研究成果報告(2001-2003)「一般相対論に於ける数値計算を安定化させる数学的背景の解明」(click here) [pdf]
研究成果報告(2010-2013)「高次元時空における時空特異点形成条件の解明」(click here) [pdf]
研究成果報告(2013-2017)「拡張重力理論における非線形ダイナミクス」(this page)

 

研究成果報告書

拡張重力理論における非線形ダイナミクス

Non-linear dynamics in Extended Gravity Theories

平成25年度--29年度 科学研究費補助金 基盤研究(C) 研究課題番号 25400277

平成26年(2014年) 4月 [初年度の研究成果報告]
平成27年(2015年) 4月 [第2年度の研究成果報告 追記]
平成28年(2016年) 4月 [第3年度の研究成果報告 追記]
平成29年(2017年) 4月 [第3年度の研究成果報告 追記]

真貝寿明 Hisaaki Shinkai

大阪工業大学情報科学部 教授


1.研究の目的(概要)
2.研究実績の概要(2016年度まで)
3.研究成果の詳細(2016年度まで)
4.研究発表リスト(2016年度まで)

1.研究の目的(概要)

重力波の直接検出を可能にするレーザー干渉計の建設が進み, 強い重力場での一般相対性理論の検証にも期待が高まってきている. 本研究では,修正重力理論として高次曲率項を含んだ理論 (Gauss-Bonnet重力理論およびdilaton場を含んだ理論) に注目し,数値的手段を用いて 非線形ダイナミクスの一端を明らかにする. 数値計算のための定式化から着手し,最終的には ブラックホールやワームホールの 形成過程や安定性,重力波伝播現象における重力理論の差異を時間発展を追う ことによって明らかにする. 曲率項の複雑さゆえ着手されていなかった研究であるが, 具体的に数値積分することにより,方法論や問題点を明らかにして, 次世代の相対論研究の1つの柱に発展させたい.

2.研究実績の概要(2016年度まで)

アインシュタインが構築した一般相対性理論は,重力現象を記述する 理論としてこれまで多くの検証に耐えてきている.しかし,宇宙初期や 真に強い重力場では,量子補正を含めた修正(あるいは拡張)が必要であると 考えられる.現在,もっとも有力な修正重力理論の1つに,ストリング理論から 導出される高次曲率項を含んだ理論 (Gauss-Bonnet重力理論,Lovelock重力理論,およびそれらにdilaton場を含めた 重力理論)がある. 高次曲率項があることによって,一般相対性理論が予言する 時空特異点の存在や発生問題が,回避されるかもしれない, と期待されているが,実際のダイナミクスは未知である.

本研究では,修正理論として, (1)高次元一般相対性理論, (2)Gauss-Bonnet重力理論, (3)ディラトン場を含むGauss-Bonnet重力理論, の3つを考える.そして,高次曲率項を含んだ修正項の効果,および高次元時空の次元による差異について, ダイナミクスに対するおおよその描像を明らかにする.

2013年度(H25年度)は,超弦理論を由来にするガウス・ボンネ重力理論(拡張重力理論)におけるダイナミクス研究に着手した. まず,初期特異点がない時空に注目するために,ワームホール時空の安定性をテーマにした. 4次元アインシュタイン時空でのワームホール(エリス解)は不安定であり, エネルギー的なバランスが崩れることによってブラックホールやスロート膨張することが, 2002年にShinkai-Haywardによって報告されている.我々は,まず,一般N次元空間でこの形のワームホール解を導き,次に摂動計算によって, 不安定モードが存在することを明らかにした[1].そして,光座標を用いた数値コードを用いて時間発展を行い,予想通りに不安定であることを示した. 現在までに,高次元になるほど不安定性が増し,わずかな摂動でもワームホール・ホライズンが加えられた摂動のエネルギーの過不足に応じてブラックホールまたは時空膨張に変化することが確かめられている.

2014年度(H26年度)は,ワームホール構造に関しては,4次元から7次元時空までの時空次元によるダイナミクスの比較,Gauss-Bonnet項の有無によるダイナミクスの比較についての数値コード開発,および数値解析を行った.また,宇宙項が存在する時のワームホール解の存在についてもエネルギー的に解析し,負の宇宙項の場合のみ時空が安定であることを予想した.試行的な数値計算もこの結果を支持している.
一方,Gauss-Bonnet重力理論での平面重力波衝突問題にも着手した.4次元の一般相対性理論では,平面重力波の衝突によって時空特異点が形成することが知られている.数値計算コードを改良し,この現象を高次元で数値計算すると,衝突後の曲率の増加が抑えられること(したがって,非線形な振る舞いを引き起こす平面重力波の振幅閾値が低くなること)がわかった.また,Gauss-Bonnet理論では一般相対性理論より曲率の増加がさらに抑えられ,したがって特異点形成の振幅閾値がさらに低くなることが判明した.

