環境共生できる技術者マインドをはぐくむ「淀川学」

大阪の産業・経済と深く関わる淀川

淀川は、大阪工業大学大宮キャンパスの最も身近にある自然です。水源となる琵琶湖から大阪湾まで約75kmの流路には、日本最多となる965本もの支流が注ぎ込み、巨大な淀川水系を構成しています。
大阪は、古代から現代にいたるまで、この淀川からさまざまな恩恵を受けて発展してきました。私たちの命に欠かせない“飲み水”や工場・田畑で使用する“工業用水”“農業用水” としての役割、また商業や交通の“水路”としての機能など、“水の都”たる大阪のまちや人々の営みと淀川の関係を振り返ることは、人間と自然の多面的で複合的な関わりを探るうえで、このうえない事例となります。
現代の工学は、地球環境に配慮することが常に求められます。つまり、自然環境との共生をはかり持続可能な社会を実現できるエンジニアとしての素養を身につける。そのためには“淀川”というもっとも身近な環境から考えよう。OIT工学部の全学生が淀川学を学ぶ意味は、ここにあります。

自然に対して影響を与える人間の営み

淀川では2000年頃からウォーターレタス(ボタンウキクサ)が大繁殖し、大きな問題となったことがありました。ウォーターレタスは外来種で、本来なら淀川の水温では越冬できません。しかし、淀川上流に隣接する池に半導体工場から温排水が流れ込み、その池で冬を越したウォーターレタスが淀川に流出していたのです。ところが2009年、このウォーターレタスは急激に減少します。確かに、外来種を駆除する行政の取り組みが功を奏したこともありました。けれども大きな理由は、2008年秋のいわゆる「リーマンショック」にありました。世界的に景気が急激に悪化したため、やがてその半導体工場の操業も落ち込み、池に流入する温排水の量が大幅に減っていたのです。
経済という人間の営みが、思わぬ形で自然環境に影響を与えた一例です。

環境負荷の少ないものづくりへの視点

人間の営みは、自然に対して無意識的に手を加えてしまいます。ただし手を加えると、その程度に応じて、自然やそこに棲む生物に影響が現れます。
また、人間は自然を完全に制御することはできません。人間が手を加えた自然の変化が、逆に人間の生活に大きく影響を与える場合もあります。このような視点を、人間は日々の社会的営みのなかで忘れてしまいがちです。
OIT工学部の淀川学は、世界各国で実践されているESD(持続発展教育)、すなわち「一人ひとりが、世界の人々や将来の世代、また環境との関連のなかで生きていることを認識し、行動を変革するための教育」です。
身近な自然と直接ふれあいながら、自然の大切さを理解し、環境負荷の少ないものづくりを実践するエンジニアとしてのマインドを培います。

複合的視野を持つ環境マインドあふれる技術者へ

淀川学は、多岐にわたる専門分野を持つOIT工学部教員集団の一丸となった取り組みです。
1年次に工学部学生全員が履修する「淀川と人間」は、人文社会科学から自然科学までのさまざまな観点を取り入れた文理融合科目です。淀川と人間の関わりについて教室で多面的に学ぶだけでなく、淀川の河川敷や堤防での実地観察も取り入れながら、環境共生や持続可能性を考え、行動するきっかけを学生に与えます。
2年次の「淀川と環境」では、自然と共生するものづくりの視点を盛り込み、工学諸分野の専門的かつ先進的な内容にさまざまな角度から踏み込みます。
淀川が大阪湾を経て世界の大洋へと注ぎ込むように、OIT工学部の学生が淀川に隣接する本学の立地を最大限に活かしつつ、地球規模へと広がる豊かな視野を養いながら、環境共生への意識を身につけること。それが、淀川学の最大のねらいです。