宇宙推進工学研究室<Advanced Rocket Lab.>



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    レーザー推進ロケットの開発研究
    1.研究の背景
     レーザーアブレーション推進機は固体推進剤にレーザーを照射し推進剤表面をアブレーションさせることによって
    インパルス(力積)を得る宇宙用推進機であり、液体や気体の推進剤を使用する推進機に比べ、燃料供給系や貯蔵用
    タンクが不要になることから構造の単純化および軽量化を図ることができる大きな利点をもつ。そのため小型人工衛
    星の姿勢制御などを目的に搭載される小型推進機として期待されている。
     しかし、レーザーアブレーション現象に関しては未解明な点が多く、使用する推進剤が性能にどのような影響を及
    ぼすかわかっていない。これまで固体高分子材料では高比重・高融点の材料を使用した場合に大きい推力が得られ、
    低比重・低融点の材料を使用した場合は高い比推力が得られることがわかっている。そこで、さらなる推力の向上を
    目的として比重・融点が高分子材料よりも大きい金属材料を使用して性能評価を行った。また、本推進機では照射し
    たレーザーのエネルギーは推進剤の融解に消費されることから、融解潜熱をもたない液体は固体と比較してよりアブ
    レーションし易いと考えられる。つまり、推進剤の融解潜熱が性能に大きく影響を及ぼすと考えられる。しかし、液
    体では宇宙での取り扱いが困難になるため、固体と液体の中間的性質をもつゲル材料を使用し性能を評価した。また、
    ゲル材料は透過率の高いものが多くレーザー光の大部分が透過することからアブレーションさせることが難しい。そ
    こでゲルの自己吸着性を利用してレーザー光の吸収率が高いと言われている炭素の微粒子をゲル材料の表面に吸着さ
    せた推進剤を製作し、その性能評価を行った。
     本研究で使用した実験装置の概略図を図1に示す。図に示すように振り子の先端に推進機を取り付け、その前方に
    設置したレンズによりレーザー光を推進剤表面に集光した。推進剤表面のアブレーションによって生じる振子の振幅
    を非接触の変位計で測定した。そして、振子に小球を非弾性衝突させることで得られる校正値からインパルス(力積)
    を算出した。推進性能の評価にはインパルスを入射エネルギーで除した運動量結合係数[mNs/J]を用いた。また、外乱
    による振り子の振動を抑制するために電磁ダンパを使用した。本実験ではNd:YAGレーザー(波長1064nm,パルス幅6ns,
    出力0.3J)を使用し、焦点距離220mmのレンズで推進剤表面に集光した。また、実験は真空チャンバ内(背圧 5.0×10-3
    Pa)で行いレーザーはチャンバ外から照射した。本研究では推進剤としてPTFE、アルミニウム、銅、炭素、低硬度ウ
    レタンエラストマーゲル、セグメント化ポリウレタンゲルを使用した。
       図1 実験装置概略図と噴出プラズマ流の写真
     金属材料であるアルミニウムと銅の運動量結合係数のレーザー照射回数依存性を図2に示す。これらの金属材料は
    PTFEよりも比重および融点が大きいが、運動量結合係数はPTFEの約半分程度しか得られなかった。これは一般に金属
    の光反射率が90%以上と非常に大きいことが原因であると考えられる。 しかし、これほどの損失にも関わらずPTFEと
    比較して大幅なインパルスの低下が見られなかったのは、非常に大きい比重が影響したためと考えられる。
    図2 金属材料の運動量結合係数
     高分子ゲル材料である固体状態に近い低硬度ウレタンエラストマーゲルの運動量結合係数のレーザー照射回数依存
    性を図3に示す。高分子ゲルでは、比重がPTFEより小さいにも関わらずPTFEよりも大きな運動量結合係数が得られ、
    このことから推進剤の融解潜熱が性能に影響を及ぼしている可能性がある。また、この推進剤ではレーザーの照射回
    数の増加とともに緩やかにインパルスが減少していく傾向が見られた。一方、液体状態に近いセグメント化ポリウレ
    タンゲルでは、透過率が高いことからレーザー光の大部分が透過しアブレーションさせることができなかった。そこ
    で、ゲル材料がもつ自己吸着性を利用してその表面にレーザー光の吸収率が高いと言われている炭素の微粒子を吸着
    させて新たな推進剤を作成し、その性能評価を行った。この推進剤と、比較のために炭素そのものの運動量結合係数
    のレーザー照射回数依存性を図4に示す。炭素微粒子を表面にもつゲルでは、これまでにPTFEで得られた最大の運動
    量結合係数を上回る102Ns/Jを示した。さらに、本推進機はレーザー照射の1ショット目ではなく2および3ショット目
    に最大のインパルスを発生する傾向があり、これは推進剤の供給方法を考える上で問題点の一つであったが、炭素微
    粒子を表面にもつゲルを使用することにより1ショット目に最大のインパルスを得ることができた。 また、ゲルに炭
    素を吸着させた推進剤の運動量結合係数は1ショット目と2ショット目において炭素単体の運動量結合係数よりも大き
    い値が得られた。このことから、炭素微粒子を吸着させたゲル推進剤で発生するインパルスは炭素のアブレーション
    によるものだけではなく、ゲルのアブレーションの影響を受けていると考えられる。これらの結果から、ゲル材料を
    レーザーアブレーション推進機の推進剤として応用することの有効性が示唆された。
    図3 低硬度ウレタンエラストマーゲルの運動量結合係数





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