2015年度(H27年度)は,前年度までに開発した数値コードをさらに改良し,上記(1)と(2)の修正理論において,平面対称な時空と球対称な時空の双方で時間発展ができるようにした.球対称時空では,強い重力の場合にはブラックホール(BH)境界面が出現することが期待されるので,現実的な理論の比較ができるようになる.
球対称ワームホール構造は不安定であり,追加する微小なエネルギーの正負によって,構造がBHに転じたり,中心部分がインフレーション拡大する現象が我々の研究によって明らかになっている.一般相対性理論を単純に高次元化すれば不安定性は増大することを線形解析で明らかにしていたが,数値計算においてもその結果を確認し,さらに,同じ初期条件として正のエネルギーを加えた時にはBHが形成しにくいことを確認した.
Gauss-Bonnet重力理論では,曲率2次の補正項を加える際のカップリング係数(α)の正負が,大きくダイナミクスを変える.正のαでは,同じ初期条件でも特異点形成は遅くなり,BH形成のための閾値が大きくなってBHは形成しにくくなる.つまり,正のαはエネルギー底上げ・特異点回避の傾向を与えた.負のαはその逆である.また,高次元になるほど不安定性は拡大することや,Gauss-Bonnet重力理論ではtrapped surfaceの存在は必ずしも最終的なBH形成を意味しない結果も得ている.面積定理が成立しない解系列があることに対応かと考えられるが,詳細は解析中である.

2016年度(H28年度)は,アメリカのLIGOグループによる重力波初検出の報告がされたことを受け,重力波を用いた一般相対性理論の検証可能性についても研究のテーマを新たに加えた.一般相対性理論が正しいかどうかは,ブラックホールなどの強い重力場での検証が重要になる.折しもLIGOグループによる重力波観測は,これまでに想定されていた以上の質量をもつブラックホール連星の合体を波源とするものであり,理論検証の可能性を強くサポートする.また,銀河中心に存在する超巨大ブラックホール形成史が不確かな現状で,今回の重力波イベントは,ボトムアップ型の形成シナリオを示唆するものでもある.そこで,将来的な理論検証を行うための準備として,近い将来にどれだけのブラックホール合体のイベントが予想されるのかを見積もった[2].仮定したブラックホール形成モデルや銀河分布モデルが正しければ,日本のKAGRAが本格的な観測を始めた際には,年間で200を超えるブラックホール合体のイベントが得られ,その蓄積からモデルの検証が可能であることを結論した.
重力波を用いた修正重力理論の検証については,現在,具体的なイベントレートの比較や宇宙空間重力波検出器での検出可能性などの考察を続けている.
研究計画で申請していた「Gauss-Bonnet重力理論での特異点形成」については,論文執筆を行った(近日中に投稿できる予定).そして,dilaton場を含めたGauss-Bonnet重力理論での問題に着手し,基本となる場の方程式の導出を行っている.


3.研究成果の詳細(2016年度まで)

PDF版
査読付論文誌掲載 Wormholes in higher dimensional space-time: Exact solutions and their linear stability analysis
by T.Torii, and H. Shinkai
Physical Review D 88, 064027 (2013) (6 pages)
6 pages (pdf) [1]
査読付論文誌掲載 Gravitational waves from merging intermediate-mass black holes : II Event rates at ground-based detectors
by H. Shinkai, N. Kanda, and T. Ebisuzaki
Astrophysical Journal 835 (2017) 276 (8 pages)
8 pages (pdf) [2]
国際会議集録原稿 Wormholes in higher dimensional space-time: Dynamics
by H. Shinkai and T. Torii
The 23th Workshop on General Relativity and Gravitation (JGRG23),弘前大学, 2013年11月
1 page
国際会議集録原稿 Wormhole Dynamics
by H. Shinkai and T. Torii
International Conference on Mathematical Modeling in Physical Sciences,Madrid, Spain, 2014年8月
J. Phys.: Conf. Ser. 574 (2015) 012056
11 page
国際会議集録原稿 Wormhole dynamics in higher-dimensional space-time
by H. Shinkai and T. Torii
Spanish Relativity Meeting 2014,Valencia, Spain, 2014年9月
J. Phys.: Conf. Ser. 600 (2015) 012038
6 page
国際会議集録原稿 Stability of wormholes in higher-dimensional spacetime
by T. Torii and H. Shinkai
The 24th Workshop on General Relativity and Gravitation (JGRG24),IMPU 東京大学, 2014年11月
16 page
国際会議集録原稿 Wormholes dynamics in n-dimensional Gauss-Bonnet gravity
by H. Shinkai and T. Torii
The 24th Workshop on General Relativity and Gravitation (JGRG24),IMPU 東京大学, 2014年11月
1 page

