OIT Gravity Seminar Seriesは、重力に関する話題を中心としたセミナーです。


過去のセミナー


日時: 2023年10月25日 (水) 16:30--18:30
場所: ハイブリッド (大工大梅田キャンパス12Fセミナー室+Zoom)
講師: 藤林 翔 (Max Planck Institute for Gravitational Physics)
題目: 連星中性子星合体による重元素合成
概要: 鉄より質量数の大きい原子核のうち約半分は、速く中性子を捕獲して進むr過程と呼ばれる重元素合成過程によって作られたと考えられている。連星中性子星合体は現在稼働中の重力波望遠鏡のターゲットである一方で、合体によって放出される物質は中性子に富むと予想され、r過程の起こる有力な天体現象として注目されてきた。連星中性子星合体における物質放出は、合体瞬間のもの、そしてニュートリノ相互作用や磁気乱流の有効粘性効果によって、合体後に残るコンパクト天体(ブラックホール/大質量中性子星)周囲の円盤から放出されるもの、という二種が主に存在する。我々は、様々な連星のパラメーター、そして未解明の中性子星の状態方程式について連星合体の数値シミュレーションを行った。その結果、合体後に大質量中性子星が長時間存在する—“長寿命”の—場合では、太陽系におけるr過程原子核の組成を作り出すことが困難である事を示した。一方で、大質量中性子星が短時間でブラックホールに崩壊する場合は、合体する連星の質量比にあまり依らずに太陽系のr過程原子核の組成が再現できることを示した。

日時: 2023年1月16日 (月) 15:30--16:30
場所: オンライン (Zoom)
講師: 本橋 隼人 (工学院大学)
題目: Theory of quasinormal modes
概要: ブラックホール準固有振動はリングダウン重力波を特徴付ける減衰振動であり、その振動数と減衰率は一般相対論においてブラックホールの質量と角運動量のみで決まるため、動的・強重力系における重力理論検証の観点から最も重要な物理量の一つと考えられている。準固有振動は場の方程式において外向波境界条件を課して解くことで求められるが、時間一定面では場が遠方で発散するという特徴を持つ。このため二乗可積分関数ではなく、量子力学における束縛状態で用いられる通常の内積を用いた規格直交性、固有関数展開、摂動論などの議論が適用できない。一方、外向波境界条件を課したシュレーディンガー問題は、量子力学において開放系の問題として知られており、共鳴現象や不安定原子核などの文脈で古くから研究が行われてきた。近年、物性分野で注目を集めている非エルミート系とも関係が深い。本講演ではこれらの知見を応用することで、回転ブラックホールの準固有振動に対して有限な内積を与える。これにより準固有振動の理論を定式化するとともに、その応用について議論する。

日時: 2022年11月16日 (水) 16:30--18:30
場所: Seminar room (12th floor, Umeda Campus)
講師: Md Arif Shaikh (Seoul National University)
題目: Defining eccentricity for gravitational wave astronomy
概要: Eccentric Compact Binary Coalescences are important science targets of current and future Gravitational Wave observatories. There are increasing efforts to build eccentric waveform models using different frameworks to detect and analyse eccentric events. In the absence of a unique natural definition of eccentricity in general relativity, different models chose different internal parameterisations of eccentricity, which results in different values of eccentricity inferred from parameter estimation using these waveform models. In this work, we provide a standard definition of eccentricity based on the quantities derived from the waveform only, and therefore, this definition is model-independent and gauge-independent. Our definition also approaches the correct Newtonian definition of eccentricity in the Newtonian limit. We present gw_eccentricity, a python implementation of our definition using different methods. We demonstrate the robustness of our implementation on waveforms of various origins, ranging from quasicircular to highly eccentric systems. Our method can be applied in a post-processing step on posterior samples for any waveform model, putting all models on the same footing, and providing eccentricity estimates that can be compared directly with astrophysical predictions. The present work focuses on aligned-spin binaries which do not exhibit orbital precession. Possible extensions to precessing binaries are discussed.

日時: 2022年10月19日 (水) 16:30--18:30
場所: オンライン(Zoom)
講師: 大宮 英俊 (京都大学)
題目: 自己相互作用するアクシオン雲の進化
概要: 超弦理論から予言されるアクシオンのような超軽量スカラー粒子は, 超放射により回転するブラックホールの回転エネルギーを引き抜き, ブラックホールの周囲にマクロスコピックな凝縮体(アクシオン雲)を形成する. アクシオン雲は特徴的な重力波を放射すると考えられており,この重力波を観測することでアクシオンを検証することが可能になる. 本公演では,アクシオンの自己相互作用を考慮に入れると,様々なモードが立ち上がることでアクシオン雲の成長が止まり, 超放射と自己相互作用によるエネルギー散逸が釣り合った準定常状態が実現されることを示す.

