気相側抵抗はどうなりましたか?□□□How about Gas - phase Resistance?

なぜ二重境膜モデルが必要になったのか?

界面物質移動の理論で､二重境膜モデルがあります｡水側と気側の両方に拡散膜があり､界面では平衡に到達しているというものです｡ここでは､その導出を､｢たぶんこうだったんじゃないか｣の物語調で説明します｡

O₂吸収

k_L = 0.135 m/h(CO₂での海洋地球平均)で考えましょう｡O₂の場合､Henry Volatility = 32.7ですから､空気中O₂(= 0.21 atm =8.6 mol/m³)が水に溶け込む速度は､

です｡これは､水中深さ13.5 cm､高さ0.5 cmの気柱が水に溶け込んだことになります｡

SO₂､NH₃吸収

SO₂の場合､Henry Volatility = 0.0310です｡水深13.5 cmまでを飽和にするためには､気柱4.35 mのSO₂ガスが必要です｡先ほどのO₂気柱高さ 5 mmよりはるかに大きい｡おそらく､吸収量を実測すると､この予想よりも少なかったのだと思います｡

NH₃の吸収では､さらに顕著です｡NH₃のHenry Volatilityは､0.00068です｡水深13.5 cmまでを飽和にするためには､気柱0.135/0.00068 =200 mのNH₃ガスを連れてこなければなりません｡無理です｡供給量を気柱高で表現し､その高さはせいぜい､10 m程度だったのではないでしょうか｡このように､｢水に溶けやすい化学物質のガス吸収をk_Lだけで取り扱うと､予想よりも溶け込み深さが浅い｣ことがおこります｡k_Lを単位時間あたりの到達深さとする説明は破綻してしまいます｡

広範なヘンリー･ボラティリティに対応する二重境膜モデル

そこで､k_Lを深さではなく｢移動係数｣であると定義し､その移動推進力が界面濃度と水中濃度の差であるとする説明｢二重境膜理論｣が登場します｡

これであれば､界面平衡ポイントを移動することで､k_Lの値を一定に保ち､統一的に説明することができます｡界面と気中濃度を移動推進力とする係数k_gは､この概念から登場します｡図では､k _L を水深とするモデルから二重境膜モデルへの進化を対比する形で描きました｡

NH₃やSO₂を水に吸収させる化学装置から､O₂を供給する曝気装置までを､統一的に取り扱うモデルとして､二重境膜モデルが有用です｡一方で､k_Lを到達水深とする考え方は物質収支を視覚的に表現する際に便利で､また､CO₂やO₂の水吸収などヘンリーボラティリティが1以上のガスについては､k_L(=到達深さ)だけで取り扱うことができます｡

参考文献

以下に､k_gとk_Lの比較に関する文献を紹介します｡

ガス吸収を工業的に取り扱う化学工学で､次のように表現されているものがあります｡

□CO₂ 大部分が液側抵抗である;

□SO₂ 液側､ガス側ともかなり抵抗がある;

□NH₃ 大部分がガス側抵抗である｡

恩田格三郎･長坂実上･小野律史郎(1968)液柱塔において気液両相に抵抗のある場合の総括物質移動係数について. 化学工学 32: 164-169

環境中での化学物質の挙動を多相環境コンパートメントモデルで表現･予測するMackay Dの書では､

k_L = 0.05 ～ 0.1 m/h

k_g = 5 ～ 10 m/h

であると述べています｡

Mackay D (2001) Multimedia Environmental Models: The Fugacity Approach, Second Edition. CRC Press

(おわり)

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