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【総合人間学系教室】動物実験を実施せずに、新たな抗筋萎縮策を検討できる!?_3次元培養筋における機械的除負荷はタンパク質合成を抑制し、筋萎縮を引き起こす

2022.04.21

 大阪工業大学(学長:井上晋)工学部総合人間学系教室の中村友浩教授ら及び立命館大学(学長:仲谷善雄)スポーツ健康科学部スポーツ健康科学科の橋本健志教授らの研究チームは、独自の3次元培養細胞(以下、3D培養筋)における筋萎縮モデルを作製し、機械的刺激(例えば、重力負荷など)の減少により、筋萎縮を引き起こす原因が、筋タンパク質分解の増加よりも、筋タンパク質合成の低下によるものであることを明らかにしました。本研究成果は、2022年4月15日13時(日本時間)に、米科学雑誌「Journal of Applied Physiology」に掲載されました。


 
本件のポイント

● 機械的刺激の減少は、骨格筋を量的・質的に衰退させ、筋萎縮・筋力低下を引き起こす。
● 独自の3D培養筋における筋萎縮モデルにより、世界で初めて、培養細胞に対して機械的除負荷(機械的刺激を減少)させることで、直接的に、筋タンパク質合成や分解に関わる分子的メカニズムへ及ぼす影響を明らかにした。
● 機械的刺激の減少による筋萎縮は、筋タンパク質分解の増加よりも、筋タンパク質合成の低下に起因している可能性が示唆された。
● 3D培養筋における筋萎縮モデルは、動物実験を実施することなく、筋萎縮に対する予防・改善策を検討することができる革新的な生体外モデルとなる。
  
研究成果の概要

 3D培養筋は、シャーレ状で培養する平面(2D)培養筋細胞よりも、構造的に生体の筋肉に近似しており、アニマルフリーを見据えた新規培養モデルです。本研究は、3D培養筋を固定する2本のピンから、片側のみ切り離すことにより、機械的除負荷状態を作り出しました。それにより、生体筋と同様に筋重量や筋収縮力が低下することに加え、筋収縮関連タンパク質を減少させることが明らかになりました。さらに興味深いことに、筋細胞に対する機械的刺激の減少の直接的な影響として、筋タンパク質分解の増加よりも、むしろ筋タンパク質合成の低下によって筋萎縮が誘導されていることが明らかになりました。
 
研究の背景

 機械的刺激の減少(例えば寝たきりや身体不活動)は、骨格筋を量的・質的に衰退させます。この適応を筋萎縮と呼びます。しかしながら、機械的刺激の減少によって誘発される筋萎縮の根底にある分子メカニズムは、完全には解明されていません。従来の研究では、実験動物を用いた研究が主流でしたが、動物倫理の観点から、アニマルフリーへの転換が余儀なくされています。従来のシャーレ上で培養する2D培養筋細胞実験における筋萎縮の研究では、薬剤によって筋萎縮を誘導しており、そこには実際の機械的刺激の低下に伴う筋萎縮を模倣できていないという限界点がありました。
 
研究の内容

 マウス骨格筋由来のC2C12筋芽細胞と、type-1コラーゲンゲルからなる3D培養筋を2週間分化させた後、0日目の3D培養筋をストレッチオン-コントロール(CON)、筋の両端を人工腱で固定して2日及び7日間静置したストレッチオン(ON)、及び片側の人工腱を切り離して培養を続けたストレッチオフ(OFF)の3群に分けて実験を行いました。その結果、OFF群では、ON群と比較して、筋重量、筋長、筋収縮力、筋収縮関連タンパク質の発現量が、2日目及び7日目に有意に減少しました。さらに、筋タンパク質合成は、機械的除負荷により有意に減少しました。一方、筋タンパク質分解、特に代表的な分解経路であるユビキチン・プロテアソーム経路には、機械的除負荷の影響がありませんでした。したがって、3D培養筋に対する機械的除負荷においては、筋タンパク質分解の促進ではなく、筋タンパク質合成、細胞分化、細胞増殖の抑制を介して筋萎縮が起こることが明らかになりました。
 
社会的な意義

 上述したように、従来のシャーレ上で培養する2D培養筋細胞実験における筋萎縮の研究では、薬剤によって筋萎縮を誘導しており、実際の機械的刺激の低下に伴う筋萎縮を模倣できておりませんでした。この3D培養筋における筋萎縮モデルはこの限界点を克服でき、さらには筋萎縮に対する栄養補助食品や機械的負荷などの対抗策を、特に筋収縮力などの「機能性」の観点から評価するのに役立つ可能性があります。この新たな3D培養筋モデルは、臨床応用のための動物実験の代替となり、「アニマルフリー」な基礎研究基盤として、研究成果を社会実装することに貢献できると期待されます。
 
論文情報

論文名:Mechanical unloading of 3D-engineered muscle leads to muscle atrophy by suppressing protein synthesis
著者:Takeshi Sugimoto 1, Shoma Imai 2, Maki Yoshikawa 1, Toshia Fujisato 2, Takeshi Hashimoto 1, Tomohiro Nakamura 3
所属:1立命館大学スポーツ健康科学研究科、2大阪工業大学工学部生命工学科、3大阪工業大学工学部総合人間学系教室
発表雑誌:Journal of Applied Physiology
掲 載 日:2022年4月15日(金) 13:00(日本時間)
DOI:10.1152/japplphysiol.00323.2021
URL:https://doi.org/10.1152/japplphysiol.00323.2021
 
内容に関するお問い合わせ先

大阪工業大学 工学部総合人間学系教室 教授 中村友浩
TEL. 06-6954-4392(不在の場合は常翔学園広報室へ)
 
本件発信部署・取材のお申し込み先

学校法人常翔学園 広報室(担当:田中、上田)
TEL:06-6167-6208 携帯:090-3038-9887
 
2023年4月以降は、学校法人常翔学園広報室06-6954-4026までご連絡ください。
 

 

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