■ 大阪工業大学 教員レター(渡辺信久) アーカイブ
2020年度前期は、コロナ禍のために、大学の授業をオンラインで行ってきました。しだいに、感染予防対策方法が明らかになってきたため、11月から授業を対面で行っています。初めて経験した長期にわたるオンライン学習でしたが、意外と理解を高める効果もあったようです。工夫したのは、オンデマンド方式「短い説明動画」の作成です。5〜12分程度で一つの説明になるものを2,3用意します。演習問題に直面して困ったときに、再度、その動画を見ることができます。短い動画であれば通信の負担も少なく、集中力が途切れることもなく、「もう一度見てみよう」という気になるようです(「短い説明動画」のサンプルはこちら https://drive.google.com/file/d/11VCy-a451SgVcC6SYICCXB-g8nmeUKoF/view?usp=sharing)。
ということで、後期に対面授業が始まっても、これまでの対面授業とは様相が異なってきました。なんと、教壇の私がPCを操作して、スクリーンに映したその画面を学生が見るという、なんとも、「対面でのオンラインごっこ」のような光景の授業になってきました。それでは、対面授業は不要なのかというとそうでもなく、学生の質問に対して、黒板に書きながら授業での説明とは異なる方法で説明することが、やはり一番理解を助けるようです。結論です。密度高く、効率よく教授する点において、オンライン授業は対面授業を上回ることがあります。しかし、質問に応じての臨機応変な説明には、対面授業が不可欠です。
対面授業開始後、実に半年ぶりに、紙ベースでの試験を行いました。選択方式のオンラインテストとは異なり、計算過程が目に入る答案用紙には、どのように勉強してきたのか、どこで計算間違いをしたのかなど、「たのもしくも切ない」物語を読み取ることができます。人間と紙の歴史は、木簡・壁画を含めると、何千年もあるのです。簡単にオンライン・ペーパーレスへは移行できません。
火災でのCO発生が難燃剤によって促進されるのではないか
「難燃剤は燃焼を阻害するためのものなので一酸化炭素(CO)を発生しやすい」。このあたりまえのことを、この文章の書き出しに持ってきた理由は、2019年7月18日の京都アニメーション放火殺人で「CO中毒による死者が多かった」ことへの、憤りと悲しみと、「私たちはなにもできなかったのか」という悔しさからです。
現在、私達は、塩素系および臭素系難燃剤が廃棄物となって、焼却処理される場合に、どれほど完全な無機化が達成されるのかという研究をしています。その過程で、難燃剤、とくに、多用されている高性能な臭素系難燃剤は、空気気流中850℃の燃焼で、混焼しているデンプンの炭素の15%をCOに変えてしまうという結果を得ています。難燃剤が存在しない系の3倍です。もともと、難燃剤の焼却処理時の挙動を調べることが目的ですので、COの生成は当たり前で、それを制御できる実験系を完成させてから論文発表を行うのが、スジです。しかし、実験をしていると、「難燃剤は火災時に延焼を防ぐかも知れないが命を守ることにつながるのだろうか?」と考えるようになったのです。「火災でのCO発生が難燃剤によって促進されるのではないか」という観点からの研究は、まだ、あまり見たことはありません。私達の研究室は、この実験を遂行する能力を持っています。誰かがやらないといけない。私達も、研究室の学生も、社会の役に立ちたい。
(以下、図の説明)
粉状のでんぷんに、有機塩素系および有機臭素系化合物を混合して、空気気流中で燃焼させ、発生した燃焼ガス中のCO濃度とガス量から、CO変換率を求めた。また、塩素・臭素の無機化率/有機状態での残存率を同時に測定した。有機臭素化合物、なかでも、一番右端のTBBPA(トリブロモビスフェノール A)は、強力な難燃効果を発揮し、最高のCO変換率(14.6%)を示した。
この研究は、CO制御によって、有機ハロゲンの残留を十分に抑制できるのか否かを調べようというものである。デンプン単独の燃焼で、CO発生が見られる点で、実験装置にいまだ不十分な点があり、研究途上であるが、難燃剤によるCO発生促進を示唆するデータとして、有意義であると考えるため、公表することとした。
2019年度 プレゼンテーション賞(環境化学会、環境技術学会)
第28回 日本環境化学会研究討論会(2019年 6月12-14日 浦和、参加人数 約700人)と、第19回 環境技術学会年次大会(2019年6月29日 京都、参加人数 約120名(特別講演会を含む))の2回に渡り、大学院 環境工学コース 大学院生 田口翔大さんがプレゼンテーション賞を受賞しました。日本環境化学会では、修士課程でのエントリー20名中での4名の受賞者(他の受賞者は佐賀大、愛媛大および静岡県立大)、環境技術学会ではエントリー数21名のうちの3名の受賞者(他の受賞者は京都大と金沢大)でした。
環境懸念物質とされている塩素系および臭素系難燃剤が廃棄物となったときの、焼却処理時の分解挙動を調べたものです。日本環境化学会での発表は、実験手法と850℃での挙動を中心に発表しました。C18カートリッジカラムを使った固液抽出と、手製の燃焼分解・吸収装置を使用した全ハロゲン計測というレトロな手法によるものでしたが、@難燃剤は燃焼分解に際して一酸化炭素(CO)を生じること; A完全無機化の割合は、塩素系よりも臭素系のほうが高いこと; Bその塩素-臭素間の違いは、炭素との結合解離エネルギーからの予測と一致すること、を示しました。田口さんの端的な説明と、質問への的確な回答が受賞に結びついたものと思います。
環境技術学会での発表は、上記の実験条件をさらに950℃にまで広げて、温度条件の違いの影響を見たものです。予想通り、より高温な条件では無機化率が高まる結果となりました。オーソドックスでありながら、意外と誰も試していなかったことであったことから、注目を浴びたのだと思います。
研究結果だけを聞くと、1ヶ月くらいで実験が完了すると思われるかも知れませんが、そうではありません。装置の組み直し・条件の検討・再現性の確認など、膨大な時間を費やしているのです。「眠っている間に夢の中で考える」こともあります。予想に反した実験結果に出会い、それまで半信半疑だった文献の意味が初めてわかることもあります。このプロセスを経るからこそ、信頼できる結果を得るのだと思います。
ところで、この状態ではまだ、不満です。実際の廃棄物焼却炉での温度に近くなっても、なおCOを十分に低減させることができていません。現在の日本の廃棄物焼却施設は、CO濃度が極めて低く、その状態をシミュレートする必要があります。COを限りなくゼロにすることができれば、塩素・臭素を完全に無機化できるかも知れません。実験装置のつぎの工夫を思案中です。
