本文へスキップ

機械工学科「宇宙推進工学研究室」HEADLINE

小惑星探査機「はやぶさ」を超えて,新型ロケット発進!

 機械工学科・宇宙推進工学研究室(Advanced Rocket Laboratory)では,田原 弘一 教授のご指導のもと,大学院生10名(博士前期課程8名,博士後期課程2名),学部4年生10名が先進宇宙工学に関する研究に日夜励んでいます.田原教授にご研究の内容を平易にご解説いただきました.
1.宇宙大航海時代の幕開け!
 皆さんはロケットと言えば,地上から轟音を発し飛び立つ大型ロケットを思い浮かべるでしょう.ロケットは人工衛星を宇宙に運ぶ乗り物であり,その人工衛星は通信・放送分野,天気予報など我々の生活に無くてはならない情報を提供してくれます.こうして,宇宙から地球に恩恵を与えてくれる人工衛星ですが,一度,ロケットから宇宙空間に放出されると,所定の軌道を周るばかりで,ほとんど自由に動くことはできません.すなわち,現状の宇宙利用は,ほとんどが地球周りに打ち上げられる,自分では移動できない人工衛星に限られたものです.
 しかしながら,近年では理工学,医学などあらゆる分野で宇宙飛行士長期滞在による国際宇宙ステーションの利用が活発になり,さらには宇宙ステーションを足がかりに,月基地の建造(図1),有人火星探査,遠方の惑星への探査が積極的に計画されています.地球を遠く離れた宇宙へ人類の英知が届こうとしているのです.
        
              図1 ロケットエンジンを備えた月物資輸送船団
              (JAXA宇宙科学研究所・国中 均 教授からの提供)

 日本では,図2に示す小惑星探査機「はやぶさ」がマイクロ波放電式イオンエンジンを駆り地球に帰還,その高度技術は世界中から称賛されました.この多くの困難を乗り越えた成功は,日本に限らず世界中の人々を感動させ励ましたと同時に,人類が本格的に宇宙を旅する,宇宙大航海時代の幕開けと言っても過言ではありません.
 これらの高度ミッション(使命)を達成する乗り物・スペースクラフトには宇宙を自由に飛翔するために,宇宙航行用のロケットエンジンが必要不可欠なってきました.
  
                図2 小惑星探査機“はやぶさ”(JAXA提供)
 (左図:小惑星“いとかわ”を目指して飛翔する“はやぶさ”, 右図:宇宙航行用イオンロケットエンジン4台)

2.化学ロケットエンジンと電気ロケットエンジン
 ロケット推進の原理を考えて見ましょう.図3に示すように,ジェットの強さ(ロケットエンジンが発生する力(推力))は,ジェットの重さ(1秒間に噴出するガスの質量)とジェットの速さ(噴出するガスの速度(噴出速度))の掛け算(積)です.ジェットの重さが大きいか,ジェットの速さが大きいか,どちらが宇宙航行用のロケットエンジンには望ましいでしょうか?ジェットの重さが大きいロケットエンジンは大量の燃料を必要とします.長期間,宇宙を飛翔するスペースクラフトに大量の燃料を載せることはできません(燃料ばかり載せては肝心の機器や人を運べない!).すなわち,ジェットの速さが大きいロケットエンジンを使って搭載燃料の量は極力小さくし,より遠くまで飛ぶことが宇宙航行には望ましいのです.そうです,高速噴射のロケットエンジンは燃費がよく,車で言うと,ソーラーカーや電気自動車のようなもので,宇宙航行にはこれしかありません.
        
                    図3 ロケット推進の原理

 ロケットエンジン(図4)には,化学燃料ロケットエンジンと電気推進ロケットエンジンの2種類があり,前者は燃料を酸化剤と共に燃焼させ,その高温・高圧のガスをノズルで膨張噴射させ推力を発生させます.地上から宇宙へ人工衛星を運ぶロケットのエンジンはこれです.日本の宇宙航空研究開発機構(Japan Aerospace eXploration Agency: JAXA)のH-IIA, H-IIB地上打上げロケットの主エンジンLE-7, LE5シリーズは,液体水素を燃料,液体酸素を酸化剤とした燃焼反応(燃焼温度3300℃)が用いられ,その燃焼ガスのノズル噴射速度は4.5km/secにもなります(現状の衛星打上げロケットエンジンでは最も性能が高い!退役した米国スペースシャトルの主エンジンもこれです).一方,ロシアやインドなどが所有する打上げロケットの燃料と酸化剤は,酸化剤に四酸化二窒素(N2O4)を用い,燃料にヒドラジン(N2H4),MMH(モノメチル・ヒドラジン),RP-1(ケロシン相当)などを使用しており,それらの噴射速度は3.5km/sec程度です.これらロケットエンジン性能の違いは,燃焼温度に起因するものですが,より高い温度で安定した燃焼を維持するには流体や耐熱材料などに高い技術が必要になってくるのです(日本のロケットエンジン技術は世界に誇れるものなのです!).
        
