     2         10^{-8}             10^3 yr   -5 yr  (occational)
Vela   89     0.5       10^{-6}             10^4 yr   2-3 yr (periodic)

[参考] パルサーグリッチ理論の新展開--中性子星内部の原子核構造と超流動との関わり--, 望月優子 伊豆山健夫,日本物理学会誌 2001年5月号

さて,この論文は,超流体からできている中性子星の振動モードが,将来計画される重力波 干渉計で観測可能かどうかについて述べたものである.

内容
 普通の物質からなる中性子星を考えるとき,存在するであろう固有振動 モードとしてpressure p-mode (基本モードとしてf mode), gravity g mode,星の回転と重力波放出の反作用として引き起こされる r-modeがあるが,それらは,superfluidを考えるとどうなるだろうか.
 簡単のため,ここでは2成分流体を考える.超流動中性子superfluid neutronと, 中性物質charge-neutral conglomerate of the remaining components (これをprotonと称する)であり,両者は互いに運動量のひきずり効果 (entrainment effect)で,短いタイムスケールで相互作用をするとする. 超流動体は局所的には渦なし(irrotational)であるが,量子的渦 (quantized vortices)の発生により巨視的には回転するように振る舞う. 超流動体の回転は,ひきずり効果によってproton側にも流れを引き起こし, 磁場の渦に沿った運動を発生させる.電子が散逸的な散乱を起こし(mutual friction), 2流体間の相対運動を押さえ込むようになると考えられる.従って, パルサーの回転やモード振動の議論に重要な示唆を与えることになる. しかし,超流体のパラメータがまだよく理解されていないのも事実である.
 そのための第一歩として,超流体中性子コアの振動モードを理解しなくてはならない. ここではオーダー評価程度の信頼性で,励起される重力波振動モードと 予想される周波数・振幅を評価する.
 最近の我々の研究によれば[N.Andersson and G.L. Comer [MNRSA 328 (2001) 1129], 超流体中性子コアの振動モードは,2つあり,2体が一緒に動くように働く p-modeと,逆向きに動く場合のs_0, s_1 modeである.2つの振動モードは, どちらも高周波数でありスペクトルは混じり合う.そして超流動のパラメータに よって励起されるモードも近似される[(1)式].さらに一般相対論的な計算 (2種類のポリトロープ状態方程式の混合)によって各周波数や減衰率が超流動の パラメータ(とくにproton mass)で区別でき得る可能性も指摘した.
 若い中性子星がよく星震を引き起こし,グリッチによって超流体のコアの 振動が励起されるような場合について,放出されるエネルギーを見積もり,Crabと Velaパルサーについてデータを当てはめると,5000-10000Hzの範囲で, f, p, s_0, s_1モードの重力波がそれぞれ独立に,振幅10^{-22} - 10^{-24}の 程度で現れ得ることがわかる.これは,次々世代地上レーザー干渉計EUROの, さらに高周波帯に特化したEURO xylophoneでは,十分に検出可能な領域である. したがって,将来の重力波観測は,超流体のパラメータを決定する可能性も持っている.


 EURO( http://www.astro.cf.ac.uk/geo/euro/)は,現在の所まだ 予算申請段階に過ぎない,第3世代重力波観測地上レーザー干渉計である. EURO xylophoneについても,技術的にどれだけ可能なのか,明らかではないが, とりあえず,「重力波によって超流体パラメータが決められる可能性」を言っておく, というだけの論文であった. 新たな可能性を指摘した,という点でEURO推進グループにとっては大事な論文だろう. しかし,論文の大部分は,著者らの最近の研究からの結果引用であり, PRLに掲載するほどのメッセージがあったのかどうか,疑問が残る.また, 超流動によって重力波は励起されない,とする論文も あり[A. Sedrakian and I. Wasserman, PRD 63 (2000) 024016],今後まだまだ この方面の研究は必要である.良く喋るニルスと,文章の長いグレッグの 組み合わせで,勇み足的な説教臭い論文ではあった.



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