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大学生の皆さんへ(とくに,新入生の皆さんへ)

一教員からのメッセージ

2020年4月13日

 新型コロナウィルスの感染が拡大して,世界中の人々ができるだけ感染を拡大させないように努力しています. 本学も緊急事態宣言が大阪府に出された先週,急遽,前期の開講日を5月に遅らせることを決めました.新入生にとっては,入学式も各種ガイダンスも中止となり,配布物だけが渡される異例の事態になっていますね.これから,期待に満ちた学生生活が始まるはずでしたのに,たいへんお気の毒ですし,我々教職員も残念に思っています.

 連日の報道で,十分に理解されているとは思いますが,この感染症は,気づかないうちにヒトからヒトへとうつり,人によっては死に至ります.自分の安全だけではなく,まわりの人の安全のためにも,今は最小限の行動だけにして,自宅でじっと将来に向かってできることをしておく期間かと思います.

 毎年この時期に,講義やゼミで学生さんに話していることを,書き留めておきたいと思います.

 5月からの講義は,インターネットを通じたオンライン授業になる可能性があるので, きちんとその環境を整えておいてほしい(大学から配布されたメールアカウントを使えるようにして,指定された動画配信アプリをインストールして...),とか,教科書は買っておけ,とか,シラバスのページを学内のウェブページから見つけて読んでおけ,とかいろいろ細かいことではなく,もっと根本的なことです.

 大学生は自由であり,どこまでも自分に挑戦できる素晴らしい時期だ,ということです.

私自身の大学生時代

 私は大学を卒業して30年経ちますが,学生時代の記憶は鮮明です.まずは自分の話からしましょう.私は,本学では数学を教えていますが,専門は物理学です.理論物理学で,一般相対性理論を専門としています.最近ではブラックホールが合体して生じる重力波を研究しています.
 大学は物理学科に入学しました.中学の時の実験好きの物理の先生の影響が大きかったと思います.自分で読み進めた物理の本などから,物理法則の裏にある「思想」が好きになりました.少数の法則から多くの自然現象を説明することができる物理学の素晴らしさに共鳴し,物理を究めてみたいと大学に入りました.
 良く言われることですが,大学での面白い講義は少しだけでした.自分で教科書を読んで理解した方がはやい授業もありました.しかし,チョーク1本だけで講義に現れ,3年間,毎週黒板をいっぱいに使って数式で埋めていくような教授がいたり,大学1年前期から時間度外視の物理学演習があったり(夕方4時頃始まって夜9時すぎに開放される),つぎからつぎへと特殊関数が現れる物理学の奥深さに圧倒されることもしばしばありました.また,図書館に行ってみると,特に大学院生専用の図書館に入ってみると,物音ひとつしない静謐な空間で,世界の研究論文と対峙している院生がいることに圧倒されました.
 大学では,自分でどこまでも挑戦できると思いました.そして,同じ志をもった仲間がいるのが心強かったことを憶えています.専門科目にはいる3年生以降は,毎日飽きることなく物理の勉強ができました.大学4年間を過ごした後,私はもう少し物理学を深めてみようと,大学院進学を決めました.

 私は,大学時代に,もう2つ,真剣に取り組んだことがあります.登山サークルに入って山に登ったことと,英語力を鍛えたことです.
 中学高校は吹奏楽部でしたが,新田次郎の小説が好きで登山に憧れをもっていました.大学入学後,ひとつの登山サークル(同好会)に入り,夏山テント登山を始めます.親には遊ぶお金をもらうことなど期待できませんので,家庭教師・塾講師・通信添削講師などのアルバイトをこなし,ひとつずつ装備を揃えました.念願の初の3000m超えの山は,標高第2位の北岳.そして,大学4年間で,北アルプス3000m峰を制覇し,標高トップ10の8座を踏むことができました.いずれも仲間と計画し,準備を万端にして挑戦したものばかりです.百名山は23まで登りました.ちょっと自慢できるかな..この歳でもまだ気力だけはありますが,5年位前に奥穂高に何度目かの登頂したのが最後になっています.
 もうひとつは,英語力です.いつか海外で仕事をしてみたいと思っていたので,英語に慣れるよう最大限の努力をしました.往復4時間あった通学時はウォークマン(カセットテープ)で英語を聞き流す,3年生の後半から安アパートで下宿生活を始めてからも,テレビはないけどラジオはあったので,FEN(Far East Network)を聞き続ける,といった感じです.大学で開講されていた英語の講義は必要以上に出ましたし,先生に許可を得て単位不要でもぐらせてもらった講義もあります(許可を得ていたら,もぐったとは言わないですね).そして,初めて海外(初飛行機)に行けたのは,大学院1年(M1) の夏でした.イアエステ(国際学生技術研修協会 IAESTE)が実施する学生交換研修制度に採用され,オランダのデルフト工科大学で2ヶ月,生活費を支給されながらシミュレーションの手伝いをさせてもらえました.同じイアエステのプログラムで集まった世界各国からの友達ができ,何とか海外でもやっていけそうだ,という自信もつきました.これらの経験は,30歳から5年間,アメリカでの研究者(ポスドク)生活を送ることにつながりました.

