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科研費 基盤研究(B) (2019--2023年度,課題番号19H01901)

  重力波データ抽出方法の開発:新たな解析手法および分散型コンピューティングの導入

  New directions in gravitational-wave data analysis: both in computing algorithms and hardwares including its outreach activities

2019年度,表記の科学研究費基金に採択されました.期間は5年.
本ページでは,概要について紹介します.研究成果はここ

構成メンバー

代表   真貝寿明 (大阪工業大学情報科学部)[researchmap], [研究室web]
分担   伊藤洋介 (大阪公立大学大学院理学研究科)[researchmap]
分担   高橋弘毅 (東京都市大学 デザイン・データ学部・
           総合研究所 宇宙科学研究センター)[researchmap]
分担   鳥居隆  (大阪工業大学R&D学部)[researchmap]
分担   西口敏司 (大阪工業大学情報科学部)[researchmap]
分担   島野顕継 (大阪工業大学情報科学部)[researchmap]

研究計画の概要

 本研究では,日本発の重力波データ解析法として,従来法では検出できなかった短時間で減衰する重力波の抽出や計算コストを低減する方法を開発し,実データ解析へと応用する.
 2015年9月に米国のLIGOグループは重力波の直接観測に成功した.その後,本日までに6例の重力波検出が報告されている.日本の重力波干渉計KAGRA(岐阜県神岡,プロジェクトPIは梶田隆章・東京大学宇宙線研究所所長)は,2019年度に本格稼働することが決定し,LIGOや欧州のVirgo干渉計との共同観測を開始する他にも,独自な解析や発見を行うことが期待されている.
 そこで,本研究では,(A)重力波の抽出・発見,(B)重力波源パラメータの推定,(C)計算資源の確保と3つの柱を設定する. より具体的には, (A)では,ノイズに隠された重力波信号を発見する方法として, 「自己回帰モデルによる波形抽出」と「疎性モデリングによるノイズ除去」の応用,(B)では 重力波波源のパラメータ推定に関する 「超フィッシャー解析」や「群粒子法」など新手法の実装,(C)では 分散型コンピューティング・システムの導入である.
 これまでの天文学の歴史を見ると,パルサーやγ線バーストの発見など,未知なる天体現象の発見が大きく我々の知見を広げた. 本研究は,未知の重力波を捉える方法開発にもつながる.また, 一般の方々の参画を可能にする分散型コンピューティングは, 科学のアウトリーチ活動にも大きく貢献することが期待される.

成果

成果一覧のページをご覧ください.

研究実績の概要(2019年度)

 本研究は「日本発の重力波データ解析法」の開発を目的として,(A)新たな重力波の抽出方法の開発,(B)新たな波源のパラメータ推定法についての手法提案, (C)分散コンピューティングなど計算資源の確保,の3つの柱を設定した.また,アウトリーチ活動も研究計画に含めている.初年度(2019年度)には,(A)に関しては,自己回帰モデル法・Hilbert-Huang変換法などの新たな手法を用いてノイズに含まれる重力波信号を抽出する手法を開発し,テストデータを作成して比較した.(A)(B)に関しては,独立成分解析法を用いたKAGRAの実データ解析を行った.いずれも原著論文として出版済み・掲載決定となっている.
 本研究代表の真貝は,2019年8月より日本の重力波KAGRAプロジェクトの科学部門の代表を継続して引き受けることになった.KAGRAは,米欧LIGO/Virgoの重力波プロジェクトと実観測・解析に関する協定に調印し,2020年2月末より実観測を開始した.重力波の実データ解析を行う準備が整い,本研究も予定通り新たな手法を応用する段階に入る.研究分担者の伊藤はKAGRAのバースト重力波解析の責任者として,高橋は3プロジェクト間のデータアクセス担当者として,日本の重力波プロジェクトの一翼を担うことになった.
 初年度の研究成果は,論文発表5,国際会議・研究会発表16,国内会議・研究会発表14,一般向け講演・講義18,専門書翻訳出版1,雑誌への寄稿1,取材協力1である.社会への成果還元については,個々の研究分担者が講演会や出張講義・解説文掲載などで多方面に展開しているが,2020年3月には,本研究代表が中心となって,KAGRA内で教育・一般アウトリーチ活動(EPO)グループを組織し,LIGO/Virgoとのリソース共有の合意を得た.我々のアウトリーチ活動は,米欧とも協調する道筋が整った.

