「日本刀作りを科学する」

機械工学科 
講師 伊與田 宗慶

伊與田 宗慶
  • 刀匠さんによる試験体の加熱風景 刀匠さんによる試験体の加熱風景

    刀匠さんによる試験体の加熱風景

  • 焼入れ時の試験体変形挙動 焼入れ時の試験体変形挙動

    焼入れ時の試験体変形挙動

  • 焼入れ前後の試験体組織変化 焼入れ前後の試験体組織変化

    焼入れ前後の試験体組織変化

みなさん,日本刀を知っていますか?そう,侍がその昔武器として使用し,今では日本有数の伝統工芸品として受け継がれているそれです.バカにするな,と言われそうな質問ですが,ではみなさん,日本刀が現代のものづくりにおいても使用されている「工学の知識の結集体」であることは知っていますか?今回の記事では工学研究者の立場から,少しだけ日本刀のお話をしたいと思います.
 日本刀といえば「折れず,曲がらず,よく切れる」と表現されるように,非常に切れ味の鋭い刃物であることはみなさんよくご存知だと思います.では,なぜ日本刀にはそのような性質があるのか,また日本刀特有の「反り」はなぜ生まれるのか.そんな不思議に迫るべく,私の研究室では,様々な計測技術を駆使して,日本刀作りを工学の立場から研究しています.
 先にも書いた日本刀特有の「折れない」ことと「よく切れる」ことは,ある意味相反する特性であることは想像できるかと思います.よく切れるためには,硬く鋭利でなくてはなりませんが,一方で硬すぎると折れやすくなります.この矛盾する特性を両立させるために,日本刀では炭素鋼のサンドイッチ構造(造込み)になっています.例えば,造り込みの1つである「甲伏せ」と呼ばれる構造は,刃を中心に外側に硬い鋼を用い,内部から棟にかけて柔らかい鋼を用いることで,外側は硬く,でも刃側から衝撃が加わっても棟側の柔らかい鋼で衝撃を吸収する,そのような構造となっています.
 一方,そのようなサンドイッチ構造にしただけでは,切れ味の鋭い,また折れない日本刀には仕上がりません.このサンドイッチ構造に対して「焼入れ」という処理を施すことで,日本刀は初めて強靭な武器へと変身します.金属は加熱する温度とその冷やし方で特性が大きく変わります.簡単に言うと,高温まで加熱したものを速く冷やすと硬くなり,ゆっくり冷やすと柔らかくなります.この速く冷やすことを「焼入れ」と呼びます.実はこの焼入れ技術は日本刀だけでなく,私たちの身の回りの製品にも多く使われている技術ですので,興味を持った人は是非自分で調べてみてください.話を戻しますが,日本刀においてもこの焼入れという技術が用いられますが,せっかくのサンドイッチ構造に対して日本刀全体を一気に早く冷やしてしまうと,せっかく棟側に柔らかい鋼を使っても硬い鋼へと変化してしまいます.硬くするのは刃側だけでいいのです.そこで,「焼き刃土」と呼ばれる土を,刃側には薄く,棟側には厚く塗布することで,冷える速さを制御しています.そしてこの焼入れ過程において,日本刀特有の「反り」が発生します.詳しいことは言いませんが,熱を加えられたことにより発生するひずみと組織が変化するときに発生するひずみが刃側と棟側では異なり,このことが反りを生じさせています.つまり,反りは日本刀が日本刀として機能するために変身する際に,得てして発生してしまうものなのです.

 この日本刀の作り方については,刀匠さん独自の手法が多く存在しますが,その作り方には何かしら理由があり,またそれを工学の立場から明らかにすることで,現代のものづくりに役立つ新たな技術を知ることができると期待して研究を進めています.新しいことばかりに目を向けられがちな現代,みなさんも「温故知新」の精神で,物事に取り組んでみてはいかがでしょうか?

ページの上部へ

大阪工業大学