廃棄物資源循環学会と日本環境化学会の連携セミナーを実施しました
廃棄物資源循環学会と日本環境化学会で連携し、環境工学科、応用化学科、生命工学科、摂南大学薬学部の共催で、セミナー「徹底解説! ダイオキシンの生体代謝をめぐる新たな知見と環境制御・計測技術の現在 ― 人と化学物質は共存(棲み分け)できるのか?―」を開催しました。
ダイオキシンなどの新規化学物質との向き合い方は大きく変わってきています。「猛毒のダイオキシンがごみの焼却で生成する」と1990年代に社会問題化した後、現在は対策がすすみ、ごみ由来のダイオキシンは容認されるレベルにまで低下しました。しかし、ヒトが塩と火を使う限り、無くすることはできません。一方で、「『ダイオキシンは猛毒』の図式は短絡的すぎだった」との見解も現れました。これから私たちは、どう化学物質との向き合えばいいのかを考えるためのセミナーです。
毒性に関する見解の進展は、遺伝子とタンパク質に関わる現代生命科学の成果によるものです。以下、簡単な解説を試みます。
毒性の発現が、生体の反応(AhRの活性化)によって引き起こされることが解明されました。AhRを持たないマウスを人工的に作成して、そのマウスにダイオキシン類を与えても、毒性が発現しないのです。AhRは生体にとって邪魔で余計な機能であるかのように考えられた時期がありました。
しかし、AhRを持たないマウスは小さく、弱く、健康ではありません。どうやら、AhRは生体に必要な「何か」であることがわかってきたのです。しかもAhR機能は、ほ乳類だけではなく、原始的な生物も有している機能でした。すなわち、AhRは生命維持の根幹に関わる生体機能だったのです。
長い生命の歴史では、「自らが食べられることのないように毒物を作る、それを食べる生物が解毒能力を獲得する。食べられる側はさらに強い毒物を作り出す・・・・。」が繰り返されてきました。しかし、塩と火を身近に使う生物の歴史(ヒトのことです)は浅く、まだ、解毒能力を獲得するに到っておらず、本来的な生体機能であるAhRが不完全に作用し、それが自らの生体を攻撃してしまうようなのです。
・・・・
それでは、私たちはダイオキシンとどのように向き合えばいいのでしょう。廃棄物資源循環・環境技術的には、ダイオキシンを完全に排除することは不可能ですが、活性炭などで閉じ込めておくことは可能です。もちろん、生成量を最小化する努力を怠ってはいけません。徐々に環境に放出される程度であれば、生分解、光分解、加水分解などで環境中での分解も可能なはずです。
ダイオキシンとその類縁化合物(PCB等も含む)はおそらく、人類が最初に遭遇した生体機能に介入する人為化学物質であったのだろうと思います。新規化学物質はますます増加しています。環境化学分野からの話題提供では、新規化学物質、なかでも有機フッ素化合物類の環境懸念が指摘されました。炭素とフッ素の結合が強いために、自然環境中での破壊が期待できないためです。
分野横断的なセミナーなので、全てを理解することは容易ではなかったかもしれません。しかし、専門家が自らの分野の周辺に興味を持つことは、自分の仕事の位置づけを知る上でもとても重要なことです。大学から卒業した技術者たちは、かならずや、周辺分野に遭遇し、それを学び知ることで厚みのある技術者になるのです。最後は説教じみた文章になってしまいましたが、この記事を書く私の学ぶことへの興奮を感じ取っていただければうれしいです。
2017年の工作・実験フェア(近隣の子供たちと一緒に工作・実験をする夏休み期間でのイベント)では、初の試みとして紙コップスピーカーを作りました。紙コップの底に、エナメル線を巻いて作ったコイルを貼り付け、そのコイルに磁束を与える永久磁石を固定します。コイルの2本の線を、プラグジャックにつなぎ、このプラグジャックを携帯音楽プレーヤーに差し込むと、紙コップの中から音楽が流れます。多くの人がスマホを持つ現在、すぐに鳴ることを確認できます。「紙コップから音楽が聞こえる」意外性は子供だけではなく、親御さんにもインパクトがあったようです。おかげで、工作を教える学生たちも、てんてこまいでした。
作り方を示したパネルをダウンロードできるようにしています。工夫した点は、紙コップを重ねて、内側の紙コップにコイルを貼り付け、外側の紙コップに2つの磁石を貼り合わせることで、振動面を押さえつけることなく、強く安定した磁束を供給した点です。磁石には文具のカラーマグネットとして使われるネオジム磁石を使いました。
紙コップスピーカーの作り方を説明するパネル(クリックでpdfファイルが開きます)
ところで、環境工学科の教授がなぜスピーカーなのか、について、簡単に言い訳をさせてください。環境工学は総合的な工学技術であることから、電気に関わる知識も必要です。私も、「教えることができるようになりたい」と、独学で「電気主任技術者第三種(電験三種)」を取得しました。また環境工学科では、2017年に、電気関連の授業を担当するということで学内異動で電気電子システム工学科から長田教授を招き入れました。その流れで、工作実験フェアで「磁石を作る」出展をすることになったのですが、長田教授と一緒に準備であれこれやっているうちに、スピーカー作りが楽しくなり、それを披露することになったのです。紙コップを持った手に振動が伝わります。「電磁気の体感」といえば、すこしはアカデミックになるでしょうか。
会場では、数年前からやっているペットボトル戦車も相変わらずの盛況ぶりで、また、人力テレビ(リキテレ)もいつも順番待ちの子供がいました。手伝ってくれた学生諸君に感謝です。
ポーランド短期留学生 (イアエステ、IAESTE)
IAESTE(イアエステ・国際学生研修協会)短期留学インターンシップで、ポーランド・グダニスク工科大学のクシシトフ・ ヴィジェシニャック君(クシシゥ君 22歳)が来ました。環境工学・資源循環の研究を体験したいとのことでしたので、最初は慣れるために授業や見学に参加してもらい、あわせて、金属リサイクル湿式分離の実験をまかせています。
欧州から見ると、アジアは全く別世界で、様々な、新しい体験を楽しんでいるようです。日本語を学んでからの来日でしたので、とても背の高い彼はコンビニで買い物をしたときに、レジのおばちゃんから「何センチあるの?」と日本語でたずねられ、「194 cmです」と答えることができたそうで、それを自慢していました。滞在先の言語を学び、すこしでも、使おうとする姿勢は、私たちも学ばなければなりません。
