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空間情報デザインをめざして

都市デザイン工学科 
教授 吉川 眞

吉川 眞
2016.01.29
  • 図1 The Architecture Machine

    図1 The Architecture Machine

  • 図2 Design With Nature

    図2 Design With Nature

  • 図3 アプリ画像の高槻城本丸

    図3 アプリ画像の高槻城本丸

 40年以上も昔、筆者が大学1,2年の頃、A+U(Architecture and Urbanism:建築と都市)という雑誌が発刊され、その創刊号からThe Architecture Machine(図1)いう書物の日本語版が連載されていました。後にMITメディアラボの創設者となるネグロポンテ教授の著書で、その第1章のタイトルが「建築家と機械の共生」でした。「機械」とはコンピュータであり、CG: Computer Graphics, CAD: Computer-Aided Design などの言葉と初めて出会ったのもこの連載でした。都市デザイン(Urban Design)に漠然とした憧れを抱いていただけの学生にとっては、あまりに先進的で難しく、当時はとくに感銘を受けたというわけではありません。「建築家と機械の共生」など夢物語と侮っていました。しかし、第4章の「URBAN5」と呼ばれる実験的なシステムに少なからず関心をもったのも事実です。
 一方、専門課程の何かの講義で紹介されたDesign With Nature(図2)は、設立間もない環境工学科の学生であった筆者にとって、環境データを計画の立案プロセスに組み込む手法を提示していて、言ってみればバイブルそのものとなりました。色数は少なくてもカラー刷りの主題図や鳥瞰図は、今見ても大変魅力的なものです。環境データを地図上に展開して表現するマッピングという手法を駆使する点が、後年、筆者に地理情報システム(GIS: Geographic Information System)という領域への目を開かせてくれました。また、都市デザインの中でも景観が主たる対象となった理由の一端は、この本にあるのかも知れません。
 筆者の研究室では、実際のプロジェクトやまちづくりと連携した都市デザイン・景観デザインを対象に、その道具としてCAD/CGやGISなどの空間情報技術を活用する空間情報デザインをめざしています。たとえば、高槻市教育委員会と協働してきた「高槻城の復元」プロジェクトでは、2015年7月に「AR高槻城」をリリースしています。「AR高槻城」は、GIS、GPS、CGなどの技術を、拡張現実感(AR: Augmented Reality)に応用して、スマートフォンなどの端末の中に江戸時代の高槻城と城下の街並みを再現することができるアプリです。アプリをダウンロードしたスマートフォンを高槻城跡でかざすと、かつてその場所から見えていた江戸時代の景観(図3)が画面上に映し出されます。
 振り返ってみれば、この研究プロジェクトの基点も学部学生の頃に出会ったこの2冊に求めることが出来そうです。UCLA建築・都市計画大学院での留学中に両方のペーパーバック版を手に入れ、今も自宅書斎の直ぐに手の届く書棚に置いています。