真貝寿明 reviews:
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reviewed on 2002年6月12日

Introduction to isolated Horizons in Numerical Relativity
O. Dreyer, B. Krishnan, D. Shoemaker, and E. Schnetter
gr-qc/0206008
published as Phys. Rev. D. 67 (2003) 024018

背景
 PennStateのAshtekarと,そのグループのメンバーは,3年ほど前からブラックホールの境界面として,event horizon, apparent horizonに次ぐ「isolated horizon」という概念を提唱し,考察を続けている. Ashtekarらの目的は,Hamilton描像に基づいた古典相対論のモデルをさらに量子化することにあるのだが, その副産物として,数値相対論への応用可能性もAshtekar自らが提唱していた.この論文は,同じく PennStateの学生らによって成された,isolated horizonの初の応用例である.

ブラックホールのホライズン
 ブラックホールの質量や角運動量を決めるためには,ブラックホールの事象の 地平面(event horizon)を 特定することが必要である.Event horizonは,光束が未来に渡って外側に抜け出せない最大領域として 定義され,そもそもブラックホールの定義である. しかし,event horizonは,4次元時空の総合的な情報として与えられるもので,時間発展を追うような ダイナミクス計算の途中ではその存在領域を特定することはできない.(過去に遡って,外向き 光測地線が捕捉されているかどうかの計算は可能である).そこで,数値シミュレーションでは, 見かけの地平面(apparent horizon)をブラックホールの定義に 換えて,時間発展を議論する.Apparent horizonは, 空間3次元超曲面上での外向き光束測地線の膨張率がゼロとなる最大領域で,要するにその時刻で光が外側に 広がれない,という領域である.定常なブラックホールなら,両ホライズンは一致するし,apparent horizonが存在するならば,その外側にはevent horizonがあることが証明されているので,apparent horizonを求めることは,ブラックホール存在の十分条件なのである.ちなみに,apparent horizonのトポロジーはS^2である,という予想があり,いまだに破られていない.
 しかし,ブラックホールの質量Mや角運動量Jを求めるには,apparent horizonの位置を特定するだけでは 理論的根拠が繋がらなかった.時空全体をADM質量で評価する方法もあるが,これでは,ブラックホール固有の物理量を取り出すには飛躍がある.Ashtekarらのアイデアは,この間隙にある.すなわち,ブラックホールが 物質の飛び込みや重力波放出などのダイナミカルな状況からある程度離れており,ある種「孤立(isolated)」 しているならば,Hamilton力学に立脚したブラックホール境界の定義がある程度可能であろう.そうなれば, 将来はさらなる物質の飛び込みによってMやJが増すかもしれないが,孤立状態中のブラックホールのMやJの 意味付けが可能になる.そうした意味で,孤立地平線(isolated horizon)という概念を構築した.
 isolated horizonは,光束測地線の膨張率がゼロとなる面(非膨張ホライズン(non expanding horizon),4次元時空中のトポロジーはS^2 x I のワールドチューブ)の空間断面として定義される.この定義の方法は, トポロジーを要求しなければ,Haywardが以前から提唱している捕捉地平面(trapping horizon) と同じものだ.
さらに,「孤立性」を意味させるために,isolated horizonは,そのHamiltonian力学との関連計算の上で,ホライズン上での光束測地線の膨張(expansion)だけでなく,歪み(shear)もねじれ(twist)もゼロとなる条件を用いる.そうすることで,空間3次元超曲面上で見るならば,isolated horizonは,もしそれが存在するのならば,apparent horizonのサブセットであることが証明される.

本論文の内容:isolated horizonの古典的応用
 ホライズン面は,光束測地線に沿っており,さらにexpansion, shear, twistがない光束ベクトル方向を考えると,Weyl曲率の一部Psi_2がゲージ不変な量として計算される.apparent horizonで囲まれた面積が一定であることと,Hamiton力学よりPsi_2の虚部が角運動量Jと直接関係づけられる[論文(22)式].さらに,この関係式は,extrinsic curvatureとホライズン上のKilling vectorとで,より簡単に求められる[論文(25)式].角運動量Jが与えられれば,ブラックホール熱力学の関係式より,ブラックホールの質量Mも決定される[論文(27)式].
 したがって,数値シミュレーションにおいて,isolated horizonを応用する手順は以下のようになる.
(1) apparent horizonを求め,そのホライズン上で,shearがゼロかどうか判定する.ゼロならば,isolated horizonの議論が応用可能となる.
(2) ホライズン上で,Killing vectorを求める.
(3) 角運動量Jを求め,質量Mを求める.

Killing vectorを求めるアルゴリズムを提示し,Kerr-Shild厳密解を用いて,以上の手順が数値的に可能であることを示した.数値解像度を上げるに従って,質量・角運動量が理論的な値に収束していく様子が示された.


 数値相対論に新しい手法と概念を持ち込んだ論文として評価できる.数値例は,現実的な応用例ではなく,厳密解を用いたデモンストレーションにすぎないが,(25)式の関係式の導出は新しいし,何よりこれまで長すぎるisolated horizon関係の論文を応用に主眼を置いて要約して書いてもらえたのは便利である.



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