ポーランド語は、発音が大変複雑な言語です。1 (いち)は「イェデン」もしくは「ラッズ(ものを数えるときに使う)」、2(に)はドゥヴァー、3はトゥシイェァです。いま、カタカナで書きましたが、カタカナ通りに読んでも通じないような微妙な発音です。また、通貨単位の日本のyen(円)と中国のyuen(元)の区別もつくといっておりました。このように、ポーランド人は、音の聞き分けには日本人よりもはるかに長けています。また、彼の英語は、正確でクリアな発音であるとともに、大変、論理的なので、彼から英語を学ぶことは、日本人学生にとっても、有意義なことです。
金属リサイクル湿式分離の実験では、イオン交換樹脂による精製と同時に、簡易計測方法の確立も手がけてもらっています。コンピューターをインターフェースとする機器分析ではなく、吸光光度法の基本原理(ランベルト・ベールの法則など)に立ち返った検討ですから、教科書で学んだことを、遠い日本で初めて実用に使うという経験をしています。イオン交換での物質収支についても、論点を十分に捉え、意義のある結果を残してくれるでしょう。
湿式金属リサイクルに関する実験
新しい経験をさせることも、IAESTEホストの重要な役割です。ということで、夏休み期間のイベントである「工作・実験フェア」で、日本の子供たち(小学校低学年)に、工作(電磁石の作製)を教えてもらうことにしました。「言葉が違うのに・・・」という彼でしたが、簡単な日本語と、明瞭な英語、そしてにこやかに実演して見せることで、みごとに日本人の子供に電磁石を作らせていました。
子供に工作を教えているところ(工作実験フェア)
国際人になることの第一歩は、他国に興味を持つことで、その質問を彼は私にぶつけました。日本の国名「にほん」、「にっぽん」が、どうして「ジャパン」という国名になるのかという質問です。私なりの考えですが、「日本」は中国語では「リーペン」もしくは「ジーペン」です。これが、マルコ・ポーロによって「ジパング」と名付けられ、「ジャパン」になったと思うのです。フランス語では「ジャポン」です。ただ、ジャパンの「J」は、ドイツやポーランドでは「イ」と発音されるために、ドイツ語で「ヤーパン」、ポーランド語で「ヤポーネ」になります。「J」を「ハ」と発音するスペイン語圏では「ハポネ」となって...。どうも自国のことを書きすぎました。私も、もっと他国に興味を持って、一流の国際人になりたい。
環境工学のPBL 機器分析装置: 吸光光度計を作る。
「計測」は「環境工学の4つの柱(物質収支、エネルギー収支、計測、熱力学)」のうちのひとつです。汚染物質の濃度と量を把握し、その制御をモニタリングし、収支の確認を行うための基礎技術です。現実には、機器分析が適用されることが多く、環境工学の技術者はこの機器の原理を知っており、適用範囲、信頼性、妥当性を説明できなければなりません。
さて、前置きはこれくらいにして、環境工学科3年生配当のPBL(課題解決型学習)授業: 「実践環境工学」で、私のグループでは吸光光度計を作成していることを報告します。吸光光度法は、簡単に言うと「比色法」です。色の濃淡から目的物質の濃度を求めるもので、機器分析の根幹をなすものです。光源にLED、受光部にフォトトランジスタを使用し、透過光の強度とエミッタ電流(エミッタ抵抗の電圧)が比例するというものです。
回路と概念図
こうして書くと簡単そうですが、プラモデルを購入するわけではないので、実は電子回路よりも部材の調達のほうが大変です。光を発し、これをセルを通過させ、受光部に到達させる部材として、水道配管などで使用するT字型の接続管を使いました。また光源や受光部の固定には、プラスチック製の遠心分離・沈殿管を切断して、蓋に固定することとしました。セルには試験管使います。
実際の装置: T字型接続管の中央にセル(試験管)を差し込みます
装置を構成する部品
白色発光ダイオードと可視光トランジスタで、硫酸銅水溶液を試料として、濃度と吸光度の検量線が直線になることを確認しました(吸光度範囲0~0.2)。光源の色を変えれば、違う結果が得られるでしょうし、スリットをつければ、直線線領域が広がるかもしれません。
PBLとは、自らが課題を発見・解決することを通じて学ぶ仕組みです。今回、受講生は、光強度から光吸収率や吸光度を計算する必然性を知りました。ブランクのセルを挿入したときの方が、「セルなし」のときよりも光強度が強くなることも初めて知ったはずです。最後に、PBLと言っても、教員がものすごく準備していることを、少しだけ述べます。給排水接続T字管の使用に思い至ったのは、私です。夢の中で考えました。フォトトランジスタの採用も、私が提案しました。実は最初は、電子情報通信工学科の西教授に相談したところ、フォトダイオードの出力をオペアンプで増幅する回路を教えていただきました。実際の装置もフォトダイオードが使用されています。しかし全体像を把握する中で、電子回路は単純な方がよく、同時にトランジスタの原理を知るメリットも考え、あえて、フォトトランジスタ方式としました。すこし自己主張が強すぎたようでした。
環境工学科 渡辺教授と大学院生 川本君、櫻井君の3人で、2016年12月8-10日に東京ビッグサイトで開催された「エコプロ2016 環境とエネルギーの未来展(主催: (一社)産業環境管理協会および日本経済新聞社、3日間の入場者数: 167,093人)」に出展しました。出展者は企業、行政・自治体、大学、NPOなどの一般市民で、全出展数は700 団体および1500小間です(写真1)。
写真1 会場の風景
私たちの出典内容は、研究で使用している自作のヘリウムプラズマ発光分析装置で、ハロゲン元素を元素別に定量するものです。実際に装置をスーツケースに入れて新幹線で運び、現場で組み立て、プラズマを発光させ、スペクトルをディスプレイに映し、ブロモクロロメタンの注入で塩素・臭素の発光線が現れる様子を見てもらえるようにしました。
この装置は、温室効果ガスである有機フッ素類のモニタリングや、ダイオキシン類指標物質の総量測定に使用できるものです。技術系企業の方々を中心として、多くの方々がブースに来られ、興味深く見ていただきました。手作りの装置(写真2, 3)ですが、近年、とくに環境分野での大学の研究で、ものづくりを手がけているところは少ないので、余計に目立ったと感じます。
写真2 展示物
写真3 小学生に試料を注入してもらいました