          図4 化学燃料ロケットエンジンと 電気推進ロケットエンジンの比較

 一方,電気推進ロケットエンジンでは,放電を利用し推進剤ガスをプラズマにし,すなわち電気を流せるガスの状態にします.例えば,蛍光灯の中のような状態と思ってください.この電気を流せるガスを電気の効果を利用して加速・噴出します.電気の効果とは,(1)電気加熱(電熱線が発熱する効果),(2)電磁力(ローレンツ力)(電磁石,モーターの原理),(3)静電力(プラス電気とプラス電気が反発する力(探査機「はやぶさ」のイオンエンジンの原理))であり,それぞれに適したミッションがあります.
 宇宙推進工学研究室では,JAXAと共同で,電気加熱型エンジンに属する直流アークジェットエンジンの開発を行っています(図5).推進剤ガスには,ヒドラジン(N2H4,これをガス発生装置で分解し,窒素と水素の混合ガスとして使用),アンモニア(NH3,これも分解ガスとして使用),水素(H2)が用いられ(加熱するので比熱が大きいガスが良い!),その噴射速度は5-8km/sec程度です.主に,地球周りの大型人工衛星の位置・姿勢制御に使用されてきましたが,最近では,毒性の高いN2H4からクリーンな推進剤:硝酸ヒドロキシアンモニウム(NH3OHNO3: Hydroxyl Ammonium Nitrate: HAN)への代替を目指した技術開発が世界中で行われています.日本はそのトップランナーとして先導する立場にあり,我々研究室の役目は重要です.
 電磁力を利用した電磁加速プラズマエンジンは,将来の有人火星探査用エンジンとして有望視され,宇宙推進工学研究室でもJAXAと共同で開発を進めています(図5).その推進剤は多様ですが,主にアルゴン(Ar),水素,アンモニアが利用され,10-50km/sec程度の噴出速度が得られます.
   
     図5 直流アークジェットエンジン(左図)と電磁加速プラズマエンジン(右図) の噴射状態

 さらに我々の研究室では,「はやぶさ」に搭載されたグリッド型イオンエンジンとホール型イオンエンジンの開発研究も行っています(図6).これらのロケットエンジンは静電加速型に属し,推進剤はキセノン(Xe)です.重い原子Xeが使用される理由は,電離電圧が低くイオンの生成コスト(エネルギー)が小さくて済むほか,一定のイオン加速電圧下では重いイオンほど推力(加速イオン1個当たりの運動量)が大きくなる(静電加速原理)からです.発生推力はロケットエンジンの中では最小ですが噴出速度は高くなり,20-100km/secが得られ(燃費は最大!),惑星探査,深宇宙探査用に利用されます.
   
          図6 ホール型イオンエンジンの実験装置(左図)と噴射状態(右図)

 以上のことから,化学ロケットエンジンと電気ロケットエンジンの噴出速度(ジェットの速さ)を比較すると,後者が数倍から一桁大きい値を達成できます.すなわち,宇宙航行用には電気推進ロケットエンジンが望ましいことがわかります.

3.学生による前人未踏の宇宙開発!
 微小電力テフロン噴射電気推進による超小型衛星の動力飛行

 近年,コスト削減とリスク低減の観点から,ロケットの余剰荷重量を活用して打ち上げられる超小型衛星(一般に質量50kg以下の衛星)開発・打ち上げ計画が世界中で増えています.こうした超小型衛星の研究開発の活性化,需要の増大により,小型・軽量・低電力の衛星推進系として,電気ロケットエンジンの一種であるパルスプラズマエンジン(Pulsed Plasma Thruster: PPT)が注目されています(図7).PPTでは,繰り返しパルス放電により放電室チューブ壁である固体推進剤:フッ素樹脂,四フッ化エチレン(Polytetrafluoroethylene: PTFE,通称テフロン)を昇華,高温・高圧状態のガスにし噴出させるので,推進剤タンク・バルブが不要でシステムの簡素化,軽量化が可能であり,小型衛星に最適です.
 
