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科研費 挑戦的研究(萌芽) 採択 (2019--2022年度,課題番号19K21621)

2019年度,表記の科学研究費基金に採択されました.期間は3年.(コロナ禍でフィールドワークが十分にできなかったため,4年目延長申請が承認されました)
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本ページでは,目的,着想にいたった経緯などについて紹介します.成果はこちら

構成メンバー

代表   真貝寿明 (大阪工業大学情報科学部)
分担   松浦清  (大阪工業大学工学部)
分担   塚本達也 (大阪工業大学工学部)
分担   鳥居隆  (大阪工業大学R&D学部)
分担   横山恵理 (大阪工業大学情報科学部)
分担   米田達郎 (大阪工業大学工学部)
協力   井村誠  (大阪工業大学知的財産学部)

研究計画の概要

 我々は,『天文文化学』と呼ぶ新たな学問を創設する.あえて分類するのであれば,文系・理系の垣根を越えた,広い意味での文化史と科学史の融合を目指す複合領域である.研究対象は,「天文」を軸に据えた時間と空間への意識,それらに基づく絵画や造形物など人間が生活の中で作り出したあらゆる文化遺産とその創作活動全般に渡る.
 天文現象は文明の誕生以来,生活に密接に結びついた知識として実用的な学問を成立させ,生活を精神的に支える宗教を創出し,生活に潤いを与える多くの芸術を生みだしてきた.一方で,現代の学問としての天文学は,細分化されて専門的知識をもたない素人には縁遠く,一部の専門家の純粋に知的な興味の対象として特化してしまった面もある.
 そこで,文理にまたがる専門家集団を組織して,人間の文化的活動に注目し,人々の探求心や文化伝承を民俗的および科学的な視点から取り上げる.多角的な視点をもった異分野融合の研究スタイルは,先入観のない発想と身近で総合的な考察を可能にする.こうした融合研究を通じて,再び「天文文化」を一般の方も含めた我々の手に取り戻し,「われわれが何者であり,何処に進むのか」という本質的な課題に1つの指針を与えたい.
 本研究計画は,申請者らがこれまで研究会として11年続けてきた活動を全国規模にシフトするものであり,研究成果を一般の方々へのアウトリーチに結びつけることも視野に入れる.

研究の方法

 「文化」を考究するには複数の観点が必要である.mandara 例えば,江戸時代の司馬江漢や平賀源内といった知識層が多分野にわたって活動をおこなっていたことを考えると,それらの創作物に対する分析には,複数の研究分野からの視点が必要となる. そこで,本申請は文系理系の異分野を専門にする6名で構成し,1つの研究テーマを複数で分担しながら,議論を進展させていく. そして,年に2回ほど研究会を開き,興味ある全国の研究者も巻き込む形で,学問分野の形成を図っていく.研究申請する6名の研究者の専門と融合のイメージを曼荼羅風の右図に示す.

着想にいたった経緯

 近年,ビッグ・ヒストリー(Big History)をキーワードに,宇宙開闢以来の長い年月と人類の歴史を融合し,一貫した時間の流れの中で人間を捉え直そうとする試みがある.従来,宇宙の歴史は天文学者や物理学者が研究する領域,人類登場以前の地球の歴史は地質学者や古生物学者,文字のない時代の人類の歴史は考古学者や文化人類学者,文字を手にした後の人間の歴史は歴史学者や文献学者の領域等の漠然とした区分けがある.学問領域の設定と変遷を歴史的な必然性から考察すれば,その設定に一定の合理性を認めることはできる.しかし,学問領域の細分化と専門化が極度に進んだ現代では,本質的な課題が分かりにくくなってしまった感がある.この反省のもとにビック・ヒストリーが注目されているが,残念ながら,その問題設定は茫洋としており,困惑せざるを得ない.
 そこで,問題設定をもう少し限定することを提案したい.天文現象は人類の誕生以来,生活に密接に結びついた知識として実用的な学問を成立させ,生活を精神的に支える宗教を創出し,生活に潤いを与える多くの芸術を生みだしてきた.歴史的な側面から文化に焦点を絞って天文を理解しようとするとき,宇宙と人類の茫洋とした関係は具体的な物証を伴って理解する方向性を見出す.その物証とは,絵画や文字や数式などの文化遺産である.それらを,異なる研究領域の研究者同士が既存の研究領域の枠組みを超えて,情報交換しながら研究交流することができれば,天文と人間の関わりを複眼的に,また真に総合的に理解する可能性が広がると予想される.そこで,各研究者が文化遺産としての各種物証を研究素材として共有し,異なった視点によって考察する新たな研究領域「天文文化学」の創設を提案するに至った.ここでの知見は,われわれが何者であり,何処に進むのかという人間の本質的な課題に明確な指針の一つを提示できるものと考える.

成果

 成果ページをご覧ください.

研究実績の概要(2019年度)

 「天文文化」をキーワードにした文理融合研究を進め,広く社会へ還元することが本研究の目的である.令和元年(2019)7月に本研究申請の採択を受け,ただちに,目的や方向性をアナウンスし,研究活動を公開するホームページを開設し,随時更新して社会への発信体制を整えた.
 研究方針や戦略を広く議論するための研究会を企画した.初回は,(これまでの研究会を継承して)第18回天文文化研究会と銘打ち,10月26日-27日に大阪工 業大学梅田キャンパスにて実施した.招待講演者2名を含み20名の方の参加を得た.また,本研究課題の研究分担者も研究の現状についての報告を行った.資料 等はホームページに記録している.研究会は2020年4月にも開催する準備を進めていたが,コロナ感染症拡大予防のため中止せざるを得なかった.
 研究成果は,論文発表1,研究発表2(上記研究会は除く),一般向け講演・講義18,専門書翻訳出版1,雑誌への寄稿1などとなっている.また,研究発表の方法として,個々の研究についての論文とは別に,この分野の把捉となる本(仮題「天文文化研究」)を思文閣出版より出版することになった.賛同された20 数名の研究者には2020年度中に原稿提出・初校終了までのスケジュールにて進めることで内諾を得ている.
 社会への成果還元については,個々の研究分担者が講演会や出張講義・解説文掲載などで多方面に展開しているが,本研究成果を最終年度には企画展として展 示することを目標に準備を進めている.

