本を刊行するということ

知的財産専門職大学院 
教授 岩本 章吾

岩本 章吾
2013.03.01
 2013年3月に、本を一冊刊行する予定である。

 自分が担当している法律科目に関する解説書で、本文が600頁ほどあるので、――中身はともかく――分量は比較的多い方であろう。
 分量の多さのゆえに、この本の原稿を確定し校正の作業をするについて、多少の苦労があった。本稿では、そのことを書きたい。
 「苦労」と言っても、原稿の内容のことではない。形式面で、いかにミスをなくすかについての苦労である。

 原稿を執筆することは、それほど苦労とは思わない。いろいろ調べ物をして自分の考えを固めた上、一字一字キーボードを叩くという一連の作業は、多少骨が折れるが、それはむしろ楽しい仕事である。
 骨が折れ、しかも決して楽しくないのは、自分のワープロ原稿や校正ゲラを微に入り細に入り凝視し、形式的なミスを発見する作業である。
 形式的なミスには、誤字脱字、用語の不統一、句読点の不適正な使用、カッコの始めと終わりの不整合などがある。パソコンのワープロ機能は、書けない字も機械が勝手に変換してくれるので便利であるが、文脈を考えずに変換することがあるので、手書きの時代にはあり得なかった誤字が生じやすい。しかも、誤変換の表記には、なぜか不気味で不吉なものが少なくない(「独占」を「毒腺」と、また、「瑕疵」を「仮死」と表記するなど)。大抵気付いて修正するが、見落とすと悲劇である。カッコの不整合とは、例えば、二重カッコ「(( ))」なのに、閉めが一重カッコになっているようなことである(法律の文章には、三重カッコ、四重カッコも出てくるので、この種の不整合に気付きにくい)。
 いくら気を付けて文章を書いても、この種のミスが多数生じてしまう。
 私は、授業中に、自分が作成した教材を読み上げながら、初めて誤字に気付いて絶句したことが幾度かある。何度も読み返して、まず間違いないと思っていた教材なのに……。
 私の既刊書には、「教育委員会」を「教員委員会」と書き誤り、「一般店」を「一般点」と変換ミスをした箇所がある。そんなものが流通しているかと思うと顔から火が出そうであるが、今さらどうにもならない。
 二度と同じ後悔をすまいと、上記の解説書については、かなり入念にチェックをした。修正箇所は全部で数百か所に及んだと思う。
 元の原稿は2012年の初めにはできていた。それゆえ、昨年の今頃、私は、この本に関する作業はほぼ終了したつもりで、2012年は次の著書や論文の執筆に備えた充電の年にしようと思っていた。しかし、実際には、私の2012年は、上記の原稿の見直し、三度にわたる校正、索引の作成などで終わってしまったのである。充電どころか、放電ばかりの1年であった。

 入念なチェックをしたからミスが根絶できたかというと、とてもそれは無理である。気付かないままのミスがなお多数残っているに違いない。せめて致命的なミスがないことを神に祈るような気持ちで、私は間もなく拙書の発売日を迎えようとしている。

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