 
             図7 電熱加速型パルスプラズマエンジンの作動原理(左図)と
      プロイテレス衛星1号機搭載用エンジン本体の概観・ 噴射ジェット(右図,流れは左から右へ)

 大阪工業大学では,図8,9に示す,電熱加速型PPTを搭載した超小型衛星プロイテレス1号機(電気推進ロケットエンジン搭載地球観測小型実証衛星)を開発し,2012年9月9日(インド現地時間9時53分(日本時間13時23分))にインド宇宙研究機関(Indian Space Research Organization(ISRO))サティシュダワン宇宙センターよりPSLVロケットC21号機(図10)を用いて打ち上げました.その成功は世界中から賞賛され,本格的な学生による宇宙開発,学生でもここまで出来るのかと多くの一般の方から応援のメッセージを頂きました.また,開発に携わった学生諸君にとっては一生涯忘れることができない大感動であった,言葉で言い表すことができないことであったと思います.
 
図8 大阪工業大学・電気推進ロケットエンジン搭載
小型スペースシッププロジェクト
(パルスプラズマロケットエンジンの
噴射による動力飛行)

図9 プロイテレス衛星1号機のフライトモデル
(宇宙を実際に飛翔中の衛星そのもの,下部には人
工衛星をロケットから分離するための装置有り)
     
       図10 インドPSLVロケットC21号機によるプロイテレス衛星1号機の打ち上げ
       (2012年9月9日,インド宇宙研究機関サティシュダワン宇宙センター)(ISRO提供)

 プロイテレスとは,「大阪工業大学・電気推進ロケットエンジン搭載小型スペースシッププロジェクト(Project of OIT Electric-Rocket-Engine onboard Small Space Ship (PROITERES))」の略です(ギリシャ神話の神秘な神の名のごとくカッコいい!).本プロジェクトは,本学学部学科の教員・学生の横断的な参加による,広範な工学技術の開発・実践を通して,度な研究・教育活動を目的としたものです.特に,ものづくり教育の一環として学生主導で開発研究を進め.安価な民生品の活用.短期間の衛星開発・打ち上げ計画の立案・実行を目指すものです.
 プロイテレス衛星の本体は一辺30cmの立方体という小さなもので,質量は14.5kg,太陽電池で10Wの電力を得て,高度660kmの太陽同期軌道(ほぼ北極と南極の上空を通過する軌道)の宇宙空間を航行しています.本衛星では,電熱加速型PPT(噴射速度6km/sec,推力250mN,電力2.4W)を搭載し,軌道の高度変更実証実験を行います.超小型衛星の動力飛行,すなわち超小型衛星ですが地球周りを自由に飛翔できることが実証できれば,地球上のすべての地域の上空に衛星を迅速に移動させることができ,地球の環境観測,災害など不測時の観測,衛星通信などあらゆる用途に画期的な変革をもたらす可能性を秘めています.さらに衛星寿命末期には電気推進により高度を下げ自ら大気圏突入をさせ消滅させます.すなわち宇宙デブリ(宇宙ゴミ)にはなりません.
 機械工学系,電気電子工学系,通信工学系,コンピュータ・制御工学系などの学部学科から集まった,総勢40名の学生の衛星開発グループは,エンジン系,姿勢制御系,通信系,電源系,コンピュータ系,光学系,熱設計系,構造系の8つの小グループに分かれ,個々の担当機器の設計・製作,統合した衛星試作機を開発しました.学内大型工作センターの最新鋭の工作機械,CAD/CAM,コンピュータ解析ツールをフルに活用,近くのホームセンターや日本橋の電気街で材料やパーツを買い集め,手作り,環境試験,改良の繰り返しでした.
 現在,プロイテレス衛星1号機は初期運用モード中であり,若干の不具合に見舞われていますが,解決でき次第,ミションの遂行予定です.さらに,2010年11月よりプロイテレス衛星2号機(電気推進ロケットエンジン動力飛行型地球観測超小型実用衛星(衛星質量50kg,30WクラスPPT搭載)),3号機(電気推進ロケットエンジン動力飛行月探査超小型衛星(衛星質量50kg,30Wホール型プラズマエンジンによる月への動力飛行))の開発研究に民間組織を含めた大きな枠組みで着手しました.学外のメーカーの方々にご協力頂きながら,学生の挑戦はどこまで続くのか楽しみに見守っています.皆さん,開発が進むプロイテレス衛星2号機,3号機の応援よろしくお願い致します.

未来は決まってはいない!未来は創るものである.
挑戦しなければ未来は開かない!

このキャッチフレーズが宇宙推進工学研究室に所属する学生の合言葉ですが,学生諸君は身をもって体感していることでしょう.
宇宙推進工学研究室 HP: http://www.oit.ac.jp/med/~tahara/jp/index-j.html


このページの上へ