4.研究発表リスト(2016年度まで)

  1. Hisa-aki Shinkai, Takashi Torii
    Wormhole evolutions in higher-dimensional gravity
    The 20th International Conference on General Relativity and Gravitation,(Warsaw, Poland),2013年7月
  2. Takashi Torii, Hisa-aki Shinkai
    Wormhole solutions in higher dimensional space-time and their linear stability analysis
    The 23st workshop on General Relativity and Gravitation in Japan (JGRG23) 弘前大学,2013年11月
  3. Hisa-aki Shinkai, Takashi Torii
    Wormholes in higher dimensional space-time: Dynamics
    The 23st workshop on General Relativity and Gravitation in Japan (JGRG23) 弘前大学,2013年11月
  4. 真貝寿明,鳥居隆
    Wormholes in higher-dimensional gravity: Effects of Gauss-Bonnet gravity
    第26回理論懇シンポジウム 「2020年代を見据えた理論宇宙物理・天文学」,東京大学,2013年12月
  5. 真貝寿明,鳥居隆
    ワームホールの不安定性
    日本天文学会,国際基督教大学,2014年3月
  6. 鳥居隆,真貝寿明
    高次元ワームホールの安定性:線形摂動と時間発展数値解析
    日本物理学会,東海大学,2014年3月
  7. Hisa-aki Shinkai, Takashi Torii
    Wormhole Dynamics
    International Conference on Mathematical Modeling in Physical Sciences,(Madrid, Spain),2014年8月
  8. Hisa-aki Shinkai, Takashi Torii
    Wormhole dynamics in higher-dimensional space-time
    Spanish Relativity Meeting 2014, (Valencia, Spain),2014年9月
  9. Takashi Torii, Hisa-aki Shinkai
    Stability of wormholes in higher-dimensional spacetime
    The 24st workshop on General Relativity and Gravitation in Japan (JGRG24) IMPU 東京大学,2014年11月
  10. Hisa-aki Shinkai, Takashi Torii
    Wormhole dynamics in n-dimensional Gauss-Bonnet gravity
    The 24st workshop on General Relativity and Gravitation in Japan (JGRG24) IMPU 東京大学,2014年11月
  11. 鳥居隆,真貝寿明
    Topological wormholes and their stability
    日本物理学会,早稲田大学,2015年3月
  12. 真貝寿明,鳥居隆
    Dynamics in n-dimensional Gauss-Bonnet gravity
    日本物理学会,早稲田大学,2015年3月
  13. Hisa-aki Shinkai, Takashi Torii
    Dynamics in n-dimensional Gauss-Bonnet gravity: I. Colliding Scalar Waves, II. Wormhole evolutions
    General Relativity and Gravitation: A Centennial Perspective (Penn State, USA),2015年6月
  14. H. Shinkai, N. Kanda, T. Ebisuzaki
    Can we distinguish formation models of a super-massive black-hole?
    Gravitational Wave Physics and Astronomy Workshop (GWPAW) 2015, 大阪,2015年6月
  15. Hisa-aki Shinkai, Takashi Torii
    Singularity Formation in n-dim Gauss-Bonnet gravity
    The 25th workshop on General Relativity and Gravitation in Japan (JGRG25) 京都大学,2015年12月
  16. 真貝寿明,鳥居隆
    Dynamics in n-dimensional Gauss-Bonnet gravity II
    日本物理学会,東北学院大学,2016年3月
  17. H. Shinkai, N. Kanda, T. Ebisuzaki
    Formation Scenario of SMBH and Gravitational Wave
    The First International Meeting on KAGRA (KAIST, Daejeon, Korea), 2016年6月
  18. 真貝寿明,神田展行,戎崎俊一
    重力波観測による巨大ブラックホール形成シナリオ解明の可能性
    日本天文学会,愛媛大学,2016年9月
  19. H. Shinkai, N. Kanda, T. Ebisuzaki
    Gravitational waves from merging intermediate-mass black-holes
    The 26th workshop on General Relativity and Gravitation in Japan (JGRG26) 大阪市立大学,2016年10月
  20. Takashi Torii, Hisa-aki Shinkai
    Singularity Avoidance of Gauss-Bonnet gravity
    The 26th workshop on General Relativity and Gravitation in Japan (JGRG26) 大阪市立大学,2016年10月


Last updated: 2017/5/9
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