研究実績の概要(2020年度)

2年目(2020年度)には,新型コロナ感染対策のため,多くの国際会議が中止され我々の行動も制限をうけ,国際会議前後に予定した海外研究者との実質的な議論の機会が先送りになるなど,研究の進捗に若干の遅れが出た.そのため,申請した研究費の一部は次年度繰越を行った.
 研究テーマのうち,「新たな重力波の抽出方法の開発」としては,Hilbert-Huang 変換を用いる重力波抽出,自己回帰モデルを用いた重力波抽出,独立成分解析を用いるノイズ除去などの新たな方法の実用化を進めた.また,納品に遅れが生じたものの分散コンピューティングのためのサーバ設置を終えた.
 本研究代表の真貝は,引き続き日本の重力波干渉計KAGRAプロジェクトの研究者代表として,共同研究者の伊藤と高橋と共に,米欧LIGO-Virgoグループとの共同研究体制の構築を先導した.2020年2月に観測体制に入ったKAGRAは,コロナ禍の制限を受けながらも4月にドイツGEOとの実観測を行い,第3期観測期間後半 (O3b)のデータ解析からは,LIGO-Virgoと共にデータ解析論文執筆に加わる体制をスタートさせた.また,一般相対性理論の検証実験としての光格子時計実験に加わったり,重力波研究のアウトリーチ活動の基本戦略設定などを進めた.社会への成果還元については,個々の研究分担者が講演会や出張講義・解説文掲載などで多方面に展開しているが,ノーベル物理学賞がブラックホールを対象に贈賞されたこともあり,活動の幅が広がった.2年目に発表した研究成果は,論文発表11,国際会議・研究会発表4,国内会議・研究会発表13,一般向け講演・講義14,図書出版(事典編集執筆)1,雑誌への寄稿2,取材協力1である.

研究実績の概要(2021年度)

 3年目(2021年度)も,新型コロナ感染対策のため,世界的な行動制限が続いた.多くの学会や国際会議が中止あるいはオンラインで実施されるなどして,海外研究者と新規プロジェクトが先送りになるなど研究遂行上,計画の変更が余儀なくされた.しかし,重力波の実データを用いた解析については,日本の重力波干渉計KAGRAプロジェクトと,米欧LIGO-Virgoグループとの共同解析が実質的にスタートし,2019年後半から2020年春までに取得された第3期共同観測後半(O3b)での科学の知見についての論文執筆を開始した.本研究代表の真貝は,KAGRAの研究者代表を2021年8月の任期満了まで務め,共同研究者の伊藤は引き続き連続重力波解析のKAGRA側代表として,高橋も引き続き連携コンピューティングのKAGRA側代表として重力波データ解析の要職を務めている.
 重力波データ解析の新手法開発については,Hilbert-Huang 変換を用いる重力波抽出法の実データへの応用,独立成分解析を用いるノイズ除去などの新たな方法の実用化を進めた.真貝は,アウトリーチ活動についてもLVKコラボレーションの代表の一人として,共同論文発表の度に,その要旨(Science Summary)を一般向けに発行する作業も積極的に行った.また,丸善社が発行する『理科年表』に重力波の項が新設され,真貝はその執筆を京都大・田中貴浩と共に担当することになった.
 3年目に発表した研究成果は,論文発表14,学会発表7(うち招待講演3/うち国際学会3),一般向け講演・講義9,図書出版2 (共著1,事典項目1)である.

研究実績の概要(2022年度)

 4年目(2022年度)は,秋以降に移動制限が徐々に解除され,国際会議などでの発表や対面での研究議論の機会がようやく復活するモードになった.日本の重力波干渉計KAGRAプロジェクトと,米欧LIGO-Virgoグループとは2023年5月より,第4期観測(O4)を開始することになり,研究代表の真貝は,観測開始時の重力波検出の判定を行う観測シフト体制のまとめ役となって,実観測時の対応や追観測する天文学者への情報公開手順などを取り仕切っている.共同研究者の伊藤は引き続き連続重力波解析のKAGRA側代表として,高橋も引き続き連携コンピューティングのKAGRA側代表として重力波データ解析の要職を務めている.
 2022年度は,LIGO-Virgo-KAGRAの共同観測チームとして,第3期観測(O3b)のデータ解析論文を共同執筆し,それらの毎週の議論の場に参加・査読の引き受け・一般向けの要旨(Science Summary)の作成などを精力的に行った.さらに,次期観測に向けての新たなデータ解析の手法の開発を進めた.Hilbert-Huang 変換を用いる重力波抽出法は論文投稿,自己回帰モデルを用いた重力波抽出は学会発表,独立成分解析を用いるノイズ除去などの新たな方法の実用化を進めている.また,アウトリーチについては,O4に向けての情報発信を中心に活動した.
 4年目に発表した研究成果は,論文発表13,学会発表15(うち国際学会6),一般向け講演・講義2,図書出版2 (単著1,事典項目1),雑誌執筆1,雑誌編集協力3である.

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重力波データ解析に関する研究の成果報告

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