化学物質の環境運命パラメーターに関する研究

 

化学物質の環境運命とは

 
殺虫剤や有機溶剤など環境中に放出された化学物質は、大気・水・土壌に移行します。移行・蓄積・分解の様子は、その化学物質の性質と放出先から、おおよその予測が可能です。
 
人間が取り入れる食料・空気・水に含まれるそれら化学物質の濃度が推定できれば、毒性情報と比較することによって、その化学物質の使用によって生じる健康リスクの度合いを予測することができます。
 
実際、政府機関などが、環境運命予測モデルの計算パッケージを開発して、リスク評価に活用しています。しかし、ややもすると、ブラックボックス的になってしまう懸念があります。
 
そこで、ここでは環境運命予測モデルにもっともよく使われるコンパートメントモデルの概念を整理し、どこの部分がわかっていているのか、どこの部分を調べる必要があるのかを明確にします。
 

コンパートメントモデルの視覚的理解

 
まず、環境を複数のコンパートメントに分けてます。図では、大気・水・底質・土壌に分けています。
 
ある化学物質の濃度を、大気中でCa、水中でCwであるとします。両者が釣り合っていなければ、どちらか片方への、化学物質の移行が起こりますその様子を、大気と水の「タンク」で表すことができます(タンクアナロジー)。
 
 
図では、水中濃度のほうが、大気中濃度よりも、相対的に高いので、水から大気へ移行(揮発)しています。タンクの大きさ(図では横幅)は、そのコンパートメントの容量を表しています。このタンクアナロジーは、とても便利で、底から流れ出ているのは、そのコンパートメントでの分解を表しています。
 
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このテーマに関連した論文等:
 
渡辺信久 (2013) 廃棄物資源循環のための理化学基礎講座 1 化学物質の環境運命 コンパートメントモデルとは. 廃棄物資源循環学会 24: 153-159
Watanabe, N., Sakai, S and Takatsuki, H.(1992) Examination for degradation paths of butyltin compounds in natural waters, Wat. Sci. Technol., Vol.25(11), 117-124
渡辺信久・酒井伸一・高月紘(1992)水-底質系におけるブチルスズの動態と環境運命    水環境学会誌, Vol.15(10), 672-682
Watanabe, N., Sakai, S and Takatsuki, H.(1995) Release and degradation half lives of tributyltin in sediment, Chemosphere, Vol.31, 2809-2816
Watanabe, N., Sakai, S and Takatsuki, H.(1997)Desorption of tributyltin, dibutyltin and zinc from resuspended sediment, Appl. Organomet. Chem., Vol.11, 273-279
 
 

現在の研究: コンパートメント間での移行について

 
環境運命予測モデルを使うときには、物質固有のパラメータ(分配係数、分解速度など)を入力します。環境に関するパラメータ(湖の深さなど)も入力できますが、湖の深さなどは見当がつくのですが、コンパートメント間の移動を表す物質移動係数は、ピンときません。
 
新しい化学物質ごとに分配係数や分解速度などの「化学物質の環境的性質」を調べることに比べて、物質移動係数のような「環境のパラメータ」を求めることは地味な作業ですが、環境運命予測モデルを取り扱う上で、「その値が、どの程度信頼性があるのか」「どの程度変動するものなのか」を知っておくことは、とても重要なことと考えます。
 
これまで、水中に溶けている物質が底質へ吸収されていく速度、底質間隙水中の物質が直上水へ溶出する速度について調べています。
 
最近、気になっているのは、大気ー水間の物質移動です。「ガス吸収」、「酸素供給」など工学的にはクラシックな領域ですが、装置と実環境は違います。それに、わかっていないことも多い。たとえば、水に溶けた有機溶媒が大気へ移行していく割合について、無頓着な科学者が少なからずいたり、大気中のCO2が海水に溶解する速度の変動などです。
 
 
 
 

このページを作ったのは大阪工業大学 工学部 環境工学科 循環基盤工学研究室 教授 渡辺信久です。