NR2001研究会レポート
http://maths.unisa.ac.za/%7Enr2001/

2001年7月21日-24日@Krugersdorp, South Africa


文責 真貝寿明(shinkai@atlas.riken.go.jp)
2001.7.31 updated

 南アフリカ・ダーバンで開かれたGR16 (2001年7月)の翌週,数値相対論に話題を絞った研究会NR2001が4日間プレトリア近郊のサファリゲームパークの中で開かれました.参加者は40名弱,日本人は私の他に,吉田信一郎(SISSA)君と,西條君(Illinois)が参加しました.
 talkは一律一人25分.ほとんどがGR16での話の繰り返しでしたが,動物を見ながら親睦を深めました.
 なお,この研究会のtalkすべてのアブストラクト(latex)も http://maths.unisa.ac.za/%7Enr2001/prog.texで入手できます. proceedingsは,後日online版として公開するそうです.

============ トピック ==================

 この種の数値相対論と名打った小規模の研究会は,6年前のGregynogで開かれた研究会以来だと思う.当時は,close-limitと数値相対論の比較や,Cauchy-characteristic matching,3次元数値相対論コードでのSchwarzschildテスト計算などが議論されていた. 今回集まったのも,ほとんど同じメンバーといえる.

 ドイツAEIからは,Ed Seidelをはじめとして,多くのPD・学生が来ていた.Edは,ヨーロッパのAstrophysicsを組織して,将来的に共同で数値計算を軸に研究を行うEU-networkという構想を紹介.次回の集合は来年1月にSouthamptonで行うそうだ.ヨーロッパ在住ではなくても,メーリングリスト登録者を募っているとのこと.同時にEdは,彼のグループが推進しているCactusコードの紹介も抜かりなかった.今回の研究会でも2時間枠を設けて,デモンストレーションが行われた.
 Cactus http://www.cactuscode.org/ は「サボテン」を意味し,多くの人がそれぞれの目的に対して共同で数値コードを開発できるような環境をサポートする計算基盤である.現在version 4のbeta 10がリリースされている.Cactusの提供する文法に従ってプログラムを書けば(Fortran/Cどちらでも良い),自動的に並列計算環境が実現される.OSは,Origin, Cray, Linux他をサポートし(Fujitsuはだめ),この一年間で,計算結果はhtml形式でインタラクティブに出力され,計算実行中でのパラメータ変更,計算途中でのマシン変更も可能になったという.
 実は私は,WashUのPDだったころ,Cactusコードのモジュール開発をしていた(させられていた).当時は仕様がよく変更され,多くの時間がコードのメインテナンスに費やされてしまったが,現在コードの主要部分は固まってきたそうである.AEIは,ADM発展やSOR楕円型解法ツールをダウンロード可能としている(ただし,彼らが論文に使っているコードは公開していない).PennStateやTexas/Pitts/UBCは,CactusのMPI計算基盤だけを借用して独自にコードを書いている.最近SISSAグループもCactus利用を模索したようだ.私の経験からすれば,3Dでパラレル化を行うならば,Cactusを使うことによるメリットはあるのだが,個人で修得するにはあまりに複雑なシステムであり,現在でも本格的利用に躊躇しているところである.しかしCactusは,数値相対論の一分野を今後確実に突き進んでいくだろうと思われ,無視できない存在になってきた.

 数値計算結果の発表では,これといって目を引く新しいトピックはなかったように思う.数値データからclose limit発展を行うというCampanelli/Loustoは,一応その接続が可能になったと誇らしげだが,まだどの時点で計算をswitchするのかが不明確だし,より物理的な初期条件を準備する必要がある.AEIの学生の発表はどれも進行途中で結果はない.CCMのRay d'InvernoやNigel Bishopの進展もない.ドイツFriedrich派のconformal field approachも,まだテスト計算段階で実用に至っていない.
 ディスカッションの時間に一番の議題になったのは,実は私の話だった.私は,昨年JGRGで話した,「hyperbolic形式の発展方程式による計算の安定性の比較・constraint surfaceがアトラクターになるシステムの話」と,最近の「なぜ運動方程式にconstraintを加えると不安定性が抑えられることがあるのか」という話をした.後者は,実際多くのグループが現在試行錯誤的に実験をしているものであり(Cornell/Texas/PennState/UBC他),その背景をconstraintの発展方程式の固有値で説明するというアイデアは注目を集めた.私自身このアイデアだけでは十分ではないと思うが,将来的な初期値境界値問題を視野にいれたときには必要不可欠なステップ(Reula/Lehner)とも考えられており,来年前半に,この話題に限った小さな研究会をAEIで行う話が生まれた.

 南アフリカの冬は思ったより寒かった.サファリゲームリゾートでは,わらぶき屋根のコッテージに宿泊したが,早朝は凍えるほどだった.昼は暖かいのだが,外で食事をしていると,ダチョウや鹿に食べ物を奪われた.電子メール環境が閉ざされ,他に出ることもできない会場だったため,親睦を深めるのには絶好の場所であったといえる.