今回、自分達の展示以外にも、他のブースを見て回りました。私たちが作成した「リキテレ」(人力テレビ、自転車発電で32型テレビに電力を供給することで、電源がないところでも、テレビを鑑賞できるもの)に使用している発電機は高知県の「スカイ電子」社製ですが、その会社の方にもお会いできました。また、同じ高知県で、フロンの分解処理をしている「大旺新洋株式会社」の方とも、深い話ができました。そのほかにも、いわき市に電池技術を持つ企業がいくつもあることを初めて知るなど、日本のハイテクは地方の中小企業の手によるものであることを改めて確信しました。そうそう、私たちのヘリウムプラズマの電源も、社員数6名の明石のハイデン研究所の製作によるものです。
蛇足ですが、展示物の安全性について、私たちも大変気を遣っております。プラズマ点灯のためには100 kHz、 ±5 kVのバイポーラー高周波高電圧を発生させます。そのため、設営の際には感電を防ぐための接地が必要です。しかし、会場ではアース線がありませんでした。そこで、床面の排水ふたを湿らせ、電線をクリップで接続し、接地しました。「ハイテクと骨太の隣り合わせ」が自慢です。
公害・廃棄物・低炭素 オープンセミナー 終わりました
2016年度4月から6月にかけて、実施した「公害・廃棄物・低炭素 オープンセミナー」を終了しました。学生に加え、社会人にも聴講いただきました。ここでは、最終回の「まとめ」を記します。
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<第7回 6月2日> まとめ
7-1 三分野を四時代に分割して考える
公害・廃棄物・低炭素の区分で時代を4つに分けて俯瞰した。時代の分類は、現在と近未来を「Win-winの時代」と「バランスの時代」と呼び、その直前を「緊急の時代」、さらにそれに至る「これまでの経緯」と名付けた。また、我が国でとりわけ重要なことは、国際的動きによって国内制度が大きく変化する(しばしば「外圧の影響」と呼ばれる)ことがあったので、それらについては、青字で記している。
名前の通り、「緊急の時代」がもっとも激動の時代であり、問題の発生とその解決といういわば正義感で多数の人間が同じ方向を向いた時代である。対して、「Win-winの時代」とは、環境問題の解決が政治・経済面での便益にもつながる仕組み(ビジネス)が形成される時代である。1992年の地球サミットが「緊急」から「Win-win」への転換点であると私は考えている。
「まとめ」では、経緯と緊急に関することについては、余り触れず、 現在および近未来のことについて述べたい。私自身の考えも多分に入っていることをお許し願いたい。
7-2 公害・環境汚染・健康被害の現在と近未来
現在は、公害や環境汚染で、あからさまに健康被害を受けていることはまれであり、大気も水域も良好な環境を維持している(ただし、労働被曝による健康影響はこれからも新規に出現する)。今後、「どこまで対策が必要か」が重要になる。近年、大気中ベンゼンの環境基準は「受け入れ可能と思われるリスク」によって定められた。排ガス中水銀の基準は「実行可能なよりよい技術(BAT)」で決まる見通しである。今後、「リスクと技術」で納得のいく対策が決まっていくと考えられる。以前、私は 「リスクの認知と受容」が、将来、大切になると考えていたが、修正したい。放射線に関する一連の社会の動きから、リスク受け入れの可否は、その大小ではなく、不公平感によって決まると考えるようになった。そこで、望ましい近未来の「バランスの時代」では、「リスク不公平の解消と受容」と「実行可能なよりよい技術(BAT)」でひとまずの着地点が見つかると思うのである。
7-3 廃棄物の現在と近未来
廃棄物処理は、責任の所在を明確に定めた点と、環境汚染防止技術という点では、長らく我々が目指していたところまで到達した感がある。廃棄物を減らすことと省資源(資源循環)の目的で、EPRを内包する各種リサイクル法や、事業者・生活者の3Rの方向性もある程度浸透した。一部のリサイクルは事業として成立している。今後は、3R・省資源・低炭素にあわせて配慮する資源効率性がキーワードになるようであり(2016 G7 富山会合)、それは、リサイクルの事業化機会を広げることになると考える。
一方で、1990年代半ば以降の20年間で作り上げた循環・3Rの社会制度の不効率性に、近年、言及してもよい社会の雰囲気を感じる。今後、各種リサイクル法は、見直されるかもしれない。しかし、日本国民の省資源・3Rに対するマナー(礼儀と道徳)が大幅に向上したのは、各種リサイクル法の功績によるものであると考える。これまで、廃棄物を通して培った礼儀と道徳で、資源効率性を健全な社会の仕組みに組み込むことが大切である。将来世代との衡平(Equity)がその先にある。
7-4 低炭素の現在と近未来
気候変動枠組み条約・京都議定書第一約束期間の総括は、日本にとっては、いささか後味の悪いものになった(と、私は思っている)。1992年の地球サミット以降、低炭素・気候変動の名の下で、これからも、ビジネスチャンスは続くと思う。そういう中で、日本は、オイルショック後の省エネルギー法で技術を高め、温暖化対策推進法で化石燃料使用削減の制度をつくり、真剣に向き合った。国際的に微妙な立場におかれたときにも、確実に地球に貢献したのである。
すでに資源・低炭素問題はエネルギー問題に推移している。ややもすると、争いの火種になりかねない。しかし、そこに他国と同列に参戦するよりも、将来世代との衡平(Equity)のために、化石燃料に頼らない社会を構築することが、本来の私たちの目的である。2015年末のCOP21 パリ協定は、「地球の気温」という基本に立ち戻ることで合意した。私たちの道は、本来の王道と自負してよい。
工作実験フェア 2015でも、同じく、ペットボトル戦車を作りました。以下、リンク先を改善しました(2015 Sep 10)
工作・実験フェア2014でペットボトル戦車を作りました。「工作・実験フェア」とは、夏休み期間に、主に地域の子供たちと一緒に、工作や実験をするイベントで、2009年から実施しています。
50歳以上の方ですと、憶えていらっしゃるかもしれません。昔、「糸巻き戦車」というものがありました。使用済みの木製糸巻きに、輪ゴムを通して、片側を固定し、片側に割り箸をつけて、ゴム動力でゆっくりと走るというものです。今は、木製糸巻きを入手できませんので、ペットボトルで作りました。作り方のパネル(
pet_bottle_combat_tank.pdf)を用意し、14名の学生に指導してもらいながら、ペットボトルを持参した子供たちと一緒に、300 個以上作りました。
穴開けや、ゴム通しなど、なにごともコツがあります(画像クリックで大きくなります)。
