「もの」と「もの」を接続するネットワークの構築

情報ネットワーク学科 
教授 松井 進

松井 進
  • 図1 マルチホップネットワーク 図1 マルチホップネットワーク

    図1 マルチホップネットワーク

  • 図2 従来の無線ネットワーク 図2 従来の無線ネットワーク

    図2 従来の無線ネットワーク

  • 図3 自律移動中継ロボット 図3 自律移動中継ロボット

    図3 自律移動中継ロボット

「もの」のインターネット

インターネットの始まりは1969年に米国のカルフォルニア大学ロサンゼルス校、スタンフォード研究所、ユタ大学、カルフォルニア大学サンタバーバラ校の4拠点を50kbpsの通信回線で接続したARPANETであると言われています。その後、1990年頃のインターネット上で情報検索を行うWWW(World Wide Web)の開発や、1995年のインターネット接続機能を取り込んだWindows95の製品化などによりインターネットの利用は飛躍的に増加していきました。2014年にはインターネットに接続されているコンピュータの数は60億台以上となっています。
一方、コンピュータの利用形態は1970-80年代の大型計算機中心のクローズ(1社の製品でシステムすべてを構築する)形態から、ミニコンピュータ/ワークステーション/パソコンによるオープン(各社の製品を組み合わせてシステムを構築する)形態へと大きく変化していきました。空調の効いたコンピュータ室にある大型計算機を多くのユーザがシェアして使う形態から、ユーザの手元にコンピュータを設置し占有して使う形態への変化です。1991年にはこれをさらに推し進めた概念が発表されました。Xeroxパラアルト研究所のマーク・ワイザー氏によるユビキタスコンピューティングの概念です。これは多数のコンピュータが環境に溶け込み、ユーザはコンピュータを使っているという意識なしにコンピュータのサポートを受けるという考え方です。“ユビキタス”は「どこにでもある」という意味で使われています。自動車1台にモータが100個以上使われていますが、ユーザはモータを使っているという意識なしにウィンドの上げ下げや、サイドミラーを操作しているのと同じです。
1991年から25年経ち、ユビキタスという言葉は使い古された感がありますが、近年、IoTと名前を変えて実用化の時期をむかえています。IoTとはInternet of Things、つまり「もの」のインターネットです。「もの」とは机や椅子、部屋の鍵、ドア、照明などなど、「身の回りのもの」全部です。更に、今後は身の回りの環境に多数のセンサーが埋め込まれようとしています。2020年から2025年には1兆個以上のセンサーが環境に埋め込まれるとの予測もあります。では、このような現在のインターネットに接続されているコンピュータの数とは比較にならないような膨大な数の「もの」を接続するネットワークはどのようなものになるのでしょうか?

「もの」と「もの」を接続する無線マルチホップネットワーク

「もの」を接続するネットワークは利便性の観点から無線ネットワークが中心と考えられます。従来の無線ネットワークは有線ネットワークによりインターネットに接続された無線基地局やアクセスポイントと呼ばれる親局を中心に無線端末が配置される構成をとります。無線端末と親局は互いの無線信号が届く範囲にある必要があります。携帯電話のネットワークはこのような構成をとっています。しかし、「もの」を接続するネットワークでは少し事情が変わってきます。携帯端末はある程度の容量のバッテリーを想定できるため、無線の送信電力をある程度大きくすることができ、親局と数km離れても通信が可能です。一方、「もの」の代表であるセンサーはボタン電池で数年稼働させるという要求もあり、無線送信電力を大きくることができません。つまり、親局との距離を大きくすることはできないことになります。別の言い方をすると、ある範囲の「もの」を接続するには、携帯電話の場合に比べて親局の数を相当数多くする必要があります。
そこで「もの」を接続する無線ネットワークとして、マルチホップネットワークが有力視されています。図1にマルチホップネットワークの構成、図2に従来の無線ネットワークの構成を示します。マルチホップネットワークでは各端末が他の端末の通信データを中継していきますので、親局の数を少なくすることができます。各端末は定期的に周りの端末(直接通信できる端末)を検索するとともに、その情報をネットワーク内の他の端末に通知します。これにより、ある端末と通信するためにはどの端末を経由して通信するかを決めることができます。この手続きはルーティングプロトコルと呼ばれ、OLSR(Optimized Link State Routing Protocol)やRPL(IPv6 Routing Protocol for Low-Power and Lossy Networks)などのプロトコルがインターネットの標準を決める組織であるIETF(Internet Engineering Task Force)で標準化されています。なお、マルチホップネットワークはアドホックネットワークとも呼ばれています。“アドホック”は「その場かぎり」という意味で、持ち寄った端末だけ構築されるその場かぎりネットワークです。

マルチホップネットワークを利用するIoTシステム

マルチホップを利用した大規模IoTシステムの代表例は、各家庭の電力メータを接続するスマートメータシステムです。これまで、1カ月に1回程度検針員がチェックしていた各家庭の電力使用量を、マルチホップネットワーク経由で30分に1回程度収集するシステムです。これにより、時間帯別の電力使用料金の設定や、電力使用量逼迫時の節電制御などを行うことげできるようになります。920MHzの帯域を利用した無線ネットワーク(WiSUNと呼ばれています)で、1台の親局に対し500台程度の電力メータがマルチホップで接続されます。国内の各電力会社は2020年頃までを目指して、システム構築を推進しています。日本全国で、8,000万台程度の電力メータがネットワーク化される予定です。
私の研究室でもマルチホップを利用したIoTシステムの研究開発を進めています。
[映像モニタリングシステム]
インターネット環境が存在しない場所の映像をモニタリングするシステムです。山奥の観光資源(滝など)の映像をWeb上で公開することを想定しています。滝などに近くにカメラを設置し、据え置き型の端末を複数設置することにより、その映像をマルチホップでインターネット環境がある場所まで中継していきます。据え置き型の端末はバッテリーとソーラパネルを組み合わせて、AC電源なしでの継続的な稼働を可能にします。
[自律移動端末による映像モニタリングシステム]
上記システムは中継する端末は据え置き型でしたが、このシステムは中継する端末が自律移動します。災害地などで人が入れない場所にロボットが入っていき、映像モニタリングすることを想定しています。カメラを搭載した移動ロボットは映像監視センターからの遠隔操縦で災害地に入っていきますが、映像監視センターと移動ロボットの距離が離れて無線通信ができなくなることが考えられるため、無線中継するためのロボットが移動ロボットとの無線電波強度や、移動ロボットの位置を参照して自律的に移動していくシステムです。これにより、災害地の奥深くの映像監視を行うことができます。
以上の他にも、車間のネットワークや、農場環境間システムなど、マルチホップネットワークを利用したIoTシステムが実用化されようとしています。

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