2024年度,表記の科学研究費基金に採択されました.期間は5年.
本ページでは,概要について紹介します.研究成果はここ..
代表 真貝寿明 (大阪工業大学情報科学部)[researchmap], [研究室web]
分担 鳥居隆 (大阪工業大学R&D学部)[researchmap]
現在までに90例が報告されている重力波イベントのなかで.最も多いのは,連星ブラックホール(BH)の合体を起源とするものである.検出数が増えるにつれて,連星合体のパラメータを特定し,背後の物理を議論することが可能な時代になってきた.BHの質量分布は,星の起源や進化のプロセスを明らかにする上で重要な問題であるとともに,銀河中心に存在する超大質量BHの起源を明らかにする上での大きなヒントになる.また,議論の基礎になっている一般相対性理論の有効性を重力波データから検証することも可能になりつつある.本研究は,これらの根源的な問題について,理論とデータ解析の両面から新たな手法の開発を用いて解析を進める.
具体的には,本研究では,リングダウン重力波を直接抽出するツール開発を行い,次の3テーマに取り組む.
1.連星ブラックホール(BH)のパラメータ推定をより効率的に行う手法の開発
リングダウン重力波から得られた合体後のBHの質量と角運動量を用いることで,合体前の波形から決めるべきパラメータ数を減らすことができる.また,リングダウン重力波の高次モードや倍音モードの検出ができれば,合体後BHの回転軸の向きも求められ,合体前の公転面の傾斜角も推定できる.これらの相関を,理想的なモデルを想定して算出し,実パラメータ推定の精度向上方法として提案する.2026年度中までの中心課題とする.
2.超大質量ブラックホールの形成シナリオの検討
連星合体で形成されるBHの質量分布と角運動量分布から,干渉計の観測限界の情報を加味し,現宇宙に存在する連星BHの総数を換算するモデルを提案済みである.2026年に終了するO4観測の全データの統計を用いて,中間質量BHや超大質量BHの予想形成数を算出し,ボトムアップ型のシナリオで超大質量BHをつくるモデルの有効性を議論する.
3.重力波データによる一般相対性理論の検証
現在までの解析では,「すべての重力波イベントは一般相対性理論の予言と無矛盾である」と報告している.リングダウン重力波の高次モードや倍音モードを抽出できるようなシグナル・ノイズ比の大きな重力波検出がなされると,その検証精度が一気に上がる.有意なズレが確認されたときには,どの代替理論が生き残るのか,といった議論が必要になる.そのための準備をいくつかの代替重力理論を用いて進める.
成果一覧のページをご覧ください.
2024年度は,(a) 重力波のデータ解析手法に関する研究と,(b) 一般相対性理論の検証方法に関する研究の2つを進めた.
(a) 重力波観測のレーザ干渉計のデータから重力波の波形を抽出するプロセスにおいて,現在中心となっている手法は整合フィルタ法である.予測される重力波波形と同じ波形がデータ中に潜んでいるかどうかを確率的に推定する方法で,あらかじめ波形のテンプレートを用意しておく必要がある.そのため,この手法では,未知の重力波は検出はできず,一般相対性理論以外の重力理論の検証も十分に行えない.そこで,ノイズをもつ信号から物理的に有意な信号をテンプレートなしに抽出する技法の開発に取り組み,独立成分分析(ICA)を適用して重力波信号を取り出す手法を提案した.複数台の干渉計で信号を捉えていることが前提となるが,信号雑音比が15以上であれば,連星合体前の重力波波形を取り出すことができることをLIGO-Virgo-KAGRA (LVK)が公開しているO3までの実データに対して示すことができた.現在,論文を投稿中である.
(b) 一般相対性理論の検証の別の手法として,光格子時計を用いた実験提案にも取り組んだ.以前に重力波観測を宇宙空間で行う際に遠距離に配置した正確な時計を用いる方法を提案したが,その提案と,東京スカイツリーでの高度差を用いた重力赤方偏移の実験結果とのレビュー論文を依頼されたことを契機に,新たに地球軌道上を周回する衛星に搭載した光格子時計で,パラメトライズド・ポストニュートン展開された時空計量の2次の項がどれだけ検証できるのかを概算した.論文は,Int. J. Mod. Phys. D に掲載された.
そのほか,LVK国際コラボレーションのメンバーとして,重力波観測シフトやアウトリーチ活動にも携わった.