作り方を簡単に説明します。ペットボトルのキャップと底に、T字型の手回しスクリュードリルで孔をあけます。この孔を、テーパーリーマーで、直径5 mmくらいまで広げます。底の孔の10 mm横にも小さい孔(直径3 mm)をあけます。幅広の輪ゴム底の5 mmの孔から入れ、輪ゴムの端に3 mm × 25 mmのビス(ユニクロ)を通し、このビスを、「小さい孔」に差し込みます。ペットボトルの中に見えている輪ゴムを引っ張り出して(このためにも、専用工具を作りました)、キャップとワッシャ(M6×16 mm、ユニクロ)を通過させ、最後に、割り箸に引っかけます。ポリ塩化ビニルの絶縁テープを巻いて完成です。講釈しますと、ビスを「小さい孔」に差し込むのは、ビスの供回り(ともまわり)を防ぐ目的であり、キャップと割り箸の間のワッシャは、回転抵抗を減らすため、絶縁テープは、床とボトルの摩擦を上げるためです。
走り出した瞬間の歓喜の様子(画像クリックで大きくなります)。
いろいろな種類のペットボトルで試したところ、この目的に適しているペットボトルは、お茶やスポーツドリンクに使われるものが望ましく、首の部分がなめらかに細くなっているものは、まっすぐ走りにくく、円軌道をとりやすいことがわかってきました。
左側が好ましい形です(画像クリックで大きくなります)。
簡単なおもちゃですが、少年科学者の心に残ってくれれば、これほど幸せなことはありません。
環境工学は、理科全般に関する素養が必要なのですが、実用的な入門書が少ないというのが実情です。2012年から、廃棄物資源循環学会の編集にたずさわっていますが、そこで、理化学入門講座を、何回かに分けて掲載しようということになりました。
最初は、化学物質の環境運命予測モデルについてです。環境に有害な化学物質が、放出された後に、どこに蓄積され、どこで分解され、どのくらいの濃度になるのかを、大まかに予測するものです。最終的にはコンピューターソフトウエアで計算するわけですが、モデルの考え方や、実験室で求めたパラメータをどう使うかなどについて、記述しました。このような作業は、実は、「間違っていないか」という不安がつきまとうものです。今回の原稿は、京都大学の平井康宏先生に確認してもらいました。いただいたアドバイスが、内容を改善するのに大変役立ち、あわせて、私にとっても、理解を深めることにつながりました。
「熱力学と化学平衡」には、私の若い頃からの思い入れもあって、力が入ります。化学平衡は、気体・固体分野と、イオンを含む水溶液の分野で、取扱いが若干異なっています。また、反応のギブスエネルギー変化を好んで使うか、標準化学ポテンシャルから計算するか、いくつかの流儀があるのです。自分の中でも、ずっともやもやしていましたが、日本が誇る熱力学データベース・計算ソフトウエア「MALT」の開発者である横川晴美先生に教えてもらうことで、ずいぶんとすっきりしてきました。横川先生のお話では、「熱力学分野の学者同士でも、『その考え方はいかがなものか』という議論がよく起こるものなのですよ。」教えていただきました。
ここまで書いて、気がつきました。入門編を執筆するといいながら、実は、私自身も勉強しているのです。次は、あなたの原稿を持って、「教えて下さい」と現れるかも。
(図1) 環境運命予測モデルのひとつで、「環境コンパートメントモデル」と呼ばれているものの概念図です。大気、水、土壌、底質のどこに蓄積し、どれほど分解され、どの程度の濃度になるのかを予測するものです。
(画像クリックで大きくなります)
大宮キャンパスの正門前にある英語教育施設「CHAST」の E 先生と先日、食堂で雑談したときのことです。簡単な日常の話題を話した後で、おもしろいことを知ったので、報告します。
渡辺: 「英語では、簡単な単語を組み合わせて、話すことがあって、実は僕らにはわかりにくいんです。もっと、『そのことだけ』を示す単語を使った方が、外国人には分かりやすいんです。たとえば、『注射』のことを、"ゲット・ア・ショット(get a shot)"と言うらしいですけど、僕だったら、メディカル・インジェクションと言いたい。」
E先生: 「メディカル・・・は、ちょっと、堅すぎる。正しいとは思うけれど。でも、もっとおもしろいことがある。
"ゲット・ア・ショット" は『注射』
なんだけど、
"ゲット・ショット"は、『銃殺』
なんだ。」
渡辺: 「いま、なんておっしゃいました?」
E 先生: 「ゲット と ショットの間の、" ア "が入る場合と入らない場合の区別です。get a shotは『注射』、get shotは『銃殺』です(ピストルで胸を撃たれるフリをしながら説明してくれました)。
渡辺: 「その、"ア" って冠詞の a ですね。大切なんですねえ。」
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その場では大笑いで終わりましたが、昼食後、部屋に戻ってあらためて、辞書を調べると確かにそう書いています。実際にはあり得ないと思いますが、病院へ『注射』を受けに行って『銃殺』されたら大変です。学生の皆さん。こんなトリビアで結構です。「CHAST」へ行ってみましょう!
第12回 城北祭(大阪工業大学学園祭)での工学実感フェアに「炭焼き体験」を出展しました。400 度に保ったガラス管にヘリウムガスをわずかずつ流し、この中に割り箸や竹の棒を入れます。熱分解ガスが発生して、割り箸や竹は、黒い炭になっていきます。熱分解ガスは、ガラス管の出口付近で凝縮し、タールになります。一部は、焦げ茶色の液体(「木酢液(もくさくえき)」)になり、ガラス管出口付近に溜まります。
(写真1) 管状炉の中にガラス管を入れ、2日間、炭を焼き続けたあとの様子。タールで真っ黒になっています。向こうに見える自転車の前輪は、おなじみとなったリキテレ(人力テレビ)です。
(画像クリックで大きくなります)
間近で見ることができるというのが、この出典のポイントで、「炭がもともと木材であった」ということを考えたこともない子供達にとっては、新鮮だったようです。熱分解ガスが出始めたときに、管状炉のふたを開けると、「すげえー」と、声を上げる子もいました。
(写真2) 試料を管状炉に押し込む作業を、子供達に実際にやってもらいます。
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子供だけではありません。炭のことについては、私たちよりよっぽど詳しい方も多く、立ち寄っていただいた方から、木の種類や、木酢液の使い方など、いろいろなアドバイスをいただきました。
例年のことですが、リキテレ(人力テレビ)やヘリウム風船を自分で作るコーナーも出展しました。「今年もあったあ!」と言う声もありましたので、固定客も獲得したようです。
また、来年!
