大阪工業大学 環境工学科

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環境 VOICE

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“メタン発酵” 温室効果ガス排出量削減に貢献するバイオマスエネルギー
2019/06/21
■パリ協定と再生可能エネルギー
 温室効果ガスという言葉は、今ではすっかりなじみとなっていて、みなさんもあまり意識しなくても日常生活の行動に反映されているのではないでしょうか。例えば使わない部屋の電気を消すといった行動は、少し前までは化石燃料の消費をなるべく抑える側面がありましたが、今ではエネルギーという言葉は二酸化炭素の排出をイメージする方も多くなっているのではないでしょうか。2016年に発効したパリ協定では、日本は2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比で26.0%削減することを約束草案として提出しました(環境省HP https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg/2020.html)。
削減目標達成の手段の一つとして、“再生可能エネルギー”の積極的な導入が計画されています。政府の目標では、電力に占める率を2030年度に22〜24%(2016年度は15%)と設定しています(エネルギー白書https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2018html/1-3-0.html)。再生可能エネルギーとは、太陽光や水力、風力など、自然界に存在し、枯渇する心配がないエネルギーをいいます。そのための施策の一つに、2012年から始まった固定価格買取制度(FIT; Feed-in Tariff)があります。これは個人や企業などが発電した再エネ由来の電力を電力会社が買取って送配電し、その買取価格分を電気料金として使用者から徴収する制度です。みなさんの家に届く電気料金のお知らせにも“再エネ促進賦課金”として記載されています。その結果、ご存じの通り太陽光発電の普及が大きく伸びました。その結果技術開発が進みコストも下がるなど、制度の目指した形に近づきました。またその導入量は当初の想定値を大きく上回るまでになりました。このこと自体はいいことなのですが、買い取り価格が2050年度までで総額で94兆円に達すると試算されるなど、電気料金の増加と国民の負担が懸念されるようになりました。そのため大規模な太陽光発電の買い取り価格は、制度を始めた2012年度は10kW以上は40円/kWhであったのが、2019年度は14円/kWhとなっています(https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/fit_kakaku.html)。他にも大規模太陽光発電で得た電力を接続できる場所が限られている、いわゆる系統接続の問題などもあって、新規の導入は落ち着いてきたようです。私のところにも2017年度以降から、太陽光発電ビジネスの魅力が以前ほどではなくなった、という話が聞こえてくるようになりました。

■“バイオマス発電”と“バイオガス発電”
以上のような状況の中で、買い取り価格が高いままの再生可能エネルギーがあります。それが“バイオマス発電”です。バイオマスとは動植物からなる有機物で、食品、紙、木材など、プラスチック製品以外の有機物のほとんどがそれに該当します。植物は空気中の二酸化炭素を固定してできたものですから、利用後に分解されるとまた二酸化炭素に戻ります。その二酸化炭素は再び植物生産に利用されます。このようにバイオマスは再生可能な有機物であり、利用しても温暖化ガスである二酸化炭素は増加しないと考えられています。この考え方を“カーボンニュートラル”と呼ぶこともあります。バイオマス発電の材料には2種類あります。一つは固形物を熱源とする場合で、間伐材、農作物の茎、建設廃木材、剪定枝、パーム椰子殻などがあります。もう一つが今回紹介する“バイオガス(メタン発酵ガス)”です。これは動植物を微生物分解させた後に生成するガスで、メタンを多く含んでいます。メタンは天然ガスの主成分であり、都市ガスとしてなじみのある存在です(ちなみにカセットボンベの中身は液体ブタンです)。バイオガス中にはメタンが約6割、二酸化炭素が約4割含まれていて、熱量は低いですがボイラーや発電として利用可能な可燃性ガスです。このバイオガスを使って発電した電気の買取価格は39円/kWhであり、FIT制度ができてから変わっていません。そのため最近注目されるようになりました。

■メタン発酵によるバイオガス生産
メタン発酵とは、嫌気状態において微生物の働きによって有機物を分解する反応のことです。その分解は例えばでんぷんの場合、でんぷん→単糖→有機酸→酢酸と水素→メタンと二酸化炭素、となり、それぞれのステップで違った菌が分解を担当します。温度は37℃が適温で、人間の腸内と似た環境です。日本では40年以上前から下水処理場やし尿処理場で導入されています。かつては汚泥の減量化が目的であり、発生したバイオガスは発酵槽の加温に使われる程度で、後は燃焼させるだけでした。近年は注目されなくなって新規の建設が少なくなっていましたが、FIT制度で再び注目されるようになりました。例えば大学の近くでしたら2年生が毎年見学に訪れる、放出下水処理場や中浜下水処理場です。放出下水処理場では2017年から、バイオガスの一部を民間企業に売却しています。購入した民間企業は自分たちで発電機を設置して発電し、FIT制度を使って売電しています(大阪市ホームページ https://www.city.osaka.lg.jp/kensetsu/page/0000283106.html)。この施設では2500世帯での使用量に相当する発電を行うことができます(Daigasグループホームページ http://www.osakagas.co.jp/company/press/pr_2015/1223163_15658.html)。このような導入例は全国で進んでいます。一方、食品工場では大量の食品残さが発生します。神戸市にある食品工場では加工工程で発生した廃棄物や返品されてきた食品を対象にメタン発酵が行われています。このような施設は九州に多く、焼酎カスを対象にメタン発酵が行われています。また北海道では、酪農農家から発生する牛ふんを対象に行われています。生ごみもメタン発酵できます。奈良県生駒市では、くみ取りし尿や浄化槽汚泥を処理している施設にメタン発酵を導入し、そこに百貨店やスーパーで発生する生ごみを受入れています(ホームページhttps://www.city.ikoma.lg.jp/0000002315.html)。このような施設は「汚泥再生処理センター」と呼ばれています。かつては廃棄物の処理として用いられていたメタン発酵が、現在はエネルギーを生み出す施設として期待されるようになっています。
このようにエネルギーとして注目されているメタン発酵ですが、まだまだ身近な存在とは言えません。一番大きな問題は導入コストです。投入した廃棄物を分解するのに約30日間かかってしまうからです。そのため大きな発酵槽を作る必要があります。そこで、廃棄物に熱を加えたり破砕したりして、分解しやすい物質に変換する技術が盛んに研究されています。私の研究室でも前処理としてエタノール発酵を行う技術を研究しています(バイオサイクル研究室ホームページ http://www.oit.ac.jp/env/contents/labo.html)。目指しているのは地域社会になじめるコンパクトな装置です。例えばマンションや町内、またはショッピングセンターに設置して、そこで出た生ごみを処理して発電をするような仕組みです。電気がまかなえてごみも出なくなるような社会が作れたらいいなと思って取り組んでいます。

バイオガスの炎

実験用メタン発酵槽

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