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〔2013年度卒業〕卒業研究作品の紹介

空間デザイン学科 
准教授 木村 元彦

木村 元彦
2014.05.28
  • 上野さんの卒業研究作品「あめのおとも」

    上野さんの卒業研究作品「あめのおとも」

  • 肩から胸にかけて土台を固定する装着方法

    肩から胸にかけて土台を固定する装着方法

  • アイデア展開やプロトタイプの制作方法について検討する上野さん

    アイデア展開やプロトタイプの制作方法について検討する上野さん

学部の卒業研究において、プロダクトデザイン研究室では様々なデザイン提案を行っていますが、今回の研究室VOICEでは2013年度に卒業した上野志歩さんの卒業研究作品を紹介します。

上野さんの卒業研究は、「視覚障害者の雨の日の外出をサポートするプロダクトの提案」として、視覚障害のある方たちのための「傘」の在り方を検討したものです。
そもそもなぜ彼女は視覚障害者に興味を持ったのか、また、なぜ「雨の日の外出」なのかは、彼女自身が、体のどこかに障害をお持ちの方たちに対して何か役立つことはできないかと日ごろから考えていたからだと思います。「雨の日の外出」については、博士前期課程の大学院生が、車椅子利用者の行動調査を行った研究*1の中で「車椅子利用者は雨に対してネガティブな印象を持っているが、実際の行動記録からは晴雨に関係なく外出行動をしている。」という知見に興味を持ち、視覚障害のある方たちも雨の日の外出に何らかの問題を抱えているのではないかと考えたからです。

インターネットや書籍、実際に視覚障害のある方の行動を観察し、雨の日の外出に関する問題を抽出していく中で、2つの問題に注目しました。片手は常に杖を持っているため、傘を持つと両手がふさがってしまう「手元の問題」、雨粒が傘の膜を叩く音に邪魔されて、普段聞こえる自動車の音や信号機の音等が聞こえにくくなる「音の問題」です。

これらの問題を解決するために、通常のものとは異なる方法で「傘」を所持する方法として、「手を使わなくてよい」、「音が聞き取りにくくならない」、「取り外し、開閉が難しくない」、「しっかりと支えられる」ことの4つの条件に基づいて、「傘の所持方法」のアイデア展開を行いました。
アイデア展開では、傘の持ち方についての既成概念を取り払い、様々な可能性を探ります。その結果、「頭の上に装着する」、「腕に装着する」、「背中や肩の部分に装着する」等のアイデアが有効ではないかと推測しました。

それらのアイデアに基づいて、実物大の簡単な模型を制作し、実際に装着した状態で歩行テストを行い、それぞれの長所や短所、さらなる改善方法を探っていきます。このようなプロトタイプによるテストを繰り返した結果、傘をしっかりと支えるために、肩から胸にかけて土台を固定するベルト状の装着方法を採用し、傘を折りたたんだ後は、土台となる部分にヒンジを設け、折りたたんだ傘をベルト内に仕舞う方法となりました。
残る音の問題については、傘の膜を雨粒が叩く音の反響音を軽減する方法を検討しました。薄いスポンジや水がしみこまない生地、ゴムシート等10数種類の素材を膜に貼り込み、シャワーによる人工雨にかざしてテストを行った結果、細かい穴や突起があり、雨粒の衝撃を吸収して反響音を軽減する効果が認められた、エアコン等に使用されているフィルタースポンジを採用することになりました。通常の傘の膜の外側にフィルタースポンジを貼り込んだ傘で、音の強さを簡易計測*2した結果、10dB程度軽減されることが分かりました。

このようなプロセスを経て完成したのが「あめのおとも」です。
まず、自分が感じている問題意識の中からテーマを発見し、ユーザーが抱える問題を探し出し、それらを解決する方法を検討し、プロトタイプを制作してテストを行い、より最適な解決策を求めてデザイン提案を作り上げる活動、すなわちプロセス全体がプロダクトデザイン研究室の卒業研究です。

*1:高野宏規、宮岸幸正、木村元彦:車椅子利用者の外出行動に関する基礎的研究―大阪工業大学在籍中の車椅子利用者における外出実態調査を通して― 大阪工業大学大学院工学研究科博士前期課程空間デザイン学専攻修士論文梗概集第2号p9-16(2013.3) 

*2:スマートフォン用アプリケーションソフトによる簡易計測