たとえば、室内のCO2濃度や、湯沸かしの水温などを数量的に取り扱う単純なモデルを、「完全混合槽モデル」といいます。室内のCO2の場合、室内の人が吐き出すCO2が換気によって室外に出されるわけですが、その換気量をいくらにすれば快適な環境に保たれるのかを計算することは、環境工学の基本スキルです。
最近、学生の理解を深めるために、授業で行う簡単な実験を実施したので報告します。写真1を見て下さい。大きな透明容器の中に、CO2計が入っていて、エアーポンプで空気を送り込み、出口バルブをゆるめておけば、換気を模擬することができます。奥に見える扇風機は、内部を攪拌するためのものです。
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プラスチックシリンジで50 mLのCO2を注入したところ、初期濃度は2700 ppmVになり、それから、換気を続けるに従って、CO2濃度が下がっていく様子を記録しました。データを解析して、一次減衰係数を求めたところ、1分あたりで11.6%になりました。
完全混合槽モデルの微分方程式から、この一次減衰係数は、容器の容積とエアーポンプの流量で求めることができますが、なんと、3.8%になってしまいました。実験結果の11.6%とは大きく違います。焦ります。何か問題があるに違いない。どうやら、エアーポンプの流量測定に問題がありそうです。プラスチックシリンジに使用した流量測定では、1分あたりで400〜500 mLと、再現性がよくなかったのです。
そこで方法を変えて、水を入れて逆さまにしたメスシリンダーの口にポンプのチューブを差し込み、ブクブクと空気を溜めて調べました。3人かかりで、取りかかっている様子が、写真2です。この結果、エアーポンプの流量は、ポンプごとに少しずつ違い、900〜1100 mLでした(再現性もとてもよい)。その結果、先ほどの一次減衰係数は、3.8%から11.3%になりました。11.6%とほぼ一致しています。ほっと一息です。
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従来の学生実験は、正しい結果になるように、十分に準備をする「料理番組」のようなものでした。しかし、「思った通りにならない」、あるいは「結果のつじつまが合わない」ことを解決するほうが、学習効果が高いと考えます。今回の場合、エアーポンプの流量で、一次減衰係数が変化することを、強く印象づけたと思うのです。えっ? 教材準備の不備を「学習効果が高まる」と開き直っているだけだろうって? それもあるかも。
塩分と熱で破壊されていく石英燃焼管(環境工学実験 II)
授業で実施する学生実験でのできごとです。
環境工学実験 II のなかで、廃棄物の元素分析を行います。試料を石英管(950 度)の中で燃焼させて、発生した燃焼ガスを分析する方法です。試料には、粉末に破砕した「厨芥類(台所ごみ)」と「プラスチック類」を使います。
写真1: 試料燃焼 - ガス捕集の装置です。手に持っているのが新品の燃焼石英管です。実際には、電気炉の中に挿入して使います。
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さて、クイズです。石英製の燃焼管は、100時間くらい使っていると、劣化して割れてしまいますが、「厨芥類(台所ごみ)」用と「プラスチック類」用のどちらの石英管が先に劣化するでしょう?
答えは「厨芥類(台所ごみ)」用です。とかく「プラスチック類」を燃やすことが、悪く言われることが多いのですが、それよりも焼却炉にとっての大敵は、「厨芥類(台所ごみ)」が多く持っているカリウムやマグネシウムなどの塩分なのです。塩分は、高温で蒸発し、石英の表面にとりつき、染み込み、石英の結晶を破壊していくのです。
写真2: 透明を失って真っ白になった石英管は、最後には、このように割れてしまいます。透明で美しかった新品の石英管と比較して下さい。
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焼却炉の大敵は「プラスチック類」よりも「厨芥類(台所ごみ)」の塩分である という事実を、多くの人は知りません。ごみ焼却での発電が、石油・石炭での発電よりも難しい、そのため、ごみ発電での効率を上げることができないことも、塩分のためなのです。
2011年の東日本大震災を契機に発生した原子力発電所でのメルトダウン事故では、臨界を防ぐために海水を注入したとのことです。塩分と熱がもたらす腐食は、恐ろしいです。「厨芥類(台所ごみ)」を燃やしているうちに、失透し、破壊された石英管を交換しながら、暗い気持ちになってしまいました。
新卒1年生の内定報告
昨今の就職難は、私たちの大阪工大でも、学生が荒波にもまれて大変な状況です。環境工学科の場合、2010年3月卒業者では、56名卒業のうち、大学院進学 8名、就職 45名、就職活動継続中(未内定) 2名、その他(専門学校進学など)1名)でした。この就職活動継続中(未内定)のうちの一人が、「新卒1年生」として就職活動を行い、みごと、2011年4月から、正社員として社会デビューをすることになりました。先日、この1年間の話を聞かせてもらいましたので、本人の承諾をもらって、その内容をここに記します。
卒業後、学生時代から続けていた小売業のアルバイトを続けながら、4月、5月はのんびりとしていたそうです。6月に、「暇だ」ということをあらためて認識し、それが、9月頃からは苦痛に変わったとのことです。その頃から、ハローワークに行くようになり、7社を受験した結果、内定をもらいました。
就職先は、環境分野の技術系の会社で、大阪工大も、例年、求人票をいただいています。彼が、ハローワークで見た求人票は、大学にも届いていました。世間でよく知られている企業の系列会社ですから、私たちも、そこで卒業生が仕事をすることを、誇りに思います。「君は、大阪工大の看板を背負って働くことになるんだから」と、卒業した社会人に、説教がましくも、言ってしまった自分が恥ずかしいです。
ハローワークの様子も聞かせてもらいました。事務系より技術系の方が求人が多く、逆に、求職者は事務系が圧倒的に多かったそうです。「理系・技術系のほうが就職で有利」というのは、このことなのだなあと思います。
印象的だった彼の言葉は、「大学から離れて、なにもかも自分から動かなければならない状況になったことがよかった」でした。私の目からも、卒業後の1年間で、驚くほど、成長したと思いました。卒業生が来てくれること、目を輝かせて近況を話してくれることが、私たち教育職にとって、何よりうれしいことです。
リキテレ 2(ツー)
2010年10月末の学園祭「第10回 城北祭」の工学実感フェアにて、人力(じんりき)テレビ(通称 リキテレ)を出品しました。1年前に、初公開したものから、ずいぶんと改造しています。
1) 14インチのアナログテレビから32インチの地上波デジタルテレビにグレードアップ
2) 自転車の減速比の見直し(前後プロケットの最速化、内装変速装置ハブを採用)