研究実績の概要(2020年度)

コロナ禍で対面での研究集会を避けざるを得ない状況になったため,オンラインによる研究会開催を試み,9月5日と12月5日に天文文化研究会を開催した.それぞれ招待講演2+3,その他講演2+4,参加者は35名+30名と,いずれも昨年度を上回る数字になり,裾野が広がりつつあることを実感している.研究成果は,論文投稿中1,書籍出版3,メディアへの登場3,一般向け講演・講義14,雑誌への寄稿1などとなっている.また,研究発表の方法として,個々の研究についての論文とは別に,この分野の初となる本(仮題「天文文化研究序説」)を思文閣出版より2021年12月に出版する.また,日本天文学会の会員誌「天文月報」より,本科研費の活動についての紹介記事執筆依頼があり,2021年8月号掲載予定で準備中である.
 美術史の視点,科学史の視点による研究活動を本格化させた.例えば「志筑忠雄が取り組んだケイルの物理学書の位置づけ」「久保田桃水 雪之図 の構図に見る時間解釈」「明治維新直後の窮理熱」などの新たな研究に着手した.また,天文に関わる中世ヨーロッパで作られた天体観測用のアストロラーベの複製品制作も始めた.社会への成果還元としては,個々の研究分担者が講演会や出張講義・解説文掲載などで多方面に展開しているが,本研究成果を2021年12月には企画展として大阪工業大学梅田キャンパスにて研究の趣旨に沿った博物館的な展示を行う予定である.

研究実績の概要(2021年度)

本年度は,7月5日と12月5日に,対面+オンライン形式での研究会(天文文化研究会)を実施した.それぞれ招待講演3+3,その他講演8+4,参加者は38名+45名と,昨年度より盛況になった.日本天文学会の会員誌「天文月報」2021年9月号に,本研究に関わる4名が共著で本プロジェクトの概要と研究を紹介する報告を掲載させていただいた. また,申請時の研究計画通り,この研究分野を広くまとめた本『天文文化研究序説-分野横断的にみる歴史と科学』 を思文閣出版より2021年12月に出版した(ISBN 978-4-7842-2020-5).著者13名による論考集で394ページのものである.これらを含め,研究成果は,論文4,書籍出版1,一般向け講演・講義11,雑誌への寄稿1,メディアへの登場4 などとなっている.社会への成果還元としては,個々の研究分担者が講演会や出張講義・解説文掲載などで多方面に展開しているが,本研究成果を2021年12月に4日間にわたり企画展として大阪工業大学梅田キャンパスにて博物館的な展示を一般向けに行った.その詳細は,ウェブページにてご覧いただける.そこでは,現在進行中の研究課題「室町時代 法輪寺の明星信仰」「南方熊楠のネイチャー論考に見られる星宿の語彙 」「窮理熱:明治初期の窮理書ブーム」「アストロラーベの機能と構造」なども紹介している.コロナ禍で移動が制限されたため,計画していたフィールドワークが未完成である.そのため,本研究は1年間の継続延長を申請し,承認されている.

研究実績の概要(2022年度)

コロナ禍で1年の継続延長を行った本年度は,萌芽的研究を次のステージへとつなげる年度とするような活動を念頭に置いた.軸となる天文文化研究会は,6月19日と1月21-22日の2回に,対面+オンライン形式で開催した.研究発表数は,それぞれ招待講演3+3,その他講演7+4で昨年と同程度であったが,参加者は56名+67名と,単調増加を続けている.コロナ禍が一服した1月の研究会では,鹿児島と韓国から講演者を招待し,新たな研究テーマの議論を展開することができた.計画していた本研究テーマのなかで「近代日本・日本人の科学に対峙する姿」「中世文学・絵画に登場する星・月の描写」など研究分担者間で接線をもちつつ相互に進展が見られるもの,あるいは研究会を通じて得られた人脈を用いて「天文学がアジア圏文化に及ぼした影響」など次の研究へ新たな計画を議論する段階へと進みつつある.本年度の研究成果は研究報告6本,学会発表2(1つは招待講演),解説文掲載2本,一般向け講演15となった.
本年度もコロナ禍で移動制限がかかり,予定していたフィールドワークは十分には実施できなかったが,文理融合の素地を固めることはでき,また,本研究分野を研究者間に認知していただくことが相当程度できたと考えている.したがって本研究の当初計画は達成したと考えている.我々は,今後も「天文文化学」を継続して進めていくことを計画し,発展的研究課題やデータベース構築計画・定期的なアウトリーチ活動計画を含めて挑戦的研究(展開)分野に申請中である.

おまけ

「天文文化学の目指すもの 理系出身者の視点から」[pdf](編集中の本の原稿見本)
『「天文文化学」創設の試み』日本天文学会誌「天文月報」第 114 巻 (2021) 第 9 号 p573-582 pdf

補助事業期間終了後の研究成果報告書

オフィシャル報告書+4ページ版 pdf
8ページ版 pdf

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