営業秘密の保護と退職労働者の競業避止義務について

稲葉 千帆

退職労働者の転職等を通じた企業情報の流出を防止するために、退職労働者 に約定で競業避止義務を課すことがある。しかし、退職労働者には職業選択の 自由が保障されているため、競業避止義務を課すことに使用者の正当な利益が 存在し、競業制限が合理的範囲内になければ、裁判上、有効な契約と認められ ない。本稿では、退職労働者の競業行為について不正競争防止法が規制する 範囲、不法行為が成立する範囲を踏まえた上で「営業秘密の保護を目的とする 競業避止特約」の有効性に関する裁判例を検討し、営業秘密の保護の要請が あるときに退職労働者の競業避止義務が合理的とされる範囲について考察した 。