真貝寿明 reviews:
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連星中性子星合体におけるShapiro conjecture
reviewed on 2001年5月22日
published.... PRD63(2001)121501

Shapiro conjecture: Prompt or delayed collapse in the head-on collision of neutron stars?
Authors: M. Miller, W.M. Suen and M. Tobias
gr-qc/9904041, published as PRD63(2001)121501

背景
WashUグループの,連星中性子星合体の正面衝突に関する数値計算の論文が, PRDのrapid commに掲載された.PRL並みの迅速さを誇るrapid commの セクションで実に2年掛かって掲載される,というのはたいへん珍しい.

この背景には,
[1] S.L. Shapiro, gr-qc/9809060, 後の PRD 58 (1998) 103002
[2] Miller et al, gr-qc/9904041 (これが今回掲載されたもの)
[3] S.L. Shapiro, gr-qc/9909059 上記preprintに対するコメント
[4] Miller et al, gr-qc/9910022 上記preprintに対するコメント
というやりとりがあった.順番に見てみよう.

論文内容
[1] の内容
連星中性子星(NS)合体の最終段階で,(1)衝突前にそれぞれが事前に潰れてBHになるのか,(2)そうでなければ衝突後すぐにBHになるのか,(3)角運動量がKerr limitを越えるようなときは最終状態はどうなるのか,という3つの問題点があり,いずれも数値計算を行わなければならないが,ここでは(2)について解析的に考察した.

等質量のhydrostatic 球対称NSが無限遠から加速して正面衝突を行う場合を考える.衝突直後に,shock waveが発生し,それらが運動エネルギーを熱エネルギーに変え,acoustic(viscous) dissipationによってその振動が減衰していくことが予想される.そこで2つの問題が発生する.(a)発生した熱エネルギーは,neutrino dissipationに対して充分にhydrostaticな状態を維持できるほど発生するのか,(b)その結果はtotal rest massや状態方程式によって影響を受けるのか.

ここでの状態方程式の仮定は,polytropicで,$P=K(s) ¥rho_0^{1+1/n} $である.係数$K$がspecific entropy $s$に依存する,という仮定がkeyで,初期のcold状態から,shock waveが通過後のhot状態になると,係数$K$の値が上昇するということをShapiroは示す.その際の仮定は,rest-massの保存とtotal energyの保存であり,NewtonianでもGRでも$K_hot/K_cold = 4^{1/n}$となった.

Oppenheimer-Volkoff解系列で同じbinding energyを持つ点をM-¥rho_center上でプロットすると,$K$が増加しても 安定解に留まることがわかる.よって,NSの安定解が保たれる.この結論は,初期のmassの大きさによらない(当然安定解と仮定).衝突のdynamical time scaleは,msec.加熱された熱エネルギーをneutrino radiationが取り去るまで10 sec程度,安定したNSが作られるのではないか.そうだとすると,その後球対称BHが形成されることになり,重力波放出が少なくなるだろう.

[2] preprint版の内容
連星NSの正面衝突の数値シミュレーションをフル相対論で行った.初期値は,球対称のTOV解を2つ,星の半径の数倍の距離に置き,初速度として,Newtonianのinfalling速度を仮定した.polytropic 状態方程式の$K$はshock heatingの影響を受けて変わるらしいが詳細不明.unitを固定し(1.46M_solarが平衡解のmaximum massとなるとき),1.4 M_solar のNS-NSの合体を行ったところ,接触後すぐ(0.16 msec)にapparent horizonの形成が見られた.massが小さい時には,AH形成は見られなかった.その境界は現在調査中であるが,少なくともShapiroのconjectureの反例が見つかった.

[3] の内容
[2]のauthorsから聞くところによると,0.8 M_solarどうしのNS-NS合体ではAH形成がなかったらしい.これはまさしく,[1]を支持している.1.4 M_solarどうしの場合は,計算精度が足りなかったのが原因だ.実際のところ,0.8 M_solarどうしでは,5%の精度で議論ができるが,1.4 M_solarの場合0.5%の計算精度が必要だ.[2]の数値計算は,初期条件が「球対称」の星でNewtonianの初速度であり,すでにこの程度の数値誤差はある.反例というには早急である.

[4] の内容
ここでは[2]で述べた1.4 M_solarについてのみ述べる.我々の計算コードは,convergence testを満足しており,計算精度については問題ないと認識している.[1][3]の議論は,quasi-stationalな状況を仮定しての議論であり,我々の結論は,この現象が非常にdynamincalなものであることを示している.

[2] publish版の内容
low massの場合として,0.1 M_solarどうしのNS-NSではAHが形成されないことを追加.その他,明らかにミスだった点はなおされたが,改善点ほとんどなし.


問題となったのは,平衡解のmaximum massを超える状況でも,ある程度安定化し,BH形成が遅れるかどうか,という点にあった.しかし,2年を経てpublishされた版では,[3][4]をciteすることもなく,初期値データの改善どころか,問題になった計算精度にも触れられていない.0.1 M_solarの記述を追加したからといって,問題の解決には全く至っていない.結果として,Shapiro conjectureの反例を挙げたのかどうか,不明なままPRDに掲載となったのは残念であった.WashUグループは,(まだこの分野で仕事を進める気なら)真剣に物理を議論する態度を見せてほしい.



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