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大阪工業大学 情報科学部 宇宙物理研究室 2008年度 卒業研究

「重力波のデータ解析における分散処理の必要性」

学籍番号A05-043 情報科学科 氏名 北口 潤 

2009/3/2 作成

概要 / 目次 / 卒業論文/

概要

 一般相対性理論によれば、大質量の物体の激しい運動は周囲の時空を歪ませ、時空の歪みが波のように伝わる。この波動現象を重力波と呼ぶ。重力波の直接検出はまだされておらず、発見されれば重力波の天文学が発展する。本研究では、Einstein@homeという重力波検出を目的とした世界的な規模の分散処理プロジェクトを題材にし、計算過程の見積もりや分散して計算をさせる理由を研究した。
 Einstein@homeはレーザー干渉計から得られるデータを用いて、パルサーからの連続的な重力波を発見しようとするプロジェクトである。重力波はパルサーの形状が回転軸の周りで非対称であれば発生するとされており、電磁波を利用して正確な回転の周期がわかっているパルサーや、その他のパルサーが出すであろうと考えられる重力波の周波数を対象にする。フーリエ級数展開の特性を利用して、周波数が何Hzの波かまた何秒間に変化があったかを求める計算を分散して行う。
 本研究では、ノイズの中に重力波を含ませたデータを解析し、どのように周波数が不明な重力波を発見することができるのか検証した。
 図1は、1秒間の信号を20000個の値で与えたサンプルデータであり、ノイズの中に故意的な重力波を含んだ波で見た目では特定することはできない。このデータから周波数と重力波の発生時刻を描出するプログラムをC言語で作成し、シミュレーションを行った。尚、横軸は秒、縦軸は振幅を表している。
 図2は、180〜200Hzの間にノイズ以外の信号が含まれていることを示し198Hzの波が有力であることを表している。尚、横軸は周波数(Hz)、縦軸は全体の割合(%)を表している。
 図3は、周波数198Hzの波が0.8〜0.9秒間に重力波が到達していることを示している。尚、横軸は秒間(s)、縦軸は全体の割合(%)を表している。
 今回作成したプログラムでは、周波数50Hz~300Hzの間で1秒間(0.1秒刻み)のデータを用いて計算した結果、周波数と検出時間を特定するのに約6秒かかった。実際の解析を想定して、30時間分のデータで50Hz〜1500Hzで検出時間を0.001秒刻みで解析すると、現プログラムでは約104400時間かかり、約12年必要となる。実際のパルサー重力波の同定には、さらにパラメータがあるので、計算量はさらに増える。分散処理が必要な計算であることがわかった。


目次

  1. 序論
    1.1 背景
    1.2 本研究の目的
    1.3 本論文の構成

  2. アインシュタイン方程式
    2.1 アインシュタイン方程式
    2.2 重力波
        2.2.1 重力波の間接的な証拠
        2.2.2 予想される重力波源
        2.2.3 重力波検出への期待

  3. 分散処理
    3.1 Einstein@home
    3.2 その他のプロジェクト
    3.3 BOINCとは

  4. 数値解析法
    4.1 フーリエ級数展開
    4.2 区分求積法
        4.2.1 長方形近似
        4.2.2 台形の公式
        4.2.3 シンプソンの公式
    4.3 テスト解析

  5. 重力波描出のシミュレーション
    5.1 ノイズを含めたデータに対するフーリエ級数展開の精度
    5.2 ノイズを含めたデータから検出時刻の特定
    5.3 Einstein@home を想定したシミュレーション

  6. まとめ


卒業論文

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