宇宙推進工学研究室<Advanced Rocket Lab.>



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    DCアークジェットスラスタ
     直流アークジェット推進機は、図1、2に示すように同軸電極構造を持ち、推進剤を直流アーク放電により加熱し
    超音速ノズルで膨張加速させる電気加熱式の推進機である。近年、人工衛星の軌道保持、姿勢制御を行う二次推進系
    に使用する低電力(0.3〜2kW)型 と地球軌道間輸送用の主推進機を目指した大電力(10〜30kW)型が主に研究開発
    されてきた。推進剤にはヒドラジン(N2H4)、もしくはアンモニアが使用される。
    (a)アークジェット推進機RAT-Zの断面図
    (b)アークジェットエンジン本体の写真
    図1 大阪工業大学における地上実験用の輻射冷却式 低電力アークジェット推進機RAT-Zの構造
    図2 プラズマ噴射状態(流れは左から右へ、推進剤:ヒドラジン模擬水素・窒素混合ガス、投入 電力:1kW、連続作動時間:50時間、ノズル先端が高温になり(1000℃以上)、白く光っている。)
     低電力アークジェット推進機の開発は近年、アメリカ、ドイツ、日本などで活発に行われ、アメリカではすでに実
    用化されている。米国PRIMEX社(現General Dynamics Space Propulsion Systems社)製の1.8kWアークジェット推進
    機(推進剤N2H4、比推力500秒、推力210mN)がLochheed Martin社のTelstar衛星などに南北姿勢制御用として利用さ
    れ、日本でも旧宇宙開発事業団のデータ中継技術衛星(DRTS)に同系の推進機が搭載されている。
     これまで日本では宇宙での電力事情から1kW以下のアークジェット推進機の開発が中心であった。図1の実験機で
    は、投入電力が350(放電電流3A、放電電圧115V)から1100W(11A、100V)に増加する時、比推力は350から600秒に、
    推力は80から120mNに増加する。一方、推進効率は投入電力の増加と共に少し小さくなるが、30〜40%の範囲にある。
     アークジェット推進機が理想的な放電状態にある時、電極間で起こるアークは推進剤流れの影響によって陰極先端
    からスロート(コンストリクタと呼ぶ)を通ってノズル部で拡散し、コンストリクタよりも下流側のダイバージェン
    トノズル陽極部に付着する。これが図3(a)の高電圧放電モードである。コンストリクタ内で細長くなったアーク
    の状態はアーク柱と呼ばれている。推進剤ガスはアーク柱から熱伝達により十分な熱を輸送され高エンタルピになる。
    この時、ガス温度8000〜10000℃(プラズマ密度1022m-3程度)、放電室貯気槽圧(コンストリクタ上流圧)1気圧程
        (a)高電圧モード       (b)低電圧モード 図3 アークジェット推進機の放電モード
    度の局所熱平衡に近い状態が形成される。この弱電離プラズマ流はコンストリクタ下流出口で音速に達した後、ダイ
    バージェントノズル内で急激に膨張するのでガス温度・圧力は低下していく。この時、極度の熱力学的非平衡状態(
    温度非平衡・化学非平衡状態)になる。ノズル出口面・中心軸上では、各種粒子種の並進温度(ガス温度)及び分子
    回転温度は2000℃程度、分子振動温度及び電子温度は3000〜4000℃程度、 プラズマ密度は1020m-3以下にまで小さく
    なる。
     低電力アークジェット推進機の開発の問題点は不安定な作動状態である低電圧放電モード(図3(b))の回避に
    尽きる。この放電モードは、低い放電室圧力で安定する場合もあるが、一般には放電電圧の変動が激しい不安定な状
    態を呼んでいる。このモードでは、陽極付着点付近の圧力が高いためにプラズマが拡散せず、陽極上で電流集中が起
    こっていると推測される。このため、推進剤の加熱領域に偏りが生じて(周方向に一様でない)、推進性能が低下す
    る。また、この電流集中によって、陽極付着点が高温になり激しい陽極損耗が起こる(コンストリクタ径が徐々に大
    きくなり推進性能が低下していく)。以上から、アークジェット推進機の耐久性や推進性能の向上を図るには、低電
    圧モードでの作動を避ける必要がある。
     低電圧モードの発生は、高電圧パルス放電による始動時(アーク点火時)とその後の高電圧モードへの移行後(安
    定作動時)に突発的に起こる場合がある。その時間は数秒から数10秒である。前者は始動時に放電室貯気槽圧がまだ
    十分に高くなっていない(アークを下流に押し出せない)ために起こる。一方、高電圧モード安定作動時に突発的に
    起こる低電圧モードへの遷移の原因は未だに不明である。低電圧モードへの遷移が低推進剤流量時、低放電電流時に
    起こりやすいことから、実用上の高電圧モードへの積極的な回復手段として推進剤流量の増加、放電電流の増加など
    が提案されてはいるが、システム上のデメリットを伴う。
     投入電力10〜30kWクラスのアークジェット推進機はアメリカ、ドイツで主に研究されてきたが、実用上は電極の耐
    久性に大きな問題が残されている。 しかしながら、アメリカでは26kWアンモニアアークジェット推進機(比推力800
    秒、推力2N)が1999年に打ち上げられ、軌道間輸送用主推進機の開発を目指してElectric Propulsion Space Exper
    iment(ESEX)が行われた。





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