リスクその1 ユニットリスクとスロープファクター(｢公衆衛生リスク通論｣抜粋)

大阪工業大学環境工学科講義｢公衆衛生リスク通論｣(渡辺)よりの抜粋です

過剰発がん死を確率で表現する

横軸に年齢､縦軸に人口をとった理想的な年齢ー人口分布を､生命表といいます｡0歳の人口をN₀人､1歳の人口をN₁人･･･とします｡各年齢の死亡率を適用し､N₀>N₁>N₂･･･となります｡この死亡率は､不慮の事故､悪性新生物(がん)､心疾患など､全ての死因を含みます｡

ここで対象とする過剰発がん死を｢誰に当たるか分からない『不幸の矢』｣であると考えます｡過剰とは､｢その暴露が原因となる｣という意味です｡一般に受け入れられている過剰発がん死の確率は10^-5です｡

ユニットリスクとスロープファクター

曝露量とリスクは比例するはずです｡複数の表現方法があります｡

(飲料水のユニットリスク)

その物質が1 μg/Lで含まれている飲料水を生涯飲み続けた場合の過剰発がんリスクを飲料水のユニットリスクと呼びます｡米国環境保護庁総合リスク情報システム(USEPA-IRIS)でのベンゼンの評価は0.44～1.6×10^-6です｡

(吸入によるユニットリスク)

その物質が1 μg/m³で含まれている空気を生涯吸い続けた場合の過剰発がんリスクを吸入ユニットリスクと呼びます｡USEPA-IRISでのベンゼンの評価は2.2～7.8×10^-6です｡

(経口スロープファクター)

その物質を､毎日､体重1 kgあたり1 mgを経口摂取した場合の過剰発がんリスクです｡USEPA-IRIS ベンゼンでは､1.5 ～5.5 × 10^-2 kg d mg^-1です｡

https://iris.epa.gov/ChemicalLanding/&substance_nmbr=276

日本の水道水基準･環境基準との比較

計算演習してみましょう｡日本のベンゼンの水道基準は､10 μg/Lです｡飲料水のユニットリスクの幾何平均とユニットリスクを比較すると､10 μg/Lの飲料水で､0.84 × 10^-5のリスクになります｡

吸入によるリスクも同様です｡日本のベンゼンの大気環境基準は､3 μg/m³です｡こちらは､1.2 × 10^-5のリスクになりました｡

USEPA-IRISのベンゼン評価値を適用すると､日本の水道水基準･環境基準は､ともに10のマイナス5乗の過剰発がん死リスクであることがわかります(このような例はベンゼンだけかもしれないが)｡

摂食によるリスク(食品にベンゼン規制値はない)

経口スロープファクター(幾何平均 2.87×10^-2 kg d mg^-1)からのリスクは､順を追って計算しましょう｡たとえば､体重60 kgの人が､7 mg/kgのベンゼン含む食品を毎日50 gずつ食べ続けますと､7 mg/kg×0.05 kg / 60 kg ､すなわち､体重1 kgあたりで0.0058 mgを食べることになります｡リスクは､

■■1 mgの摂食で2.87×10^-2

■■0.1 mgの摂食で2.87×10^-3

■■0.01 mgの摂食で2.87×10^-4

■■0.001 mgの摂食で2.87×10^-5

■■0.0058 mgの摂食で2.87×5.8×10^-5 = 16.6 ×10^-5

になります｡｢体重60 kgの人が､7 mg/kgのベンゼン含む食品を毎日50 g｣は､計算演習の説明用のもので､特に意味はありません｡

(おわり)

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