ナノ材料マイクロデバイス研究センターを研究拠点とする電子情報システム工学科の小池教授および廣芝准教授らの研究チームは、
腎臓のはたらきをリアルタイムで確認できる「パッチ式バイオセンサー」の開発を進めています。
慢性腎臓病をはじめとする生活習慣病は、初期段階での自覚症状がほとんどありません。そのため、病院での定期的な検査だけでなく、 日常生活の中で常に健康状態をチェック(モニタリング)し続けることが、早期発見の重要な鍵となります。そこで研究チームが着目したのが、 皮膚のすぐ下にある体液「皮下間質液」です。痛みを伴う注射器での採血に代わり、これらの体液を利用することで、腎臓の健康度を示すマーカーである 「クレアチニン」や「尿素」を測定する技術の研究が行われています。
この最先端センサーの性能を支えているのは、驚くことに私たちがよく知る「絹(シルク)」です。シルクの成分である「絹フィブロイン」は生体適合性が非常に高く、 スキンケア用品や医療品にも使われるほど人体に安全な素材です。この成分を活用することで、特定の物質を検知する役割を持つ「酵素」を、センサー上にしっかりと 閉じ込めておく(包括固定する)ことが可能になりました。さらに尿素センサーの研究においては、この酵素膜の厚さを0.1マイクロメートルという極限まで薄くするこ とに成功しています。これにより反応スピードが飛躍的に上がり、リアルタイムでの正確な測定が実現しました。
本研究の最大の強みは、尿素とクレアチニンという2つの項目を同時に測定できる点にあります。これにより、次のような可能性が広がります。
(1) 病気の早期発見
腎臓の機能が低下し始めた際、一般的にクレアチニンよりも先に尿素の値が上がりやすいため、病気の兆候をいち早く捉えることができます。
(2) 多角的なリスクの推測
これら2つの値のバランス(UN/Cr比)を計算することで、単なる腎機能の低下に留まらず、脱水症状や心不全といった別の病気のリスクまで推測することが可能になります。
(3) 日常環境でも正確に測定
温度変化や光による測定のブレを防ぐ「差動回路」という工学的な工夫を組み込むことで、環境に左右されない高精度な測定を実現しました。
痛い思いをせずに、いつでも自分で数値をチェックし、病気を未然に防ぐ――。工学とバイオテクノロジーを掛け合わせたこの研究は、私たちのヘルスケアの常識を大きく変える可能性を秘めています。
慢性腎臓病をはじめとする生活習慣病は、初期段階での自覚症状がほとんどありません。早期発見のためには、病院での検査に加え、日常生活での継続的な健康モニタリングが鍵となります。 とはいえ、痛みを伴う注射器での採血は負担が大きいですよね。そこで注目されているのが、腎臓の働きをリアルタイムで測定できる「パッチ式バイオセンサー」です。皮膚表面の汗や皮膚の 下の体液(皮下間質液)を利用するため、”貼るだけ”で痛い思いをせずに、手軽に健康状態を管理できるようになります。
最先端のバイオセンサー。その性能を支えているのは、驚くことに身近な素材である「絹(シルク)」です。体に優しく安全なシルクの成分「絹フィブロイン」の網目構造を活用し、 物質を検知する酵素をセンサー上にしっかりと固定。さらに、この酵素の膜を0.1マイクロメートルまで極限まで薄くすることで、反応スピードを高め、リアルタイムでの正確な測定を実現しました。
クレアチニンより先に上昇しやすい尿素を測ることで、腎臓の異変をいち早くキャッチ。さらに、2つの数値のバランス(UN/Cr比)から、脱水症状や心不全など別の病気のリスクまで推測可能です。 また、光や温度の変化に強い工学的な工夫「差動回路」を搭載し、日常生活での正確な測定も実現しました。工学とバイオ技術の融合が、私たちのヘルスケアの常識を大きく変えようとしています!
【謝辞】
本研究の遂行にあたり、絹フィブロインの原料「ナノフィブロインパウダー」をご提供いただいた松田養蚕場株式会社の松田氏、
ならびに電極と酵素膜を接着するシランカップリング剤をご提供いただいた信越化学工業株式会社の廣神氏に、心より厚く御礼申し上げます。
【参考文献】
[1] K. Koike,T. Higo, I. Yamana, M. Honda, I. Ando, Y. Hirofuji, N. Hiroshiba, "Extended-gate field-effect transistor-based biosensors for the detection of urea as an indicator of renal function", Japanese Journal of Applied Physics 64 (2025) 086501.
[2] 小池 一歩, 道端 涼,日後 太一,前川 英輝,楯 凱貴,山本 青依,広藤 裕一,廣芝 伸哉, "差動型拡張ゲート電界効果トランジスターを用いたクレアチニンセンサーの作製と評価",材料 73巻10号 (2024) 763-767.
[3] 廣芝 伸哉,牧野 賀成,道端 涼,広藤 裕一,小池 一歩,"腎機能指標クレアチニン検出用酵素膜の作製と拡張ゲートFET型バイオセンサー応用”,電気学会論文誌C (電子・情報・システム部門誌),143巻4号 (2023) 498-503.