この改造で、きれいな映像を、5分以上楽しむことができます。以前のアナログテレビ(室内用アンテナで受信)では画面ノイズが大きかったので、興奮して、「地デジは、リキテレのために !」と言ってしまいそうです。学園祭での出品ですから、例によって、小学生諸君の「リキテレ競争」の餌食にされてしまいます(写真1)。
ちょうど、吉本新喜劇をやっていました(画像クリックで大きくなります)。
中学生以上になると、いつまでも、こぎ続けることができてしまいますので、血気盛んな若者には、「青年の部」と称して、テレビだけではなく、100 W 電球もあわせて点けてもらいます。これで、ペダルがぐっと重くなります。
模擬店が多く並んでいるので、呼び込みのコスプレ学生にも「リキテレ体験」をしてもらいました。最初は、スターウォーズの戦闘員とでもいうのでしょうか、理力(フォース)のおかげか、ペダルはかなり軽そうです(写真 2)。
スターウォーズの戦闘員君です。ピースサインを出してもらいました(画像クリックで大きくなります)。
つぎに、本学 工学部の女子学生です。普段はこの姿ではないそうですが、この日ばかりは、メイド姿に身をつつみ、一身に衆目を集め、リキテレをアピールしていただきました(写真3)。
写真に写っていない方々も含め、リキテレ体験にご参加いただいた方々、ありがとうございました。
模擬店の呼び込み真っ最中のところ、呼び止めて、リキテレ体験していただきました(画像クリックで大きくなります)。
環境テクノフォーラム2010 第2幕
2010年4月より、大阪工大では、環境テクノフォーラム2010を開催しています。隔週で、環境技術に携わる学外の方に講演をいただくものです。毎回、80名程度の参加があります。聴講者は、学生のほか、企業関係者、高校の先生方、一般市民などです。
聴講している学生が、熱心にメモをとっている姿(写真1)が見られますが、これには、実は仕掛けがあります。環境テクノフォーラム2010は、授業と連動していて、聴講の後で、そのレポートを作成し、学生の前で発表しなければなりません。レポートは、「誰の何の話を聞いたか」「話の中身の概要」「特徴的な点」「それに対する意見」といった、起承転結の構成です。
メモをとりながら講演を聴く(画像クリックで大きくなります)。
発表学生は、黒板に自筆で文章を書き(写真2)、読み上げ、解説します(写真3)。他学生に読ませ、聞かせるわけですから、文章を推敲し、まとまりのあるものに仕上げる必要があります。
自分が作成した講演録を自筆で黒板に書く(画像クリックで大きくなります)。
学生の前で発表してもらいます(画像クリックで大きくなります)。
この授業が必要だと思ったのにも理由があります。
某銀行で採用人事に携わっている友人によると、就職活動で作成する書類(「エントリーシート」と呼ばれることがあります)の小論文のレベルは、近年、飛躍的に上がったとのことです。この激戦への準備です。
授業の終わりで、
「では、次回発表する人は?」
の問いかけに、
いつも10人くらい手が上がります。
すごい。
人力テレビ(リキテレ) in 9th 城北祭 (2009Nov4)
第9回 城北祭(2009年 11月1日〜3日、大阪市旭区大宮)の工学実感フェアで、人力テレビ(リキテレ)を出展しました。その名の通り、人力発電でテレビをつけるものです。自転車の荷台に発電機を取り付け、後輪に接触させて回転させ、コンセントがない屋外でも、テレビを見ることができます。そもそも、人の消費エネルギーは約100 W、小型のテレビの消費電力は約70 Wですから、十分に実施可能です。
小学3,4年生くらいからこげます(写真1、2)。模擬店が出店されている大学の中庭で、入れ替わり立ち替わりの見物人(10人くらい)から、「やりたい」「つぎは、わたし」と、大人気でした。小学生がこぎ続ける時間は、普通、30秒くらいでしたが、中には、5分以上、涼しい顔でこぎ続ける大学生もいました。
小学生の女の子が楽しくこげます(画像クリックで大きくなります)。
だんだん苦しくなってきたけど、いま、おもしろいところだからやめられません(画像クリックで大きくなります)。
リキテレは、電力の消費を体感することができます。ペダルの踏みはじめは少し重く、さらに、テレビのスイッチが入る瞬間に強めの抵抗を感じますが、その後は、軽くこぎ続けることができます。今回はブラウン管方式のアナログテレビで挑戦してみましたが、電波状況が悪く、Jリーグサッカーの試合をやっていることはわかっても、字幕で、どちらのチームが勝っているかの判別ががつかないくらいであったこと、白状しなければいけません。
リキテレは、26インチのファミリーサイクルを使っていたので、幼稚園・小学校低学年の子ども達には、こぐことができません。そこで、「君たちは宣伝してきてねーっ」とばかりに、ヘリウム入りの風船(500 個)をプレゼントすることにしました。実験用に使うヘリウムガスですが、レンタルボンベの返却期限が6ヶ月なのでこの際、遊びに使ってしまうのです。しかし、ただではあげません。子どもに自分でボンベの弁を調節して風船にヘリウムを詰めさせます(写真3)。本当は、風船に「リキテレ」と画いて欲しかったのですが、子ども達は、おかまいなしに、思い思いの絵を描いていました。
ヘリウム入り風船をプレゼント。でも、自分でヘリウムガスを風船に詰めてもらいます(画像クリックで大きくなります)。
次回のリキテレイベントまでには、いくつか改良しようと思っていますが、そのアイディアは、秘密です。そうそう、このリキテレイベントの目的を説明するのを忘れていました。パネルではゴタゴタ書いていますが、端的に言うとこうです。「人力こそが究極のバイオマスエネルギーだ! 」
会場で説明に使っていたパネル
廃棄物の分析 環境工学実験II (渡辺担当分) (2009Nov4)
3年生の授業 環境工学実験IIで、ごみ試料を使った燃料分析を行います。工業分析(水分、灰分、可燃分)、発熱量析、水素・炭素分、塩素・硫黄分を測定して、最終的な報告書にまとめます。
1) 水分・灰分の計測と、リービッヒ法による水素(H)と炭素(C)の計測を行う(写真1)。
ものを燃やすと水(H2O)と二酸化炭素(CO2)になるという原理を利用したものです。
リービッヒ法による水素(H)と炭素(C)の計測
2) ボンブカロリーメーターで発熱量を求める(写真2と写真3)。
密閉された容器の中で試料を燃やして、温度上昇から発熱量を求めるものです。食品のカロリーとほぼ同じです。
燃焼ボンブに30気圧の酸素を充填
手動式カロリーメーター
3) 燃焼分解・イオンクロマトグラフ法で塩素(Cl)と硫黄(S)を分析する。
燃焼ガス中のHClとSO2を吸収液で捕集し、灰に残ったClとSも分析します。
報告書では、組成分析結果のみならず、課題として、燃焼計算によるガス量の予測と、発電能力の推定をせねばなりません。「こむずかしい」計算が必要ですが、それまでに教わった知識を総動員して、立派な報告書に仕上げる学生もいます。
なお、この実験プログラムは、廃棄物に関する国際セミナー(第4回 アジア・太平洋諸国 廃棄物専門家会議 2008年 7月、横浜)で、大学での教育の例として発表したことがあります。