日時: 2022年7月27日(水) 16:30--18:30
場所: オンライン(Zoom)
講師: 小山 翔子 (新潟大学)
題目: Event Horizon Telescopeによる天の川銀河中心ブラックホールの撮像
概要: Event Horizon Telescope (EHT)は2022年5月に天の川銀河中心にある巨大ブラックホール・Sgr A* (いて座A*)を撮像することに成功した。EHTにとっては2019年に発表した、楕円銀河M87中心の巨大ブラックホール・M87*の撮像に続き2例目の成果となった。得られた画像に浮かび上がったリングの大きさは一般相対性理論で予想される値に良く一致しており、ブラックホールの視覚的かつ直接的な証拠を示した。このセミナーでは、EHTをはじめとする超長基線電波干渉計の仕組みや画像化について概説し、主要な結果と画像からわかることやEHTの次なる目標について紹介する。

日時: 2022年1月27日 (木) 16:30--17:30
場所: オンライン(Zoom)
講師: 藤田 龍一 (追手門学院大学)
題目: ブラックホール時空中の楕円軌道に伴う重力波
概要: 巨大質量ブラックホールを周回する太陽質量程度のコンパクト天体から放出される重力波は宇宙重力波望遠鏡LISAの主要な標的のひとつである。このような極端質量比連星ではコンパクト天体の軌道離心率が無視できないと考えられている。LISAデータ解析により重力波源の情報を得るためには、軌道離心率を考慮した重力波波形を計算することが必須である。本講演では、重力波波形を効率的に計算できるポストニュートン近似法を考え、ケプラー方程式の解を用いることで任意の軌道離心率に対して重力波放出の評価が可能となることを紹介する。

日時: 2021年11月19日(金) 16:30 - 17:30
場所: オンライン(Zoom)
講師: 久徳 浩太郎 氏 (京都大学)
題目: ブラックホール・中性子星連星の合体
概要: LIGOおよびVirgoによる重力波観測で、連星ブラックホールはおよそ50例、連星中性子星は電磁波でも検出されたGW170817を含む2例の検出が報告されている。さらに2020年になり、GW200105およびGW200115という2例のブラックホール・中性子星連星の合体も報告された。これらのイベントではおそらく中性子星は壊されることなくブラックホールに飲み込まれてしまったと考えられるが、連星のパラメータによってはブラックホールが中性子星を潮汐破壊し、特徴的な重力波や電磁波を伴う可能性がある。本講演では、今後の検出も期待される潮汐破壊が起こる場合に着目して、ブラックホール・中性子星連星の合体シミュレーションによって得られた知見・成果を紹介する。

日時: 2021年10月6日(水) 16:30-17:30
場所: オンライン(Zoom)
講師: 村田 佳樹 氏(日本大学)
題目: Einstein rings in holography
概要: AdS/CFT対応によると、熱場の理論はAdS時空中のブラックホールに対応する。そのブラックホールの姿を、場の理論の観測量を通して見ることはできないだろうか? 天文学においては、ブラックホール周りの光源を観測することで、ブラックホールが作る影を撮像することに成功している。我々は、AdS/CFT対応において同様なセットアップを考える。球形のAdSブラックホール時空を用意して、そのAdS境界の一点に局在化した外場を与える。場の理論側の物理量として、その外場に対する応答関数が得られる。その応答関数には、ブラックホール時空を通ってきたバルク場の情報が含まれており、そこからブラックホールの影の姿を構成することが出来ることを示す。ホログラフィック超伝導への応用についても議論する。

日時: 2021年7月28日(水) 16:30-17:30
場所: オンライン(Zoom)
講師: 初田 泰之 氏(立教大学)
題目: ブラックホール準固有振動数に対する新たな試み
概要: 重力波観測の進展に伴って、ブラックホール摂動論における準固有振動モードの解析は今後ますます重要になっていくと思われます。このセミナーでは高エネルギー物理学と数理物理学における比較的新しめの結果を積極的に利用して、球対称あるいは回転するブラックホールの準固有振動数を解析する試みについてご紹介します。前半は簡単な量子力学のモデルを例に取って、このアプローチの有用性を説明し、後半で実際のブラックホールへの応用を述べます。量子力学の初等的知識(シュレーディンガー方程式、摂動論、WKB法など)は仮定します。

日時: 2021年6月23日(水) 16:30-17:30
場所: オンライン(Zoom)
講師: 野澤 真人 氏(大阪工業大学)
題目: Wormholes in general relativity [file]
概要: ブラックホールの地平線と局所的に同等な性質を持つ物体として、ワームホール構造がある。 ワームホールとは、別々の宇宙を結ぶ喉構造であり、このような位相的に非自明な構造を維持するには、量子場などのエネルギー条件を破った物質を考慮する必要がある。 本講演ではEllisによってはじめて構成されたファントム場によるワームホールを一般化し、その構成法及びその物理的性質を議論する。また、このEllis解を種として、電磁場への結合や漸近的AdS時空における重力解の構成法についても議論する。