著作権保護期間延長と収益性上昇効果

知的財産学部 
講師 大西 宏一郎

大西 宏一郎
  • 図1 年あたりの追加利益と作品数の割合 図1 年あたりの追加利益と作品数の割合

    図1 年あたりの追加利益と作品数の割合

TPPやアベノミクスでの成長戦略の中で何かと知的財産制度が話題になっています。しかし、我々消費者の観点から望ましい制度はどういうものなのか、企業の競争力を高めるためにはどのような制度が必要なのか、その判断は難しそうです。特に、特許法に代表される知的財産制度は、発明の独占権を一定期間発明者に与えることで発明意欲を高めるというプラスの効果がある反面、良い発明が一人に独占されることによって、発明の普及が遅れたり、発明を利用したい人が高いお金を支払わなくてはならなくなったりするマイナスの面もあり、制度のあり方には難しい問題をはらんでいます。

私の研究の一つは、こうした知的財産制度について、どのような制度がより望ましいのかをデータを使って明らかにすることです。制度は人間が作るものですから、はじめから完璧なものはなく、時代に合わせて修正していく必要もあります。研究では、現行制度の望ましい点はどこか、改善が必要な場合にはどうすべきかについて考えます。
その一例として、2003年に映画著作権の保護期間が公表後50年から70年に20年延長されましたが、この改正がどのような経済的影響をもたらすのかを分析する研究があります。この改正は、保護期間の延長によって映画制作者がより長く著作物から利益を得られることがあるため、映画制作者の創作意欲が高まることを期待して行われたものです。
では、実際に延長によってどのくらい利益が増えたのでしょうか。ここで、延長された20年間に得た利益を単純集計するだけでは不十分です。なぜなら、延長されなかった場合でも、充分な利益が上がっていた可能性があるからです。厳密に計算するためには、延長後に得た利益から延長がなされなかった場合に得ていた利益を差し引いた額を求める必要があります。

私の研究では、延長の恩恵を受けなかった過去の映画作品が、仮に延長されていた場合にどの程度追加的な利益を得たのかをシミュレーションしました。その結果が図1になります。この結果では、一部の有名作品では年間2,000万の追加的な利益が見込めることがわかりましたが、半分以上の作品は年間50万円程度しか追加の利益が増加しないことが明らかとなりました。平均値で見た場合には、20年延長されることによる1作品あたりの利益はおよそ1,000万円程度にしかならないことになります。
この結果を映画制作者が多いととらえるか、少ないととらえるかは難しいところですが、映画一本製作するのに数億円かかることが多いので、延長の恩恵はそれほど大きくはないと判断できるのではないでしょうか。

私の研究分野の醍醐味は、賛否両論ある政策にある程度客観的に白黒付けるような証拠を提供できるところにあると思います。知的財産学部のゼミでは、数値を使った分析を行い、政策の効果だけでなく、アニメやマンガの売れ筋作品の傾向分析といった様々なことに取り組んでいます。データ分析に興味ある方は是非私の研究室に来てください。

論文出典
今西頼太・大西宏一郎(2012)「著作財産権存続期間延長論-存続期間延長による映画著作物の収益性上昇効果の実証的考察-」『知的財産法政策学研究』No.37, pp.215-252.

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