多義語のおもしろさ

情報メディア学科 
教授 田岡 育恵

田岡 育恵
  • 助動詞mustの2つの意味 助動詞mustの2つの意味

    助動詞mustの2つの意味

1つの言語形式に複数の意味がある場合があります.たとえば、bankには,「土手」と「銀行」の2つの意味がありますが,この2つの意味は互いにかけ離れているので,「土手」と「銀行」は,英語ではたまたま同じ発音,同じスペルになったのだとしか思えないでしょう.しかし,一般に複数の意味があると思われている語の中で,それらの意味に共通する意味を認めることが可能な場合もあるのです.

英語の助動詞で,その例を挙げてみましょう.たとえば,英語の助動詞mayには「許可(~してよい)」と「推量(~だろう)」の2つの意味(用法)があり,助動詞mustには「義務(~しなければならない)」と「推定(~に違いない)」の2つの意味(用法)があると一般に言われています.しかし,Sweetserという言語学者は,このようなmayとmustが持つ複数の意味(用法)の共通点を指摘しました[1].次の例文を見てください.

(1) a. John may go. ジョンは行ってもよい(許可)
b. John may be there. ジョンはそこにいるかもしれない
(推量)
(2) a. You must come home by ten. あなたは10時までに帰宅
しなければならない(義務)
  b. You must have been home last night. あなたは昨夜、
家にいたに違いない(推定)

では、(1a) の「許可」のmayと(1b)の「推量」のmayは、どのように共通すると言えるのでしょうか?(2a)の「義務」のmustと(2b)の「推定」のmustは、どのように共通すると言えるのでしょうか?Sweetser (1990: 61) は,これらの文を次のように解釈しています.

(3) a. John may go.
“John is not barred by (my or some other) authority from
going.”
b. John may be there.
“I am not barred by my premises from the conclusion that
he is there.”
(4) a. You must come home by ten. (Mom said so.)
“The direct force (of Mom’s authority) compels you to
come home by ten.”
b. You must have been home last night.
“The available (direct) evidence compels me to the
conclusion that you were home.”

Sweetserの解釈によれば,(3a)「許可」のmayは,「~することを阻まれていない」ということであり,これに対して,(3b)「推量」のmayは,「~という結論にすることを阻まれていない」ということになります.(4a)「義務」のmustは「~の権威が誰それに~することを強いる」であり,他方,(4b)「推定」のmustは「~の証拠が誰それに~という結論を強いる」ということになります.つまり,mayの場合は,「許可」であれ「推量」であれ,「~阻まれていない」が共通項として考えられ,mustの場合は「義務」であれ「推定」であれ,「~を強いられる」が共通項として考えられるということです.

このように考えれば,英語学習において,それぞれの助動詞について複数の意味を覚えなければならないということではなく,1つの助動詞の根源的な語の意味が分かると,多様に見える用法は,その根源的な意味との連想で捉えられるということになります.ちなみにcanは「~できる」という意味の助動詞ですが,もともと語源的にはknow「知っている」につながります.何かを「できる」ようになるのには,それを「知る」ことが必要ですから、この意味の展開は納得がいくように思えます。

助動詞以外でも,たとえば、名詞promiseには、「約束」だけでなく、「見込み」(例 a young man of full promise、将来有望な若者)や「気配」(例the promise of spring、春の気配)の意味が辞書に記載されています.考えてみれば、ある状況が十分,起こり得るという「見込み」がなければ,「約束」はできません.そうでなければ、空約束になってしまいます.

英語でも日本語でも同じ単語に複数の意味がある場合,ちょっと立ち止まってそれらの意味に共通する部分はないか考えてみるのも面白いと思います.

【参考文献】
[1] Sweetser, E. E. (1990) From Etymology to Pragmatics: Metaphorical and Cultural Aspects of Semantic Structure. Cambridge.

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