宇宙推進工学研究室<Advanced Rocket Lab.>



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    パルスプラズマスラスタ
     パルスプラズマ推進機(Pulsed Plasma Thruster: PPT) は、一般には固体/昇華性のポリテトラフルオロエチレ
    ンPTFE(通称テフロン®) を推進剤としたパルス電磁加速型電気推進機である。その研究開発は1960年代から始めら
    れ、宇宙機に搭載された最初の電気推進機となった火星探査機Zond-2(1964年)の太陽指向調整用、10年間8900時間
    作動した通信衛星LES-6(1968年)の東西位置制御用、また静止気象衛星SMS(1974年)やTIP/NOVA シリーズ(1976-
    1984年)の大気抵抗補償用等に利用されてきた。 日本でも1974年L-4SC-3号機や、1981年ETS-IV(70時間、30万回作
    動)に搭載され、軌道試験が行われた。
     図1に示すように平行平板電極型PPTでは、 主パルス放電のエネルギー源となるキャパシタは低インダクタンス回
    路により電極に直接接続されており、トリガ放電(約0.1W程度)によって、固体推進剤の表面に沿って大電流のパル
    ス放電が開始される(主放電回路はLCR回路で近似され、その放電は通常10μ秒程度の減衰振動波形となる)。 主放
    電により推進剤が昇華・解離、電離されてプラズマが形成され、このプラズマが放電電流と自己誘起磁場により発生
    する電磁力および高圧プラズマの気体力学的膨張によって加速される。
    テフロン背面供給型PPT         側面供給型PPT   図1 平行平板電極型パルスプラズマ推進機の構造と加速原理
     こうしてPPTはシンプルな機器であり、数μ秒間のメガワットクラスの大電流パルス放電により、 パルス状のイン
    パルスビットを発生させる。数分の1Hzから数Hzのこの繰り返しが平均推力となる。PPTの動作範囲は、インパルスビ
    ット10-1000μN・s、比推力400-1000秒、時間平均電力数W-200W程度である。
     近年、小型衛星の研究開発の活性化、需要の増大により、小型・軽量な衛星推進系の必要性から、 PPTが再び注目
    されるようになった。


    その理由としては、 (1)構成が簡単で、小型・軽量・低電力で高信頼性の推進機を、低コスト、短期間で開発することが可能であること、
        (2)固体推進剤の場合、タンク・バルブ等やウオームアップ・待機電力が不要、かつμG、極低温、真空環境で変質
    せず、非腐食性、無毒で、長期保管が可能であること、
    (3)任意時間間隔で、微小パルス推力を発生できるので、衛星のフォーメーションフライト等に重要な姿勢・位置制御
    のための全力積を正確に発生でき、かつ任意の推力レベルに設定できること、
    (4)インターフェイスが簡素で、数W程度の電力供給を受けるだけで作動でき、搭載レイアウト上の制限がないこと、
    などが挙げられる。
    小型衛星用推進機として、アメリカでは2000年にEO-1 (質量529kg)のピッチ軸制御用に搭載され
    フォーメーションフライトが計画されているDawgstar Nano-Satellite(質量15kg)にも搭載される予定である。 日本
    でも質量 数10 kg程度の高機能小型衛星への搭載を目指した研究開発が行われている。
     近年、コスト削減とリスク低減の観点から、ロケットの余剰ペイロードを活用して打ち上げられる小型衛星、軌道
    上におけるフォーメーションフライト等の計画が世界的に増加している。こうした小型衛星の研究開発の活性化、需
    要の増大により、小型・軽量・低電力の衛星推進系としてPPTが再び注目されている。
     これまで研究開発されてきた小型衛星用PPTの多くは電磁力を主推力とするものである。この電磁加速型PPTは、数
    μNs〜百μNs程度の微小インパルスビット(1ショット当たりの発生力積) を発生するため微小な位置・姿勢制御に
    は適しているが、南北位置制御やフォーメーションフライト等のためには発生インパルスビットの大幅な増大が必要
    である。 ミシンガン大学、首都大学東京、大阪工業大学では電磁加速型PPTよりも高いインパルスビットが期待でき
    る、図2に示すような電熱加速型PPTの開発を進めている。気体力学的加速により推力を得る電熱加速型PPTは、比推
    力に関しては電磁加速型よりも劣るが、固体推進剤を用いる限り、推進剤タンク・バルブが不要であるため、多少の
    推進剤重量の増加は他の推進機と比べて不利な要因とはならない。
    (a)固体推進剤供給機構をもつ電熱加速型PPTの概略図 (b)噴出プラズマ流の写真 図2 電熱加速型パルスプラズマ推進機の概略図 図3 電熱加速型PPTの1万ショット連続作動特性
     図3に示す電熱加速型PPTの1万ショット連続作動試験より、 電磁加速型に比べるとインパルスビットの大幅な増
    加を達成した(150μNs〜1mNs、比推力500秒)ものの、 十分とは言えず、ミッションによっては数十mNsのインパル
    スビットが切望されている 。さらに、連続作動ではショット数の増加とともに性能の低下が観察される。 これは、
    テフロン放電室壁の空間的に不均一な溶融・昇華が起こり、放電室体積が増えたためであり、推進剤テフロンの供給
    方法や放電室形状の改良が今後必要である。 また一般的にPPTの推進効率は低く(数%から十数%)、この原因とし
    て電源回路と推進機本体とのインピーダンス不整合、固体推進剤の昇華、プラズマ生成・加速過程の効率の悪さなど
    が考えられる。これらの改善が今後の大きな研究課題である。





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