============  一行紹介 ==================

AEIとその周辺グループの話
  Ed Seidel
    ヨーロッパのastrophysicsネットワーク始動の紹介.Cactusコードの紹介.
 Gabrielle Allen(Cactusコード管理人)
  Thomas Radke(Cactusコード管理人)
  Cactusコードの紹介.I/O汎用性の紹介.計算結果のweb上での直接表示や
  計算パラメータの途中変更可能な仕様を紹介.
 Mihai Bondarescu(学生)
  Cactusコードのembeddingツールの紹介.
  Peter Diener (PD)
  Cactusコードを使った,BHバイナリ初期値をKerr-Schildで用意する話.
  将来的には,PN背景の初期値を用意するつもりらしいがまだ途中.
  Scott Hawley (学生)
  CactusコードのAMR開発の現状.2段階.「もう少し」とのこと.
 Sascha Husa (PD)
  Conformal field 数値コード開発をPeter Huebnerから引き継いだ話.
  Michael Koppitz (学生)
  thin-sandwich方法によるBHBH corotating初期値作成への中間報告.
  Denis Pollney (PD)
  shiftの条件として,ADM-BSSNで,Gamma^iの時間微分を抑えるような条件を
  実験中とのこと.
 Manuela Campanelli(研究員)
 Carlos Lousto(研究員)
  3+1 ADM数値計算後,データをclose limit線形近似にて発展させた.
  Kerr-Schild初期値でt=7Mから線形発展.(ただし共通ホライズン形成はt=17M)  

その他ドイツ人の話
  Joerg Frauendiener (Tuebingen)
  conformal field equationでの座標条件の話.
  Florian Siebel (MPI 学生)
  timelike-null座標による,single NS発展計算.Font-Papadopoulosの学生.

SISSAグループの話
  John Miller
  r-modeの不安定発展を止める可能性としてのshock形成の話.GRではNewtonianより
  heat transferがかなり低くなるので,簡単な解析ではわからない.
  Shin'ichirou Yoshida
  Yoshida-Eriguchiによる,高速回転星のmode解析の話.

南アフリカグループの話
 Nigel Bishop
  characteristic方法によるBH-NS連星初期値問題.BH質量がNSの1/10以下でないと
  forcusing形成となるのでだめ.

オーストラリアグループの話
 Anthony Lun
 Ray Burston(学生)
  Elizabeth Stark(学生)
  Ellisによるcomoving座標の紹介.基本的にEinstein-Christoffel (Anderson-York)
  と同じ.それをSchBH数値計算に応用してみる話と摂動方程式に展開してみる話.

Southamptonグループの話
 Ray d'Inverno
  Cauchy characteristic matchingコードの1D/2Dテスト計算.
 Jose M. Martin-Garcia (PD)
 Carsten Gundlach
  2+2球対称背景による流体摂動formulation.PRD61(2000)084024 PRD64(2001)March

在アメリカ大陸の人の話
  Luis Lehner (UBC, PD)
    初期値境界値問題へのアプローチのreview.並びに球対称時空での実験.
 Richard Matzner (Texas)
  PennStateのBHBH合体計算の紹介.最近,3Dでもg_rr成分運動方程式に拘束条件式を
  加えることでさらに長時間積分が可能になった.
  Osvaldo M. Moreschi (Cordoba)
  Robinson-Trautman時空の摂動をモードごとに解析.
  Motoyuki Saijo (Illinois, PD)
  PN流体コードによる回転supermassive星崩壊シナリオの計算.
  Marcelo Salgado (Mexico, PD)
  NSをnon-minimal coupling scalarを含めて平衡解を作った.
  Oscar Reula (Cordoba)
  球対称時空で,変数を再定義して,拘束条件式を運動方程式に加えること
  により長時間積分が可能に.

その他
 Bala R. Iyer (Raman)
  Shinkai [PRD60 (1999)067504]によるNSのPN展開をPade近似によって再近似する話.
  Philippe Grandclement (Meudonの学生)
  BHBH irrotational 初期値sequenceの話.主に数値テクニック.
 David Hobill (Meudonにサバティカル中)
  Brill waveによるbag of gold発生conjectureを詳しく調べた.発生しない.
 Dale Choi (Joan CentrellaのPD)
  AMR-3Dコードの話.2段階.テストは軸対称重力波.
 Carlos F. Sopuerta (Portsmouth, PD)
  metricを固定した流体計算のformulation.EinsteinCristoffel型.
  Ruth Williams (Cambridge)
  Regge Calculus 方法で,toroidal時空を扱える可能性の話.
 Nina Jansen (Denmark 学生)
  BHBH初期値をいろいろスピンをいれて用意するという話.sequenceを求めて
  いるわけではない.
  Hisa-aki Shinkai (理研, PD)
    双曲型運動方程式,asymptotically constrained形式などのformulationを
  拘束条件式を運動方程式に加えるという視点から総合的に調べ,固有値解析による
  安定性判定条件を提案


真貝寿明  Hisaaki SHINKAI 
____________________________________________________________
E-mail:  shinkai@atlas.riken.go.jp
URL:     http://atlas.riken.go.jp/~shinkai/
Office:  理化学研究所  計算科学技術推進室
         351-0198  埼玉県和光市広沢2-1
         phone:   048-467-9759 (dial in)
         fax:     048-467-4078 (計算科学)
____________________________________________________________