「きき水」なんてやったものだから.... 後日談(2009Sep28)
2009年8月末のオープンキャンパスで、「水道水でもおしいいと感じるのは私だけではない」と、妙な自信を持った直後、朝日新聞で、「東京、大阪、名古屋の水道水のうち、どれが一番おいしいかを『利き水』するイベント」の記事が出されました。
なんでも、32人の公募市民のうち13人が「名古屋の水がおいしい」と投票し、名古屋市の水道水がトップだったそうです。
さてさて、私は、この9月に廃棄物資源循環学会で、名古屋に出張したのですが、その会場で飲んだ水道水が、なつかしいというか、思い出したくないというか、おいしくなかった昔の大阪の水に近かったのです。これは、私だけではなく、関東からの出席者も、同じことを言っていました。
ところが、ホテルの水道の蛇口で飲んだ水はうまかった。河村名古屋市長、安心してくださいね。
こんな体験をしてしまったものですから、出張などで他の地方に行ったときには、「とりあえず水道水を飲んでみる」のが楽しみになりました。
きき水 in オープンキャンパス2009 (2009Sep28)
2009年8月29日は2回目のオープンキャンパスの日でした。環境工学科からは、都市ごみ焼却のダイオキシン類のモニタリングと燃焼実験などの研究紹介と、模擬河川の展示、そして恒例となった「きき水」をしました。「きき水」は、今回はちょっと遊び感覚で、水道水、軟水、硬水で、「どれがおいしいか」を選んでもらうのと、3種類の浄水マニフェストの「どれに投票しますか」をやってみました。以下はその結果です。
■おいしかったのはどの水 ? (常温 25 度 付近) ■
A 水道水(大阪市水道水 硬度 45 mg/L ) 37%
B 市販のミネラルウォーター1 (フランス、硬度 1468 mg/L) 5%
C 市販のミネラルウォーター2 (日本、硬度 29 mg/L)) 59%
なんと、3人に1人が、「水道水がおいしい」と回答しました。大阪市水道局の努力が実ったと言えます。市販のミネラルウォーターでは、硬水(硬度 1468 mg/L)より、軟水(硬度 29 mg/L)が好まれるようでした。
大阪市水道局が、水道水の塩素を抜いたものをペットボトルに詰めて「ほんまや」として売っています。いつもは、こちらを「きき水」に使うのですが、水道水そのままでも、「けっこう戦える」ことがわかりました。次回をおたのしみに。
■浄水マニフェスト あなたはどの政策に投票しますか ? ■
政策: しっかり消毒して安全な水を供給します
(言外の不安要素: カルキ臭が残るのでは? 発ガン性物質の生成は?) 37%
政策: 発ガン性ゼロの水を供給します(言外の不安要素: 消毒は大丈夫?) 26%
政策: おいしい水を供給します(言外の不安要素: コストが高いのではないか?) 38%
こちらは、みごとに、意見が分かれました。「安心・安全」がいまのキーワードになっているからかも知れません。明日が衆議院選挙、今日が自民党政権最期の日になるかもしれない「不安な日」だからこそ、この結果なのかも知れませんね。
おっと、教壇で、政治・宗教の話をしてはいけないはずでしたね。失敬。
「大阪のおいしい水のひみつ」ツアー(2009Jul23)
環境工学科3年生前期の「環境工学実験II」「環境工学演習II」で、大阪市水道局柴島浄水場へ見学に行きました。昔は、「まずい」とか「かびくさい」と言われた大阪の水ですが、いまは大変おいしく、ペットボトルに詰めて「ほんまや」の商標で売っているくらいです。ちなみに、オープンキャンパスなどのイベントで、環境工学科のブースでやっている「きき水コーナー」は、「ほんまや」と他のミネラルウォーターを比べてもらうものです。
さて、今回の見学は、この「おいしい大阪の水」の秘密を探ろうというものです。水道記念館に集合し、レクチャールームで、まずはみっちりと最新の浄水処理技術の講義をうけます。キーワードは、「オゾン処理」と「粒状活性炭」です。いずれも、私が25年前に、学んだ頃は使われていなかった技術です。記念館には、一般向けの見学通路もあるのですが、「君たちは専門家のたまごだから」という理由(と思いますが)で、ここはスルーして、浄水場の施設に案内してもらいました。
写真1は、漫然と通路を歩いているのではありません。「凝集沈澱とフロック形成」を見ているのです。実験IIの課題のひとつが、まさに「凝集沈澱」ですから、「この間やった実験のホンモノ」を見ていることになります。
写真1 浄水施設・沈澱池の見学: フロックが徐々に成長して、沈澱していくのがわかります。
浄水処理でも汚泥がでてきます(写真2)。園芸用の土にリサイクルされていたようですが、コストが問題になるそうで、汚泥処理は今でも課題です。
写真2 浄水汚泥は一日に50 t ほど出るようです。水1 tに対して100 gくらいか。
午前中の見学の最後に、集合写真を撮りました(写真3)。入学時の集合写真では、どうしても表情が硬くなりますが、こちらはちょっと、ふざけすぎかも。
写真3 水道記念館前で集合写真
ごみ処理施設の見学 (2009 May 29)
授業で、大阪市環境局舞洲工場(ごみの焼却処理施設)に見学に行きました。
大学からヘルメットを持参して、一般見学通路以外に、機械設備のある「炉室」に入らせてもらっています。
写真1: 見学通路と違って、炉室の格子階段は、少し怖いものです。
写真2: 炉の「のぞき窓」は、やはり熱い。中央制御室にもこの画面があるのですが、熱を直(じか)に感じると迫力があります。
写真3: 焼却炉の底から排出される灰は、水を張ったプールに落とされて、冷やされます。
このほかに、ボイラ設備、排ガス処理施設、ボイラー用水の分析、ごみの分析の案内をしてもらいました。
80人もの大勢を班分けして、炉室に案内していただいた大阪市環境局の職員のみなさま、ありがとうございました。
圧力の基本は1013(せんじゅうさん)ヘクトパスカル - これが結構素晴らしい -(2009Apr23)
環境工学は、総合工学なので、量・エネルギーに関する「読み書きそろばん」科目: 環境工学入門II(1年生配当科目)を担当しいます。そのなかで、最初はやっかいだったけれど、教えながら、「なるほど、こう教えたらいいんだ!」と気づくことがよくあります。その例が、「圧力」です。
「圧力」というと、ほとんど全ての学生諸君が中学校や高校で教わってきたコトがあります。「1気圧は、1013(せんじゅうさん)ヘクトパスカル」です。意味はともかく、「ヘクト」と「パスカル」、まして、1013という4桁の数字(円周率の3.14や、重力加速度の9.8よりすごい)まで正確に憶えてきているのです。
素晴らしいことです。科学は段階を踏んで学ぶもののように言われますが、やみくもに憶えて、何年も経ってから、その中身を知ることが、大きな進歩をもたらすのです。「ヘクト」が「100倍」の意味であることや、「1気圧が水深10.3 m(黒板にいつもこんな図を描いています)」であることは、あとから頭の中でつながるのです。こんな具合に、「最初につめこんでおいて、あとからつながる」教育を目指しています。
黒板に書いている図