皆さんに心がけてもらいたいこと

 そこで,皆さんに提案です.大学生時代,何か一つでも,自分の人生に残ることをやってのけましょう.例えば,次の1年間にこんな挑戦はどうでしょうか.
 苦手だった英語を少し得意にした・資格をとった・免許をとった・人類の限界に挑戦した・長い小説を読んだ・バイトで10万稼いだ・一人旅をした・友達100人つくった・ボランティアに参加した・研究室に弟子入りした・PBLに参加した(PBL=Project-Based Learning,本学では必須の単語)・サークルで何かのリーダーになった・サークルをつくった・起業の仕方について勉強した・自分でウェブサイトを作った・・・・ 
 どんなことでも人に誇れることがあれば,その後の自分に自信がつきますよ.

 大学生は自由です.時間を自由に使えます.好きなことに集中できます.いろいろな経験ができます.これからの4年間,できるだけ大きな志をもって活動してください.たくさんの人と出会ったり,旅に出て自分を見つめたり,アルバイトをしてお金を稼ぐ大切さを学んだり,海外へ出向いて経験値を上げるなど,学生のときにしかできないことがたくさんあります.災害などで被害にあった地域があれば,ボランティアに行くのも良いでしょう.自分の希望する部活動やサークルがなければ,自分でつくればいいのです.部屋にこもってゲームばかりしているなんて,もったいない.貴重な時間を自分のために,そして社会のために有効に使いましょう.

 自由であるということは,それに対して責任も生じます.大学は高校までとは違い,「何かを教えてくれるところ」ではなくて,「自分で学んでいく場」です.大学は,さぼろうと思えばいくらでもさぼれます.ただ,それでは大学生でいる意味がない.大学は,講義やゼミを受けるだけの場所ではなく,図書館やPBLや海外渡航のサポートも充実しています.これらの環境を十分に利用する権利が皆さんに与えられていると思ってください.常にアンテナを張って,興味あるものを見つけ,挑戦してください.
 普通に学生をしていれば,卒業研究に着手する頃までに,世の中には未解決の問題や,よりよくなるべき工夫の余地がたくさんあることを十分に見いだしていることでしょう.大学で行われている研究は,自分でそれらの問題点を見つけ,解決法を生み出し,世の中を進歩させていくことです.社会に出てからも同じような問題解決能力が求められます.これまでは解答がある問題を解くことが求められていましたが,これからは違います.受動的な意識は捨てて,自ら行動できるようにしましょう.

 大学時代に得る友達は,これまで以上に分かりあえる友達です.なにしろ,自分の専門としたいと思った学科へ同じ志をもって入学した人間だし,ついでに学力も同じ位なのですから.
 しばらくはオンライン授業で,自宅から一人ポツンと受講することになるかもしれません.ですが,同じ努力をしている仲間がたくさんいるのです.コロナ感染症が収束したら,たくさんの友達をつくって,学生生活を楽しみましょう.それまでしばらくは,我慢のこと.

学生時代を過ごす皆さんへのメッセージ,まとめ.

いろいろな出会いを楽しもう.
新しい世界を開拓しよう.
そして,自分を発見しよう.

ぜひとも,有意義な時間を過ごしてください.

 

大阪工業大学 情報科学部 情報システム学科
宇宙物理・数理科学研究室
真貝寿明

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