ご挨拶

藤里先生

教授 藤里 俊哉

 皆さんの多くは、「再生医療」と聞くと医学では?とお思いになるでしょう。でも「再生医療」を英語では「Tissue Engineering」といい、直訳すると「組織工学」となります。そう、工学なのです。この「組織」は、皮膚や筋肉などの「生体組織(Tissue)」のことで、会社や国連などの「団体組織(Organization)」のことではありません。「Tissue Engineering」は1990年代になって盛んに使われ始めましたが、日本語では後者の意味の「組織工学」が使われていたため、「再生医療」という訳語が広まったのです。

 「組織工学」は、その名の通り、生体組織を作製すること、つまり、事故や病気で失われた組織を、体外あるいは体内で人工的に作り出す(再生する)ことが目的です。機械工学(Mechanical Engineering)で自動車を作るのに必要な材料は、金属やプラスチックですね。組織工学で生体組織を作るのに必要な材料は、タンパク質や細胞です。

 バイオマテリアル研究室では、血管や心臓弁、頭皮、角膜、神経、筋肉、脂肪など、様々な組織作製に取り組んでいます。用いる技術は、組織の脱細胞化と細胞播種(はしゅ)です。タンパク質は動物種が違っても似ているので、ブタの組織から細胞を取り除き(脱細胞化)、代わりに患者さんの細胞と置き換えることで(細胞播種)、患者さんに使用しても拒絶反応のない組織ができあがります。体内に埋め込まれると、ブタのタンパク質も徐々に患者さんのものと置き換わります。ですから、先天性の病気をもった赤ちゃんに使用しても、体の成長に伴って組織も成長できます(今の人工臓器は、成長すると大きなサイズのものと交換手術が必要)。現在は、他大学医学部などと共同で、動物を使った実証試験をしています。

 iPS細胞や幹細胞から様々な組織の細胞が得られるようになってきましたが、まだまだ組織や臓器を作りあげることはできません。しかしいずれ、臓器工場が建設され、頬の内側の細胞を工場に送ると、1ヶ月後には希望する自分の組織や臓器ができあがってくる、という時代がやって来ることでしょう。私たちの研究が、ほんの少しでも患者さんの役に立てればと願っています。

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