知的財産学の学びの対象と得られる能力

 「知的財産学」とは、「法律・経済・技術・文化・国際などの多様な観点から、社会にとっての知的財産の価値を考察するとともに、その社会的価値から生じる利益を知的財産の創出者、保有者及び利用者が享受する法律的及び経済的な仕組みについて考察する学問」です。

 学びの対象の一つは「知的財産」であり、もう一つは「知的財産制度」です。そして知的財産学を学ぶことを通じて、法律、経営、自然科学、語学などの様々な領域の知識と能力を得ることができます。

1.知的財産学における学びの対象

(1)「知的財産」について学ぶ

 「知的財産」とは、「社会にとって経済的、精神的又は文化的な価値を有する情報」のことです。典型例は、①発明、デザイン、著作物などの「知的創作物」、②商標や地理的表示などの「営業標識」、③営業秘密やビッグデータなどの「有用事業情報」です。

 本研究科の学修過程では、知的財産の社会的価値について考察し、知的財産の価値を高める方策や価値が高い知的財産を創出する方策などについて学びます。

(2)「知的財産制度」について学ぶ

 「知的財産制度」とは、「知的財産の社会的価値から生じる利益を知的財産の創出者、保有者及び利用者が享受する法律的及び経済的な仕組み」のことです。

図:知的財産制度(法律的及び経済的仕組み)

①知的財産制度の法律的な仕組み

 知的財産制度における「法律的な仕組み」は、知的財産法で構成されます。知的財産は無形の情報であるため、有体物の財産と違って他人に無断利用されやすい性質があります。したがって、有体物の財産と同じように知的財産に基づいて金銭的利益を得るためには、知的財産法が必要不可欠です。知的財産法は、特定の知的財産に対して法律上の財産権を与えることにより、知的財産の保有者がその知的財産から金銭的利益を得ることを可能にするからです。

 本研究科の学修過程では、特許法、実用新案法、意匠法、著作権法、商標法、不正競争防止法などの主な知的財産法について学びます。また、外国の知的財産法や知的財産に関する国際条約についても学びます。

②知的財産制度の経済的な仕組み

 知的財産制度における「経済的な仕組み」には、知的財産自体の取引から利益を得る第一の経済的仕組みと、知的財産を利用した事業から利益を得る第二の経済的仕組みの2つがあります。

 グーグル社が運営するユーチューブ事業を例に取ります。ユーチューバーは、自身の知的財産である投稿動画をユーザーに視聴させ、その対価をグーグル社から得ています。このように知的財産それ自体の取引から利益を得る仕組みが、第一の経済的仕組みです。

 他方、グーグル社は、自社のプラットフォームビジネスを支える要素の一つとしてユーチューブ動画(知的財産)を利用し、事業収益を得ています。グーグル社の主な事業収益は顧客企業からの広告収入ですが、グーグル社と顧客企業との間では知的財産自体の取引はされていません。すなわちグーグル社が顧客企業から利益を得る仕組みは、第一の経済的仕組みではなく、知的財産を利用した事業から利益を得る第二の経済的仕組みに該当します。

 他の例では、製造企業が自社の特許権を他社に有償で実施許諾することは第一の経済的仕組みに該当し、自社の知的財産である発明を利用した事業から利益を得ることは第二の経済的仕組みに該当します。

 第二の経済的仕組みの基礎には企業の事業があるため、第二の経済的仕組みを理解するためには、企業の経営戦略、事業戦略、マーケティング戦略及び研究開発戦略を理解することが必要になります。

 本研究科の学修過程では、比較的単純な第一の経済的仕組みだけでなく、より複雑な第二の経済的仕組みについても深く学びます。

2.知的財産学の学びを通じて身に付けられる専門的又は汎用的な能力

 知的財産学は、専門性が強い学問であると同時に、法学、経営学、自然科学、語学など幅広い学問領域にまたがる学際的な学問でもあります。したがって、知的財産学を学ぶことを通じて、下記のような「専門的かつ幅広い能力」を身に付けることができます。学習者の皆さんには、こうした能力を身に付けることを意識しながら知的財産学を学ぶことが期待されます。

(1)専門的な知識とスキル

①知的財産の価値を理解する力
②法律を使いこなす力
③経営や事業の知識と実践力
④契約の知識と契約交渉のスキル
⑤発明の技術的内容を理解する力
⑥情報を検索し分析する力
⑦専門分野の英語のスキル
⑧経済社会の動向を見通す力

(2)汎用的なスキル

①社会的利益と私的利益のバランス感覚
②論理的な思考力と合目的的な実践力
③複眼的なものの見方

身に付けるべき基本的素養の詳細については、以下のファイルの第4章(11~22頁)をご覧ください。(リンク先は該当頁にジャンプします。)

知的財産学における教育課程編成上の参照基準(第4章)